塔の上で会いましょう

きどうかずき

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番外編

初めての話 -3

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 ベッドへ仰向けに寝転がったセファはバスローブの前を緩く開く。
 気恥ずかしくて未だにベッドの上へ座ったままのウィルバルドへ手を伸ばせば、彼はシーツへ手をついてすぐ近くまで寄ってきた。
「なんだってまたシャツを着てるんだ」
 黒いシャツの胸元を掴んで顔をもっと寄せてセファは言う。ウィルバルドを浴室へ放り込んだときにバスローブも入れておいたのに、風呂上がりの彼はこの家に来たときと同じ服装でセファの前へ現れた。
「作法が分からずに、その……」
 大方予想通りの返答に笑い声を漏らしながらプチプチとボタンを数個外す。
 騎士らしい鍛えられた胸元へ手を滑らせればしっとりと上気した肌から熱がセファまで伝わった。
「袖のボタンも外そうか?」
 セファが意地の悪い声で言えば、的確に汲み取ったらしいウィルバルドが片方ずつ手を伸ばしてきた。

 ウィルバルドを揶揄って満足したセファは覚悟を決めて自分の下半身へ手をやる。
 先ほど彼は『清浄』と『潤滑』の魔術をかければいいと言っていた。
『清浄』の魔術は元々旅の身で体の汚れを落とすために開発されたもので、魔術師ならば自分の魔術と少しの集中力があればできる。一般の者でもこの魔術をかけたブラシやタオルを使用すれば汚れを落とせるという案配だ。『潤滑』も頻度こそ少ないものの生活魔術の一種だ。
 こんな使い道があるとは他の魔術師は知っているのだろうか。セファ以外の魔術師は騎士や他の者とも友好的だから知っているかもしれない。
 明らかに思考を逸らしていることを実感しながらセファは魔術を編む。
 布の下に隠した性器とその奥の孔を対象に『清浄』の魔術をかける。合わせて『潤滑』も使ってみるが、ほぐされていない隘路に入れられる液体は限られる。
 指一本なら入るくらいにぬめりを加えるのが精一杯で、セファは傍らにいるウィルバルドへ泣きついた。

「すまない、これ以上入らない」
「指を入れてもいいですか?」
 先ほど魔術で作った潤滑剤が中からどろりと出てくるのが奇妙でセファは頷いた。
 くぷぷ、とウィルバルドの指がセファを侵略する。
「こちらも触っていいですか?」
 緩く勃ち上がりかけているセファのペニスをなぞられて、中で指がうごめく違和感と性器への直接的な刺激が合わさってセファは身悶えする。
「んっ、気持ちいい……」
 はしたなく感じてしまうことは見苦しくないだろうかと躊躇う気持ちもあるが、セファが密やかに声を漏らす度にウィルバルドがゆるゆると目を細めてくれる。気持ちがいいことを伝えれば褒めてくれると理解してしまったセファは与えられる快感に夢中になった。

 ウィルバルドの大きな手は片方で屹立を扱き、もう片方でセファの後ろをほぐす。ベッドへくてりと横たわったセファは、バスローブの前を完全に開かれて筋肉の薄い貧相な肢体を無防備に雄の前に晒す。
 背中を反らし快感を逃がして僅かな抵抗をしていたセファは、自分を弄ぶ手が未だに衣服をまとっていることに気付いて僅かに上体を起こした。
 セファはもう身に纏った布はないに等しいのに、脚の間にいるウィルバルドは違う。セファを気持ちよくしてくれる指へ軽く触れれば、焦った様子で手が止まった。
「痛いですか?」
 ボタンは先ほど戯れに全部取ってしまったが、未だに彼がシャツを羽織っていることが不満なのだ、とセファはもどかしくなる。
 下にいたってはボタンの一つも取っていない。どうやら盛り上がっていることは分かるが、セファばかり何もかもさらけ出しているように感じる。

「――これ、脱いで」
「……我慢できなくなるので許してください」
 手を止めてこちらを窺う男の纏っている布を、緩慢な手つきで引っ張ってねだる。
「君が遠くて寂しいからシャツだけでいいからちょうだい」
 ベッドに寝転がったセファと、セファの脚の間へ陣取ったウィルバルドでは遠すぎる。触れる面積が少なくて、この半日ですっかり甘やかされることに慣れてしまったセファの身体は寂しくてたまらない。
 数拍の沈黙のあと眉をしかめたウィルバルドがシャツを脱いでセファに渡してくれた。
「ん。ありがと」
「続き、しますね」
 何かを押し殺したような声でウィルバルドが再開を告げた。

 先ほどまで一本だけ出し入れされていた指が二本、三本と増え再度セファの中へ侵入してくる。ペニスへの愛撫はもういいと考えたのかセファが腰を引きそうになった時に触れられるだけだ。
 直接的な快感がない分、自分の後孔がくちくちと音を立てている様子を認識してしまいセファはいたたまれない心地になる。
 もらったシャツを掻き抱いてウィルバルドの匂いに顔を埋めて声も丸ごと布地に吸わせる。痛みや快感よりも違和感の方が強い動きに耐えていたその時、ウィルバルドの指がセファの中の一点を掠めた。
「ひぁっ、」
 明らかに声色の変わったセファの反応にウィルバルドは少しだけ安心したような顔をした。
「男の人でも中に気持ちがいい場所があるそうです。セファ様はここなのですね」
「んっ、あっ…、喋りながら、っ触るな」
 かぱりと広げた脚をびくびくと跳ねさせて言うが強制力なんてあるはずがない。
 そんなことくらいセファも分かっているがどうしようもなくてウィルバルドへ助けを求める。だというのにウィルバルドはセファが反応した場所をゆっくり擦ったりとんとんと優しく叩いたりと意地悪ばかりする。

