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第十四話 川と山と百合根町
④
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縁は研究所の外に向かって走っていた。大崎は研究所内にいないと、考えていたからだ。
研究所に戻る前に、環境省からこの研究所の見取り図を入手していた。
研究所設立の認可のために、原が提出した物だった。見取り図には地下室の存在も記されていたが、大崎はそこにはいないだろう。
覚醒剤を密造しているとなれば、記されている地下室はフェイク……つまり密造場は研究所の別の場所にある。
縁は研究所を飛び出すと辺りを見渡した。
すっかり日が落ち、暗くなった山頂は少し肌寒い気温だったが、縁がそれを感じる事はなかった。
「何処だ?……あれは?」
縁の視線の先には研究所の車が停めてあり、その後ろにプレハブ小屋がある。おそらく物置小屋だろう。
縁は物置小屋まで走ると、勢いよく引き戸を開けた。
小屋の中にはポリタンク等、表向きの調査に使用する道具などが並べられていたが、すぐに異変箇所に気付いた。
隅の方に地下に続く階段らしきものがあったのだ。階段の入口のそばには、ビニールシートが雑に置かれている。おそらく普段は、そのシートで隠しているのだろう。
縁は迷う事なく階段を駆け降りた。
階段は数秒で駆け降りる事が出来たが……その先で見た光景に、縁は目を見開き、絶句した。
縁の視覚に襲いかかったその光景は、まさに狂気と表現するの一言だった。
薄暗い部屋の奥に、木製の椅子にロープで縛られ、口には人工呼吸器のようなマスクが覆われており、ぐったりした瑠璃の姿がそこにはあった。
人工呼吸器の管の先には、怪しげなフラスコがあり、そのフラスコの中には美しいエメラルドグリーンの液体が入っている。
フラスコは小さな三脚に固定されており、その下にはアルコールランプが設置してある。
そして、瑠璃が縛られている椅子のすぐそばにある棚で、大崎は何やら準備していた。
大崎は縁の存在に気付いていたが、それを無視して棚をガサガサ物色している。
縁は大崎に見向きもせずに、瑠璃へと進んで行く。
すると大崎はようやく縁に対応した。
「邪魔しないでくれ……実験準備をしてるんだ」
薄ら笑いする大崎の表情も、この空間にマッチし、狂気染みていた。
しかし縁は、大崎の制止を無視して瑠璃に近付く……。すると大崎は縁の肩を手を当てた。
「止まれよ……研究の成果は実験によって立証される」
すると次の瞬間だった……。縁は大崎の腕を掴んで肩をひねり、躊躇う事なく大崎の肩を外した。
ゴリュっという鈍い音が、部屋に小気味悪く響くと同時に、大崎は悲鳴を上げた。
「ぐわぁぁーーっ!」
大崎は肩を外された激痛で、その場にしゃがみこみ、苦悶の表情で肩を抑えている。
縁は瑠璃に繋がれたマスクをすぐさま外して、瑠璃に声を掛けた。
「雨家さんっ!雨家さんっ!……しっかりしろっ!」
「うっ……うぅん……」
縁の声に反応した瑠璃は、気を失いながらも、呻き声を上げた。
「気化する前か……間一髪だったな」
アルコールランプに火が着き、液体が気化されていれば、瑠璃の身体に異変が起きていただろう。
すると大崎は肩を抑えながら縁に言った。
「なんて事を……」
縁は大崎を睨み付け、胸ぐらを掴んで大崎を立たせて、そのまま棚に大崎を押し付けた。
ドカッと激しい音が部屋に響き、大崎はまたもや苦悶な表情をした。
「研究者が……自分の研究に挑戦するのは、当然だろっ?」
瑠璃を危険なめに遭わせたにも関わらず、悪びれた様子のない大崎に、縁は怒りの表情を滲ませて、大崎の顔面を思いっきり殴った。
「ふぐわっ!」
大崎は表情を歪めたが、縁の拳は止まらない……。一発、二発、三発と……縁は大崎を殴り続ける。
縁は一段落大崎を殴ると、目を見開いて大崎に言った。
「研究?……そんな事……二度と言えないようにしてやるよ……」
狂気染みた縁の表情に、大崎は本能的に危険を感じて恐怖した。
一方の桃子は縁の行方を追っていた。所内を駆け回り、発見した地下室も調べたが、当たり前のように縁はいなかった。
桃子が研究所の外に出ると、外は騒然としていた。
パトランプの回ったパトカーが数台と、それらを牽引する少女が一人いた。
