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いじめっ子の聖女転移
しおりを挟む高橋タカシは学校一の暴君で、誰も逆らえないいじめっ子だった。背が高く、ガタイがよく喧嘩も強かった。顔はそこそこ良いので女の子たちからもモテて、先生たちからは恐れられ、彼を止める人は誰もいなかった。そんなタカシの日常は突然終わりを迎えた。
雨の日、スマホを見ながら帰り路を歩いていると足元にはふたの外れたマンホール──画面に夢中のタカシは気付くはずもなくそのまま落下した。目が覚めると白のローブをかぶった大人たちに囲まれており、何かを叫んでいた。
「魔力量……測定不能です!」
「おお……これは聖女の兆候だ。歴代最高値の魔力量だ」
状況が飲み込めず、そのままつれられた豪華な部屋で召喚されたという説明を受けた。だが、一般人としてではなく聖女として特別措置の対応で望みをできる限りかなえられると聞き、ニヤリと笑う。
「力があるならなんでもいいよ、好き放題させてもらうけどな」
廊下を歩くだけでほとんどの人が頭を下げる優越感に浸っていたが、彼はまだ知らない。歴代聖女最高の魔力量を持つことで聖女に最も近い存在として扱われているだけで、正確にはいまだ聖女ではない。その聖女になるために努力している人間が彼のほかにも候補として何人もいることも。タカシの魔力量は高かったが、転移の一時的なものであり、永続的なものではなかった。
◆
豪華な私室を与えられ、服も食事も最高級のもので、侍女たちが身の回りの世話をすべてこなしてくれる。多少手を上げようが、抵抗することなく受け入れるだけだった。いじめっ子の彼にとってはこれ以上ない優越感と快感で数時間前までいた現実などとっくに忘れてしまっていた。
それから数週間、タカシの横暴は魔力を持ったことによりエスカレートしていた。宴の席では身分関係なく公然と容姿を侮辱し、想像だけで「戦が弱そう」「俺の方が賢い戦略を立てられる」など彼らにとってこれ以上ない暴言を吐きだしていた。聖女というだけで逆らうことはできず、彼らはただタカシのいないところで空に八つ当たりするしかなかった。
「聖女は神の化身であるはずでは?」「あれはただの欲にまみれた暴君だ」など噂が出回るのは当然の結果だった。
「聖女様、本当にこのままでよろしいのでしょうか」
「はあ?何が」
「……このままでは聖女としていられなくなります。勉強や祈りに時間を割くべきでは」
一言、苦言を呈したのは側近の護衛としてついていた騎士団副団長アレクだった。聖女の横暴な態度に辟易し、止めることもかなわない自分の無力さに憤っていた。
少しでも罪悪感を覚えているようならもう少し様子を見て大人として導いてやろうと思っていたが、返答は予想通りのものだった。
「はあ?なんで俺がそんなめんどくせぇことしなくちゃいけねぇんだよ」
「……そうですか」
アレクの進言により、王宮の中の現聖女排除の動きは加速した。本人には伝えていなかったが日に日に減るタカシの魔力量、それに反して育ってきている他の聖女候補。どちらを神聖な神の化身として扱うべきか火を見るよりも明らかだった。タカシだけが、何も知らなかった。
◆
「その者を辺境の地、ドルザークへ追放とする」
「ふざけんな!俺は聖女だぞ!」
「魔力量も底をつき始め、民への横暴な言動、見過ごすことはできん」
「うるせぇ!さっさと部屋にかえせ!」
王へとびかかりそうになるタカシをアレクは背中からのしかかり動きを封じた。じたばたと全力で暴れるタカシだったが、毎日鍛錬を怠らない騎士アレクにとっては子供の癇癪程度の抵抗だった。
「俺は特別……聖女なのに……」
辺境の地へと向かうタカシは魂が抜けたかのようにブツブツと独り言を言うだけの抜け殻になっていた。特別、優越感、そんな言葉がタカシの心のよりどころだったのかもしれないな。と同じ馬車に乗るアレクは思った。大人のように見えてもしょせん心はまだ未発達の子供、少しだけ罪悪感にさいなまれたが今更どうすることもできない。せめて辺境の地で平民と同じような生活を送って改心してくれることを願うばかりだった。
その後、聖女と成ったのは神の化身にふさわしい者だったらしい。タカシの悪行を反面教師として語り継がれ、国の繁栄は続いた──。
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URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/937590458
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