塔の上で会いましょう

きどうかずき

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番外編

初めての話 -4

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 先ほどとは違いウィルバルドもセファの上へ覆い被さってくる。
 見上げた瞳は完全に獣の鋭さを宿しており、怖さと同時にセファの身体の奥底を疼かせる。ウィルバルドの両頬に添えたままだった手をやわやわと動かして騎士然とした身体をなぞると熱いままの瞳で問われた。
「あの、俺もセファ様の胸に触っていいですか?」
 どこでも好きにすればいいのに、一々聞いてくる律儀さが愛しいなぁとセファは思いながら答える。
「……いいけど、女性みたいに柔らかくはないよ」

 薄っぺらい胸板は成人男性のものだから当然女体のような丸みも柔らかさもない。バスローブの前を開かれた時からずっと見ていただろうが、いざ触れるとなれば勝手は違うだろう。
 それでも良いならば好きにすればいい、と僅かに上体を反らしてやれば恐る恐る手が近付いてきた。
「どくどくしてますね。可愛いです」
 ぺったりとセファの胸に手のひらを当てて心音を確かめたウィルバルドが言う。そういう彼の方も、セファの指が触れている首筋では鼓動が跳ねている。
「君もどきどきしてて可愛いよ」
 セファが微笑むとウィルバルドの目の奥がどろりと溶けた。

「ここは気持ちいいですか?」
 大きく広げて触れるだけだった手を動かし、セファの胸の飾りが摘ままれる。
「なんかっ、ヘンな感じが、する」
 散々目の前の男から快楽を与えられるということに慣れてしまった身体は、いつもならば意識しない場所への刺激も違和感として拾い上げてしまう。
「痛くはないみたいですね」
 眉尻を下げて戸惑っているセファを見てウィルバルドが言う。
「痛くないけど、くすぐったい……?」
 芯が出てきたそこをきゅっと摘ままれたセファは、この感覚が何なのか分からず身体を持て余す。
 快感よりも違和感の方を訴えるセファだったが、ウィルバルドの空いた手でペニスを扱かれると途端に身体を跳ねさせた。

 触れられているという感触だけが強かったそことペニスを同時に触れられ、セファが気持ちいいと言葉に出すと褒めるようにやわやわとペニスをなぞられる。射精には至らないものの気持ちがいいことだけを与えられるその刺激は、胸元の感触と通じて違和感が心地よいことだと刷り込まれる。セファが胸だけを触られて背中を反らしてびくびくと跳ねるようになるのにそう時間はかからなかった。
「――っ、こんな所で感じるなんて女性みたいだ」
「男でも胸が気持ちいい人はいますよ」
 途切れ途切れに跳ねる声が、男を煽ることも知らずにセファは初めて知る快感に翻弄される。身悶えしたまま見上げるセファへ、手を緩めないままウィルバルドが答える。醜態を晒しても受け止めてくれることに安心して顰めていた眉を少しだけ戻す。

「ウィルバルドも、触ったらきもち、い?」
「どうでしょう……触ってみますか?」
 息を細切れにさせながらも好奇心に勝てなかったセファは肘を立てて上体を起こす。覆い被さっているウィルバルドの乳首を摘まんで引っ張って、気持ち良くしてくれた手順をなぞってみる。
「んっ、くすぐったいです」
 目尻を赤くさせるウィルバルドの様子に嗜虐心が湧く。もっと見たくなりさわさわと撫でてみたりと遊んでいると、セファの太腿にいきり立ったものを押し当てられた。
 トラウザーズの前立てを押し上げているそれは、セファの肉のついていない太腿を凹ませる。驚いたセファが一拍遅れてウィルバルドの顔を見上げれば捕食者の笑顔が浮かんでいた。
「気持ちよくて興奮しました」