「君は……」
桃子が目を丸くした先には、FBIのキャメロンがいた。
キャメロンは桃子に気付くと冷笑した。
「お久しぶりね……ミス・オガサワラ……」
「縁に助力していたのは……君だったか……」
「共通の標的がそこにあるのだから、当然でしょ?」
「共通の?」
「スクランブル・スピリットよ」
キャメロンの言葉を聞いた桃子は納得した。スクランブル・スピリットとは、やはり縁が向こうにいた当時に出会った物だと。
「ところでエニシは何処へ?」
縁の居所を聞くキャメロンに、桃子は再び目を見開いた。
「そうだっ!縁は?縁を見ていないか?」
取り乱す桃子に、キャメロンは怪訝な表情を向けた。
「何があったの?」
「実は……」
その時だった。
「きゃぁーーーーーっ!」
空にも響きそうなその悲鳴は、桃子とキャメロンは勿論の事、パトカーから降りた警官達の耳にも刺さった。
「悲鳴……!?……瑠璃だっ!」
「あの小屋からよっ!」
キャメロンの視線の先には、研究所の物と思われるプレハブ小屋があった。
「まさか二人の身に……」
血相を変えている桃子に、キャメロンは言った。
「いや……悲鳴の主はともかく……。その逆かも……」
「逆……だと?」
「とにかく急ぎましょう……」
桃子とキャメロンは、警官達を引き連れて、プレハブ小屋に突入した。
「縁……」
桃子の胸騒ぎは、瑠璃の悲鳴によって、益々と膨れ上がった。
プレハブ小屋の地下にいた縁は、大崎をさらに追い詰めていた。
大崎の苦痛の叫びに、目を覚ました瑠璃は、その光景に恐怖している。
「言え……クライアントは誰だ?」
「うぅぅーー……」
答える気があるのかないのか、大崎は肩の痛みのせいで呻き声をあげるだけだった。
縁は大崎の胸ぐらを掴んだまま、大崎の腹部に強烈な膝蹴りを見舞った。
「がぼぉーっ!」
「悲鳴はいいからさっさと答えろよ……」
縁のその言動に、いつもの姿はなかった。
「もうやめてっ!新井場君っ!」
縛られたままの瑠璃の叫びも虚しく、縁はさらに大崎を追い詰める。
縁は大崎の外れていない腕を掴んで、肩を思いっきり外した。
再び部屋には、ゴリュっという鈍い音が響く……。
「ぎゃあーーーーっ!」
「さっさと言えっ!クライアントは誰だっ!」
「かっ、肩がぁっ!肩がぁーっ!」
大崎の両腕はブラリとだらしなく垂れており、その姿は奇形と呼ぶに相応しかった。
縁はぶら下がった大崎の腕を持ち上げ、今度は人差し指を掴んだ。
「今度は一本づつ指をへし折る……」
まるで拷問を提案する縁の目は、狂気じみているを通り越して、虚ろになっており、大崎はその目に恐怖し、確信した。
……ハッタリではない……と……。
「わかったっ!いっ、言うよ……。『クロネコ』だっ!クロネコって言っていたよっ!」
『クロネコ』……。大崎の口から出たその言葉を聞いた縁は、さらに目を見開き、ふるふると震え出した。
「てめぇ……でまかせ言ってんじゃ……」
縁の反応にさらなる危険を感じた大崎は、首を横にブンブンと振って、縁に嘆願した。
「嘘じゃないっ!本名は語らなかったが、確かにクロネコって、言っていた。そっ、そうだっ!手の甲に『ウロボロスの刺青』があったっ!」
大崎が語るクロネコの特徴に、縁はさらに驚愕した。
驚愕し、放心する縁に、大崎はさらに嘆願した。
「俺は指示されただけだっ!そのクロネコと、原に……。俺は悪くない……ただ出回った事のないドラッグの研究をやりたかっただけだっ!」
縁は嘆願する大崎を再び睨み付け、腹部に再度膝蹴りを見舞った。
「くぶぉーっ!」
「何が研究だ?……造ってたって事は、アレがどんなドラッグか知ってんだろ?」
縁に痛みつけられた大崎は、ダメージが深く壁にもたれ掛かり、縁に胸ぐらを掴まれて、ようやく立ってられる程だ。
「二度と造れねぇように、全部の指をバラバラにしてやる」
縁の宣言に、瑠璃は縛られながらも、縁に叫ぶ。
「もうやめてっ!新井場君っ!……やめてぇーっ!」
瑠璃の叫びが部屋に響き渡った時だった。
「縁っ!」
現れたのは桃子で、その後ろにはキャメロンもいた。
桃子の目に写った光景もそうだったが……それよりも、縁の様子に驚きを隠せなかった。
「縁……か?」
桃子の目に別人とも写る程に、縁は豹変していた。
桃子だけではない……キャメロンも、後に続く警官達も……その異様な光景に言葉を失っている。
