龍に護られし者

雨宮 碧波

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覚醒編

運命の時に身を委ねよ 01

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 ここがどこなのかも解らないまま、竜牙りゅうが龍輝たつきは、雨の中を走っていた。
「あの子供、どこに消えた!?」
 背後から怒声が響く。
怖くて怖くて、龍輝は思うままに走る。
早く、ここから離れなければ。殺される。
どうして、そう思ったのか。どうして、逃げているのか。
そんな事、考えている暇もなかった。
逃げなきゃいけない。それを、望む人がいる。
それは、誰ーーー ?



目を開くと、空が夕日色に染まっていた。
いつの間に眠ってしまったのか、龍輝は考え込んでしまう。
手元にあるのは、三者懇談について、保護者に渡さなければならないプリント。
そうだ。今年も、これがあるんだった。
「……… 家族なんて…… いないのに……」
保護者と呼べる存在なんて、龍輝は知らなかった。
周りの同級生たちには当たり前に存在する親が、龍輝にはいない。
物心がついたその時から、家族と呼べる存在すらいなくて、保護者代わりの人がいるが、その人に渡すわけにもいかなかった。
もう、高校生なのだからいい加減、離れなければならない。
だから…… 。
「あ……」
プリントはもう一枚存在した。
それは友人であり、学校一の不良として名を轟かせる、須佐野すさの龍一りゅういちのものだった。
もう一度、空を確認する。
ーー 空が暗闇に……。
言葉が頭によぎる。それがなんなのか、忘れてしまった。
龍輝は、龍一にプリントを渡すために、教室を飛び出で走り出す。
周りの人に、稀有な瞳で見られるのが嫌だから。だから、早く教室から出たかったのもあったのかもしれない。
一人はとても怖くて、孤独は嫌い。でも、周りにいる人も怖い。
気持ちが空回りして、友達なんて龍一以外、出来た事が無かった。
「あれ、龍一君?」
いつの間に保健室についたのだろう、無我夢中に走っていて気づかなかった。
だが、保健室には誰もいない。担当職員である、月谷つきや輝将てるまさすらいなかった。
「龍一君! 月谷先生!!」
二人の名前を叫ぶ。
不意に、保健室の窓の外を見てしまう。
ギラリとぎらつく赤い瞳。
「え?」
それは、ただの瞳ではない。目の玉だけが宙に浮いている。
「ひっ!」
声が出そうになった時、誰かに口元を抑えられた。
「んー! んー!!」
ジタバタと暴れるが、たくましい腕はびくとも動かない。
その時、耳元にそっとつぶやかれた
「静かにしろ」
その声は、とても安心できる声。そうだ、龍一の…。
「良いか。俺が合図をしたら、一気に走れ。そしたら、後ろを振り向くな」
「でも……」
「わかったな!!」
強めに言われて、龍輝はただ、頷くしかなかった。
「よし、大人しくしてろよ」
そう、龍一に言われて、また頷いた。
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