 揶揄いすぎた自覚があるセファは、ウィルバルドに手を取られてもされるがままに逆らわずに好きにさせる。
 セファの手を下腹部へ持っていき一撫でしたウィルバルドが言う。
「セファ様、もう一度潤滑の魔術をかけていただけますか?」
「……ん、いいよ」
 吐精はしていないものの快楽ばかりを与えられ、セファの思考はすっかり霞がかかり蕩けたような心地だ。だが潤滑程度ならば出来るだろう。そう思ってセファはぎこちなく頷く。
 だというのにウィルバルドは先ほどほぐした後孔へ指を二本侵入させてくる。てっきり何もない状態でやるものだと思っていたセファは戸惑って僅かに身を起こすが、彼が指を引き抜く気配はない。
 それどころかもう片方の手でセファの手を取って後孔の方へ添え、中に入っている指は穴を広げるように開かれる。
「広げていますのでこのまましてください」
「えっ」
 目を丸くさせるセファだが、ウィルバルドのがっしりとした指が三本入ったのだから彼の指二本とセファの指なら確実に入ってしまうわけで、戸惑っているうちにそのまま後孔へ指を侵入させられる。
 なし崩し的に入った後孔は、先ほど触れて『清浄』の魔術を使った時とは明らかに様相が異なり、どろどろに溶けて侵入者に媚びるように蠢いていた。

「あっ、ん、」
 指が増えると先客であるウィルバルドの指の場所が変わり、先ほど散々弄ばれた所へ意図せず触れてしまう。恥ずかしがる間もなく、反射のようにセファの声が漏れた。
 セファは、自分のあげる声やばくばくと心臓が脈打つたびに震えてじくじくと啼く後孔、そしてセファの行動を余すこと無く見ようとするウィルバルドの視線に切ないほど煽られて魔術を編むための集中力が途切れてしまう。
 戦いの場であればどれほど窮地に陥ろうが冷静に編める魔術であるが、身の危険と真逆の状態で不馴れながらも快楽を得ている状態では張り詰めた気持ちが消えてしまう。魔術を上手に形に出来ずにセファは喘ぐように懇願した。
「お願い、指……抜いて」
 セファを苛むこの指が無ければきっと魔術を編めるから、だからお願い。そうセファはウィルバルドを見上げるが、彼は眉間の皺を深めてしまう。
「先ほど解してと仰ったでしょう。……このままでは出来ないようであれば、」
 ウィルバルドが何かをこらえるようにくぐもった声で言う。怖い顔に怯えてセファは喉を震わせた。

「や、やだ。お願い、やめないでくれ……」
 セファが我が儘を言ったせいでやめると言うのだろうか。折角ウィルバルドとできると思ったのに、とセファはみっともなく懇願する。
「――? やめませんよ」
 あまりにもセファが狼狽えていたからかかウィルバルドはセファの顔のあちこちへ唇を落とす。
 あやすようなそれに安心してセファの強張った身体が弛緩していく。
「香油のようなものがあればいただけますか?」
 ゆるゆるとセファを宥めながら言う声にベッド横のチェストにある香油を指し示せば、ぐちゅりと水音がしてウィルバルドの指が引き抜かれる。
 セファが中に取り残された自分の指で今日初めて知る熱を感じていれば、香油を取ってきたらしきウィルバルドが戻ってきた。
「中、とろとろで気持ちよさそうですね」
 一人で自分の中に挿入しているところを見られて恥ずかしい気持ちもあるが、ぐちゃぐちゃになってしまったセファはそんなことももはや頭の端で思うだけだ。
 ――それより、君が遠いのが一番寂しいから、
「……早く。続き、して」
 シーツの海へ銀の髪を広げて言う様は、まるで出くわす人々を喰い尽くす妖花のようだった。