「桃子さん……邪魔するなよ……。二度とスピリットを造れねぇよにしねぇとなぁ……」
ブツブツ囁く縁は、不気味ささせも感じさせ、桃子は身体が固まった。
すると瑠璃は桃子に叫んだ。
「小笠原さんっ!新井場君を……新井場君を止めてっ!」
瑠璃の叫びに我に帰った桃子は、急いで縁を背後から羽交い締めにした。
縁が羽交い締めにされた事により、大崎は立っていられなくなり、そのまま地べたに崩れ落ちた。
桃子に羽交い締めにされた縁は、必死に抵抗した。
「離せっ!……離せよっ!コイツは……コイツは……」
縁は既に錯乱気味だった。
「止めろっ!縁っ!その男は……もう意識がないっ!」
「関係ねぇっ!」
抵抗を止めない縁に、桃子は叫んだ。
「普通に生きるんだろっ!」
桃子のその叫びに、縁は抵抗を止めると同時に、脳裏にブワッと甦った。
『君は……普通に生きろ……』
憑き物が取れたような表情になった縁は、そのまま地べたに崩れ落ち、崩れ落ちた縁を桃子は無理やり振り向かせ、そのまま強く抱き締めた。
「普通に生きるんだろ?だったら……そんな顔をするな……」
桃子に強く抱き締められた縁は、目を見開いていたが、やがてゆっくりと目を閉じた。
「桃子さん……」
「なんだ?」
「力が強い……痛いよ……」
研究所に戻る前に、環境省からこの研究所の見取り図を入手していた。
研究所設立の認可のために、原が提出した物だった。見取り図には地下室の存在も記されていたが、大崎はそこにはいないだろう。
覚醒剤を密造しているとなれば、記されている地下室はフェイク……つまり密造場は研究所の別の場所にある。
縁は研究所を飛び出すと辺りを見渡した。
すっかり日が落ち、暗くなった山頂は少し肌寒い気温だったが、縁がそれを感じる事はなかった。
「何処だ?……あれは?」
縁の視線の先には研究所の車が停めてあり、その後ろにプレハブ小屋がある。おそらく物置小屋だろう。
縁は物置小屋まで走ると、勢いよく引き戸を開けた。
小屋の中にはポリタンク等、表向きの調査に使用する道具などが並べられていたが、すぐに異変箇所に気付いた。
隅の方に地下に続く階段らしきものがあったのだ。階段の入口のそばには、ビニールシートが雑に置かれている。おそらく普段は、そのシートで隠しているのだろう。
縁は迷う事なく階段を駆け降りた。
階段は数秒で駆け降りる事が出来たが……その先で見た光景に、縁は目を見開き、絶句した。
縁の視覚に襲いかかったその光景は、まさに狂気と表現するの一言だった。
薄暗い部屋の奥に、木製の椅子にロープで縛られ、口には人工呼吸器のようなマスクが覆われており、ぐったりした瑠璃の姿がそこにはあった。
人工呼吸器の管の先には、怪しげなフラスコがあり、そのフラスコの中には美しいエメラルドグリーンの液体が入っている。
フラスコは小さな三脚に固定されており、その下にはアルコールランプが設置してある。
そして、瑠璃が縛られている椅子のすぐそばにある棚で、大崎は何やら準備していた。
大崎は縁の存在に気付いていたが、それを無視して棚をガサガサ物色している。
縁は大崎に見向きもせずに、瑠璃へと進んで行く。
すると大崎はようやく縁に対応した。
「邪魔しないでくれ……実験準備をしてるんだ」
薄ら笑いする大崎の表情も、この空間にマッチし、狂気染みていた。
しかし縁は、大崎の制止を無視して瑠璃に近付く……。すると大崎は縁の肩を手を当てた。
「止まれよ……研究の成果は実験によって立証される」
すると次の瞬間だった……。縁は大崎の腕を掴んで肩をひねり、躊躇う事なく大崎の肩を外した。
ゴリュっという鈍い音が、部屋に小気味悪く響くと同時に、大崎は悲鳴を上げた。
「ぐわぁぁーーっ!」
大崎は肩を外された激痛で、その場にしゃがみこみ、苦悶の表情で肩を抑えている。
縁は瑠璃に繋がれたマスクをすぐさま外して、瑠璃に声を掛けた。
「雨家さんっ!雨家さんっ!……しっかりしろっ!」
「うっ……うぅん……」
縁の声に反応した瑠璃は、気を失いながらも、呻き声を上げた。
「気化する前か……間一髪だったな」
アルコールランプに火が着き、液体が気化されていれば、瑠璃の身体に異変が起きていただろう。
すると大崎は肩を抑えながら縁に言った。
「なんて事を……」
縁は大崎を睨み付け、胸ぐらを掴んで大崎を立たせて、そのまま棚に大崎を押し付けた。
