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陽芹孝介

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第五章 喪失と独占

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  ……陸の部屋……


  突然の愛からの告白に、歩は戸惑った。
 「死ぬ?…どういう事?」
  愛は言った。
 「私の余命は残り、1年なの…」
  歩に言葉は出なかった。
  愛は涙を流しながら続けた。
 「でも、この世界に来てから……病気が治ったみたいに、体調が良くなったわ…」
  そういえば亜美が言っていた。
 「陸はこの世界に来てから怪我が治った」と……愛の体調が良くなったのも…それが関係しているのか? 
  愛は続けた。
 「陸の怪我が治ったと聞いて……私は、確信したわ。病気が治ったと」
  歩は黙って愛の話を聞いている。
 「私は……この世界に来て、幸せを実感したわ……。そして、あなたに出会えた…」
  愛が歩の事を好いていた事は、歩自身も知っていたが……まさか現実世界で病気を患っていたとは、思わなかった。
  愛は興奮気味に言った。
 「だから……私は……帰りたくないっ!帰ったら死ぬのよっ!あなたと生きれない…」
  すると今まで黙っていた歩が口を開いた。
 「君の気持ちは……わかった…」
  歩は愛をじっと見て言った。
 「だが、だからと言って……他の皆には関係ない話だ…」
  歩の強い視線に愛は少し怯んだ。
  歩は続けた。
 「君のように、死に怯えて生きてきた人間を、俺は何人も見てきた……でも…」
  歩は言葉は強めた。
 「皆はそれでも……戦っているんだよ……。明日を生きるために…」
  愛は黙って聞いている。
 「戦場では、明日は死んでいるかもしれない人達……子供達がいる……。でも、彼らは逃げずに……戦っているんだ。それは人との戦いじゃない……生きるために戦っているんだ…」
  愛は歩の話に下を向いた。
  歩は続けた。
 「俺は……ここで止まる訳にはいかない…」
  愛は言葉を振り絞った。
 「行くの?…私は…死ぬの?」
  歩は首を横に振った。
 「君は死なせない……俺が治して見せる」
  愛は叫んだ。
 「あなたに…何ができるのっ!」
 「俺は医者だ……きっと治してみせる。信じてくれ」
  愛は再び下を向いた。
  歩は言った。
 「さぁ、鍵を開けてくれ……。俺は行くよ……たとえ君を殺してでも……」
  歩の言葉に愛は呆然とした。その表情は涙でグシャグシャだった。
  歩は言った。
 「葵君や有紀、五月ちゃんが……それに、現実世界で多くの子供達が待っている。鍵を開けてくれ…」
  愛は観念したのか、鍵を開けた。
  すると部屋の扉が少し開いて、また閉じた。
  愛の様子がおかしい…、愛は目を見開いている。
 「愛ちゃん?…」
  歩が声をかけた時だった、愛はその場で倒れこんだ。
 「愛ちゃんっ!」
  歩はすぐさま愛に駆け寄り、抱き抱えた。
  愛の背中から大量の血が出ている。
  愛は扉の隙間から、誰かに背中を刺されていた。
 「くそっ!いったい誰だ!…しっかりしろっ!…」
 「何か止血するものは?」
  歩は辺りを見渡したが、この部屋には何も残されていなかった。
 「愛ちゃんっ!下に行って、すぐに治療を…」
  すると愛は歩の手を強く握った。
 「ゴホッ…ゴホッ、もう…いい、わ…」
  歩は怒鳴った。
 「何を言ってっ…」
  しかし、愛はそれを遮る。
 「もう、いいの……。助けて…くれる…ん、ゴホッ…でしょ?…」
  出血が多すぎる、だいぶ深く刺されているようだ。
  歩は言った。
 「ああ……助けるとも…」
 「ふふ、バチが……あた、った…のね……。ゴホッ、ゴホッ…」
 「何言ってんだよ…」
 「ふふ……また…会いましょ…う…」
  愛は力尽きた……。しかし、その死に顔は笑顔だった。
  歩は愛の遺体を、そっと寝かし立ち上がった。
 「ああ…また会える……。今度は現実世界で…」
  歩はドアノブに手をかけて、ドアを開いた。 
  しかし、歩の目は信じられない光景を写した。屋敷の1階から階段にかけて火が上がっている。
 「何だ…これは?…」
  犯人が火を放ったのか?1階は火が覆っていて、逃げ場がない。
  マリアは?他の皆は無事なのか?歩の頭に様々な思いや疑問が走る。
  歩は扉を閉じて部屋に戻った。
 「愛ちゃん……俺もダメみたいだよ…」
  歩は愛の遺体に話しかけている。
 「でも、きっと葵君がなんとかしてくれる……。有紀もいるからね…」
  そして、とうとう部屋の扉も火で焼けて、部屋に火が進入してきた。
 「あとは任せたよ……葵君……。有紀…葵君を頼むぜ…」
  そして、火が部屋を覆った。


  ……屋敷前……


  屋敷に急いで戻った3人だったが、その光景に呆然とした。
 「や、焼かれてる…」
  五月はそう言うのがやっとだった。
  有紀が言った。
 「どういう事だ?…犯人が?…」
  葵が言った。
 「遅かった……くそっ!」
  有紀が言った。
 「とにかくここは危険だっ!移動するぞっ!」
  しかし、五月は恐怖のあまり、その場でへたりこんでいる。
  葵が五月を抱えた。
 「先輩っ!しっかりっ!」
  有紀が言った。
 「湖まで……走れっ!」
  3人は湖に走って戻った。
  湖に戻った3人は息を切らしている。  
  屋敷が燃え上がっているのは、湖からでも確認できる。
  有紀が言った。
 「全焼は免れないな…」
  五月が言った。
 「皆…どうなったんだろ?」
  葵が言った。
 「今は無事なのを祈るしかないです…」
  有紀が言った。
 「これからどうする?」
  葵が言った。
 「少し休憩して、犯人の元へ向かいましょう……。この状態では、まともに対峙できません…」
  有紀が言った。
 「わかったのか?…犯人が…」
  葵は言った。
 「ええ…わかりました。しかし、脱出方法までは…」
  五月が屋敷の方を見て言った。
 「でも、すごい炎……迫力が半端ないわ……。植物館、大丈夫かな?」
  葵は五月の言葉に反応した。
 「炎……植物館……」
  葵は髪をクルクルしだした。
 「まただ……なんだ?この引っ掛かりは?」
  五月が言った。
 「そういえば……あんた……植物館で違和感あるって、言っていたよね。まぁ、確かに色合い的にちょっと物足りなかったけど…」
  葵は目を見開いた。
 「そうか!あの時の違和感は……あれが無かったんだ。気温であれが……だとしたら教会のあれは…」
  有紀が言った。
 「どうしたんだ?葵…」
  葵は口角を上げた。
 「やっとわかりました……。植物館、教会、芸術館を繋ぐある物が…」
  葵は立ち上がった。
 「行きましょう…」
 「この無益なゲームを、終わらしに…」
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