「広げていてくれてありがとうございます。このまま一緒にしましょうか」
 ウィルバルドはそう言ってセファの指が入ったままの所へまた侵入してくる。呆けたままのセファの指を二本の指で巻き込んで一緒に動かす。
「ん、くっ、」
 香油を足した中は滑らかで先ほどよりも速く出し入れされる。自分の指を一本とはいえ後孔に入れた状態で啼いているセファはどんな目で見られているか知らずにあえかな声をあげる。
「やぁっ、お願い抜いて……!」
 セファの意志なんてお構い無しで好き勝手動かされる手首がセファの性器をこする。ずっと戯れのように沢山触れられていた身体は、熾火のように快感が燻っておりもう少しの刺激で吐精してしまいそうだった。
「――お願いっ、とめて。……出ちゃうから」
 先ほどは滴り落ちるほどの色気を纏っていたのに一転して頑是ない子供のようにセファは懇願した。
 セファの何回目かのお願いでようやくウィルバルドは孔から指を引き抜いて、ぬめりをまとった指でセファのペニスをなぞった。
 ウィルバルドの手がなくなった隙にセファも指を抜く。ウィルバルドも無理にする気はないようでセファの手を止めたりはしない。
「セファ様はここも綺麗ですね。前はもうちょっと待ってください。こっちでイくと後ろが締まっちゃうって聞いたので」
 ――それならそんな風に触れないでほしいんだけど、
 セファはそう恨みがましくウィルバルドを睨むが、彼がもっと悪い顔で嗤うものだから少し失敗したような心地になった。

 ウィルバルドばかり余裕な風に思えて覆い被さっている彼を見上げると、逆光の中で煌めく紺青色の瞳にセファだけが映っていた。まるで眩しいものを見るかのようにセファのことを見る瞳が照れ臭くて、セファは負け惜しみのようにウィルバルドへ文句を言う。
「君ばっかり余裕でズルい」
 ウィルバルドはセファの言葉になんやかんやと動かしていた手を止めてセファを見た。
「余裕に見えますか? ずっといっぱいいっぱいです」
「いっぱいいっぱいなら何だってそんなに慣れてるんだ。ほんとは誰かとしたんじゃないか」
 ウィルバルドはセファに触れる合間合間に蕩けるような口説き文句を流し込んだり、首元や他の所へキスを仕掛けてくる。セファが身体の変化に戸惑っていたらおかしくないと言ってくれるし、受け止めきれない快楽はセファが追い付くまで待ってくれる。
 それに、セファがびくびくと背筋を反らして身悶えたり気持ちが良すぎてぐずぐずになったところを喰らいつきそうな顔で見ているというのに痛いことも怖いこともしてこない。セファは初めての頃の記憶なんてもはやないに等しいが、ここまでの振る舞いは出来ていなかっただろうことは確かだ。
 初めてだと言った言葉は信じたいが同時に、立場が違うとはいいえ経験者であるセファをここまで蕩けさせるなんて慣れている者にしか出来ないだろうとも思ってしまう。セファがぽつりぽつりと単語を溢しながらウィルバルドを見上げると上気した顔が寄ってきた。

「慣れてません。貴方が好きなことをしたい。貴方の好きな所を余すことなく言い尽くして、貴方の全部を味わいたいだけです」
 ちろりと出した舌で頬を舐められてセファは真っ赤になる。
「ねえセファ様、俺は本当に貴方が初めての人なんです。貴方を大事にしたくて気を逸らしているんです」
 なのにそんなことを言うなんて酷い人だ。そう続けて頭をぐりぐりと胸元へ寄せられてはたまったものじゃない。煽られて短い息を吐きだしながらセファは口の端に笑みを乗せた。
「――どうしたら、許してくれる?」
 可愛くない手つきでセファを翻弄したかと思ったら童のように甘えてくるこの男が愛しくて仕方がなくなってセファは嗤う。
 ――はやく、はやく、したいことを言えばいい。
 きっとセファが、セファだけがウィルバルドが望むものを与えてあげられる。
 そう思うと先ほど快感を甘受したセファの後ろがきゅんきゅんと蠢くのがわかった。


「中に入れさせてくれたら許すかもしれません」
 噛みつかんばかりの顔をしているくせにそんなことを言ったものだからセファはおかしくなって小さく笑い声をこぼして返す。長い間快楽を二人で分け合っていたから、考えて言葉を紡ぐより視線を絡めて唇を合わせた方が何倍も伝わりそうなほど頭が使い物にならなくなっていた。
「ん、君が初めてか確かめてあげる」
「出来るだけ優しくします」
 セファと同じかそれ以上融けてしまっているだろうに律儀に宣言するウィルバルドに向かって手を広げて迎え入れる体制になる。
「少しくらいなら無茶しても大丈夫だよ。だから、早く……」
 瞳の底へどろりとした熱を澱のように溜めてセファは微笑んだ。
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