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第一部 プロローグ~島~
②
しおりを挟む……2011年夏……
月島葵は、自宅のリビングで、トースターに焼かれた食パンを頬張りながら、眠たそうな二重瞼の目で、テレビの報道番組を視聴していた。
時刻は午前11時……朝食にしては少し遅い。大学が夏休みのせいもあってか、生活が少々不規則になっている。
無造作になっている癖毛を、右手でかきむしりながら思わず呟いた。
「退屈だ……」
夏休みになってから数日が過ぎたが、予定もなく家でただダラけているだけだった。
葵は容姿端麗でスポーツも万能な東應大学の大学生で今年の春に二十歳になった青年だ。
見た目は美男子で、大学内でも有名人だが……友人は少ない。
しかし、それには理由があり、それは葵は頭が良すぎるからだ。そのため、人と話す時に理屈っぽくなることがよくあり、相手が苦手意識をもつ。
「月島 葵は変わり者」といった噂もあるほどの有名人で、それが友人が少ない理由の一つだ。
葵がリビングでくつろいでいると、自宅のインターフォンがリビングに響く。
今自宅には葵しかいない。母は買い物に出かけていて、平日なので父はもちろん仕事で家にいない。
ただ……父に関しては、曜日に関わらず仕事の都合上ほとんど家にいない。
葵は受話器を取ることもなく、直接玄関に向かった。
受話器を取らなかったのは、数十分前にスマートフォンにメール受信が有り、誰が来るか分かっていたからだ。
葵が玄関のドアを開けると、葵の予想通りの人物がそこにいた。
その人物は葵と同じ位の年齢の女性で、背中まであるストレートで綺麗な黒い髪が、その綺麗な顔によく似合い、キャミソールと、タイトなジーンズ姿も様になっている。
この綺麗な女性は、先程メールにて連絡をしてきた、幼なじみの藤崎美夢だ。
女性と言っても、葵と同い年なのでまだ二十歳であるが、どこか幼さも残る。美夢も葵と同じ東鷹大学の学生だ。
葵に届いた美夢からのメールの内容は、『渡したい物がるから、家に行く』とあった。
葵は愛想のない感じで言った。
「で……渡したい物って?」
愛想のない葵に美夢は、少しムスッとした表情になり、葵に言った。
「ちょっと葵……家に入れてくれたっていいんじゃない?」
美夢からすれば、せっかくいい物を持って来たのに、家にも入れてくれないのか?と、いったところだろうか。
そんな美夢の気持ちを、察したかどうかは……さだかではないが、葵は美夢に一言「どうぞ」と言い、リビングに美夢を招いた。
リビングに招かれた美夢は、テレビの前にあるソファーに、ドカッと座りテーブルの上に置いてあった、葵の食べかけのトーストを見て言った。
「おばさんは?」
冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出しながら、葵は言った。
「買い物へ行った。コーヒーでいいか?」
美夢に先程のムスッとした表情は既になく、笑顔で葵に言った。
「うん、ありがとう……。あっ、シロップふたつね」
葵は美夢の前にアイスコーヒーを置き、そのまま美夢の隣にドカッと座った。
美夢は葵がつけっぱなしにしている、テレビを見て呟いた。
「明るいニュース……最近ないね…」
葵は自分のコーヒーを一口飲み、仕方ないといった表情で、美夢に相槌をうった。
「……ああ……」
テレビの報道番組は、世界情勢の特集を専門家を交えて議論している。内容は内乱やテロといったところだ。
美夢は葵の表情と、相槌が気に入らなかったのか、葵につっかかった。
「冷めてるのね……遠い国の話だし、実感わかないよね……」
葵は表情を変える事なく言った。
「ああ……実感もわかないし、人類の歴史を振り返ってみても、大小問わず争いのない時代はないからね……。民族間の思想の違いや……いや、根本的に言えば、人はそれぞれ一人一人、人格が異なるから……互いの事を100%理解するのは不可能に等しい」
美夢は呆れぎみに言った。
「あっ、そう……まぁ、そう言うと思ったけどね。聞いた私が馬鹿だった…」
呆れた美夢を不思議そうに眺めながら、葵は言った。
「何だ?美夢が話を振ってきたのだろう?もういいのか?」
「私……社会問題の話をしに来た訳じゃないし……」
呆れた様子の美夢に、葵は自身の髪をぐしゃぐしゃしながら言った。
「そうだったな。僕に渡したい物があるんだったな……何だ?また警部殿から事件の資料でも預かって来たのか?」
警部とは、警視庁の警察官で、藤崎宗吾……若くして警部になった……いわゆるキャリアで、美夢の実の兄だ。
葵は度々、宗吾からの依頼で警察の捜査に協力している。
宗吾からしてみれば、葵は妹の美夢の幼なじみで、弟みたいな存在だったが……ある事件をきっかけに、葵の頭の良さをまの当たりにした。
それ以降葵には度々、難事件の捜査協力を求めて来るようになり……現在の関係に至っている。葵が大学で有名なもう一つの理由がこれにあたる。
葵は今回も事件の依頼だと思い、不謹慎ながらも少し胸が踊った。
これで退屈しのぎになると……。
だか……葵の踊る胸を鎮めるように、美夢は嬉しそうに首を横に振った。
「違うよ……もっと楽しいものだよ」
そう言って美夢は葵に一枚のチケットを手渡した。
葵は受け取ったチケットを、まじまじと観察する。
チケットには『豪華クルーザー!一週間の夢の旅!』と、記載されていて、集合日時は三日後の午前十一時となっている。
「何だ、これは?」
葵は美夢にチケットを右手でヒラヒラさせて聞いた。
「お兄ちゃんが、葵と行って来いって……葵、あんたどうせ暇なんでしょ?本当はお兄ちゃんと行く予定だったんだけど、仕事が入ったみたいで……」
葵は少し考えて、美夢に言った。
「ふむ……成程。普段捜査に協力している僕に対しての、警部殿からのささやかなお礼といったところか……」
「まぁ、そういうこと……お兄ちゃん、葵には結構感謝してんのよ。ねぇ、もちろん行くよね?」
美夢は華やかであろう夏休みの予定ができた事に対してだろうか、期待で一杯といった表情をしている。
葵は確かに度々宗吾からの捜査に協力に応じているが、葵自身も宗吾には感謝している。
いくら幼なじみの兄とはいえ、警察の捜査に関わるなど、いち大学生が簡単に経験出来る事ではない。
貴重な経験をさせて貰っている、宗吾の好意を無下にはできない。
そして何よりも、この豪華クルーザーの旅を、誰よりも楽しみにしている美夢の期待を裏切るような返事をすれば……後が怖い。
葵は髪をぐしゃぐしゃしながら言った。
「分かった……行こう。警部殿には感謝すると……伝えてくれ」
美夢は小さくガッツポーズをしている。
「よっしゃっ!葵が行かないって言ったら、キャンセルするところだったんだよ」
「まぁ、気分転換にはちょうどいいか……」
「それじゃあ、当日迎えに来るから……ちゃんと一週間分の荷物の準備しておきなさいよ!」
その後、美夢は葵と準備の話をし、自宅へと帰って行った。帰り際に葵に準備を怠るなと、言ったことは……言うまでもない。
……幼なじみとの二人旅……。
相手が美人なだけに、羨ましく思われそうな展開だが……葵にとっては、ちょうどいい気分転換……それ位の感覚だった。
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