 後頭部をシーツへこすり付けて身悶えるから、ウィルバルドが綺麗だと褒めてくれた髪がぐちゃぐちゃに乱れているのが分かる。
 セファの中のおかしな場所はウィルバルドに触れられる度に反応して条件反射のように腰が跳ねておかしな声が出る。好き勝手に裏返った声を出す口をつぐもうと唇を噛めば、叱るように前の屹立を強めに扱かれる。
「どうぞ声を我慢しないでください」
 貴方が痛がっても分からないでしょう? そうウィルバルドは続けた。
「んっ、驚いただけ、だから……。ウィルバルド、こっちに」
 シャツを囲っていた両腕を解いてウィルバルドの方へ伸ばす。抱きしめてキスしてあやしてほしくてたまらない。
 この少しの時間ですっかり身も心も開かれてしまったセファは、自分を苛んでいた張本人だが同時に全ての望みを叶えてくれるであろう相手へと縋る。

 ウィルバルドはセファの仕草に融けた目を向けてぐっと近づいてくる。
「もう寂しくないですか?」
 そう言いながら、セファがもはや指の端だけで掴んでいたシャツを緩く引かれる。黒くて仕立てのいいシャツはセファが好き勝手握ったから皺が入ってしまった。
「……シャツ、皺になってしまったな」
「またアイロンでも何でもかけますから大丈夫です」
 手を離すと途端にシャツは回収されて傍らに置かれる。セファの両の手が寂しくなって彷徨うが、目の前にいるウィルバルドこそが待ちわびた本物だ。幼子のように両腕を伸ばしてウィルバルドを引き寄せた。

 近付いたウィルバルドが、セファの背中の方へ腕を入れて上体を持ち上げる。流れるような動作で起こされて、乱れていた髪が横へ流された。
 ウィルバルドの脚へまたがるような形になって、セファの方がウィルバルドを見下ろす。
「邪魔か?」
「いいえ、セファ様が動き辛そうにされていたので」
「ん。そうか、ありがとう」
 啄むような可愛らしい口付けの合間でゆるゆると言葉を交わす。深くならない触れ合いに焦れてセファはそっと囁いた。
「ウィルバルド。口、開けて」
 ウィルバルドはきょとんとした顔で口をぱかりと開けた。
 どうやらセファが何故開けてほしがったか分かっていないような仕草に意表を突かれ、セファは笑い声を漏らしてしまった。

 そのまま見下ろした分厚い舌を摘まんでみれば益々不思議そうな顔になる。
「ふふ、そんなに開けなくていいのだけど」
 柔い部分を無防備に晒してくる様子にぞくぞくしたセファは、摘まんだままのウィルバルドの舌を外へ引き出す。抵抗することなく出て来た舌に、セファのそれを合わせた。
「んっ、気持ちいいか……?」
 水音と共に粘膜同士が絡み合う。
 ウィルバルドの舌を掴んでいた指を引き抜き、より交わりを大胆にさせれば、ざらざらとくすぐったい感触が段々快感を伴ってくる。

 ウィルバルドは最初こそ目を丸くさせていたが、セファが舌を絡めたり甘く噛んでみたりと動けばなぞるように同じ動きをした。
「セファ、様……。ドロドロになりそうです」
 キスを止めて僅かに身を離したウィルバルドが言う。とろりと溶けた目が快楽に浸っていることを教えてくれて、セファは我慢できずにもっと身を寄せた。
 セファのバスローブはもはや腕に引っかかった布切れ以下のものに成り下がり、ウィルバルドの鍛え上げられた上体と剥き出しのまま触れ合ってしまう。お互い快感に上気し、びくびくと不規則に震えて肌と肌が擦れ合うことに煽られた。
「もっとドロドロになろうか?」
 半開きにした口から小さく舌を覗かせると、まるで飢えた犬のようにウィルバルドも舌をべろりと出す。
 期待を隠さず見上げてくるウィルバルドの素直な行動を、「いい子」と褒めてやってから両頬へ手を添える。褒美を与えるように二三回舌を触れあわせていると、横へ流していた髪が枝垂れのように落ちてきた。髪を上げる暇さえ惜しくそのままにして、セファは自分とは異なる分厚い舌を舐めて擦って存分に味わった。

 唇の快感を分け合っていると、先ほどまで気持ちよくしてもらっていた別の部分が足りないと騒ぐ。セファが焦れた腰つきで揺れるとウィルバルドの大きな手が布を掻き分け動きを封じ込めるように掴んだ。
「――離して、」
 セファは好きに快楽を得ていたのだから意地悪しないでほしい、とウィルバルドを唇を合わせたまま言うとセファを食らい尽くしそうなほどに燃える紺青色の瞳が写った。
「っ、怖い顔。一回出すか?」
 先ほどから膝立ちになったセファの腿やペニスに、力強く布を押し上げたウィルバルドのペニスが当たっていた。セファの自由を阻害したのは、セファが腰を揺らす度にウィルバルドを刺激していたからのようだった。

 セファはウィルバルドのいじらしい顔を見るので忙しくまだ対面はしていないが、火傷をしそうなほどの熱さのそれは体格に見合った大きさをしているようだった。
 こんなにいきり立ってしまって未だ吐精もしていないならば苦しいだろう、と両頬に添えていた手を下へ動かそうとすると叱るようにセファの舌が齧られた。
「出すなら、貴方の中がいいです」
 舌の先を甘く噛みながら言われたことに逆らう気もなくセファは目を細めた。
「胎の中に出したいならもっと解さないとだめかもね」
 セファより一回り大きいであろうそれを入れるならば今の状態は少し心許ない。解してくれ、とセファが続ければ彼にしては乱暴な手付きでシーツの海へ戻された。

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