ドカッと激しい音が部屋に響き、大崎はまたもや苦悶な表情をした。
「研究者が……自分の研究に挑戦するのは、当然だろっ?」
瑠璃を危険なめに遭わせたにも関わらず、悪びれた様子のない大崎に、縁は怒りの表情を滲ませて、大崎の顔面を思いっきり殴った。
「ふぐわっ!」
大崎は表情を歪めたが、縁の拳は止まらない……。一発、二発、三発と……縁は大崎を殴り続ける。
縁は一段落大崎を殴ると、目を見開いて大崎に言った。
「研究?……そんな事……二度と言えないようにしてやるよ……」
狂気染みた縁の表情に、大崎は本能的に危険を感じて恐怖した。
一方の桃子は縁の行方を追っていた。所内を駆け回り、発見した地下室も調べたが、当たり前のように縁はいなかった。
桃子が研究所の外に出ると、外は騒然としていた。
パトランプの回ったパトカーが数台と、それらを牽引する少女が一人いた。
「君は……」
桃子が目を丸くした先には、FBIのキャメロンがいた。
キャメロンは桃子に気付くと冷笑した。
「お久しぶりね……ミス・オガサワラ……」
「縁に助力していたのは……君だったか……」
「共通の標的がそこにあるのだから、当然でしょ?」
「共通の?」
「スクランブル・スピリットよ」
キャメロンの言葉を聞いた桃子は納得した。スクランブル・スピリットとは、やはり縁が向こうにいた当時に出会った物だと。
「ところでエニシは何処へ?」
縁の居所を聞くキャメロンに、桃子は再び目を見開いた。
「そうだっ!縁は?縁を見ていないか?」
取り乱す桃子に、キャメロンは怪訝な表情を向けた。
「何があったの?」
「実は……」
その時だった。
「きゃぁーーーーーっ!」
空にも響きそうなその悲鳴は、桃子とキャメロンは勿論の事、パトカーから降りた警官達の耳にも刺さった。
「悲鳴……!?……瑠璃だっ!」
「あの小屋からよっ!」
キャメロンの視線の先には、研究所の物と思われるプレハブ小屋があった。
「まさか二人の身に……」
血相を変えている桃子に、キャメロンは言った。
「いや……悲鳴の主はともかく……。その逆かも……」
「逆……だと?」
「とにかく急ぎましょう……」
桃子とキャメロンは、警官達を引き連れて、プレハブ小屋に突入した。
「縁……」
桃子の胸騒ぎは、瑠璃の悲鳴によって、益々と膨れ上がった。
プレハブ小屋の地下にいた縁は、大崎をさらに追い詰めていた。
大崎の苦痛の叫びに、目を覚ました瑠璃は、その光景に恐怖している。
「言え……クライアントは誰だ?」
「うぅぅーー……」
答える気があるのかないのか、大崎は肩の痛みのせいで呻き声をあげるだけだった。
縁は大崎の胸ぐらを掴んだまま、大崎の腹部に強烈な膝蹴りを見舞った。
「がぼぉーっ!」
「悲鳴はいいからさっさと答えろよ……」
縁のその言動に、いつもの姿はなかった。
「もうやめてっ!新井場君っ!」
縛られたままの瑠璃の叫びも虚しく、縁はさらに大崎を追い詰める。
縁は大崎の外れていない腕を掴んで、肩を思いっきり外した。
再び部屋には、ゴリュっという鈍い音が響く……。
「ぎゃあーーーーっ!」
「さっさと言えっ!クライアントは誰だっ!」
「かっ、肩がぁっ!肩がぁーっ!」
大崎の両腕はブラリとだらしなく垂れており、その姿は奇形と呼ぶに相応しかった。
縁はぶら下がった大崎の腕を持ち上げ、今度は人差し指を掴んだ。
「今度は一本づつ指をへし折る……」
まるで拷問を提案する縁の目は、狂気じみているを通り越して、虚ろになっており、大崎はその目に恐怖し、確信した。
……ハッタリではない……と……。
「わかったっ!いっ、言うよ……。『クロネコ』だっ!クロネコって言っていたよっ!」
『クロネコ』……。大崎の口から出たその言葉を聞いた縁は、さらに目を見開き、ふるふると震え出した。
「てめぇ……でまかせ言ってんじゃ……」
縁の反応にさらなる危険を感じた大崎は、首を横にブンブンと振って、縁に嘆願した。
「嘘じゃないっ!本名は語らなかったが、確かにクロネコって、言っていた。そっ、そうだっ!手の甲に『ウロボロスの刺青』があったっ!」
大崎が語るクロネコの特徴に、縁はさらに驚愕した。
驚愕し、放心する縁に、大崎はさらに嘆願した。
「俺は指示されただけだっ!そのクロネコと、原に……。俺は悪くない……ただ出回った事のないドラッグの研究をやりたかっただけだっ!」
縁は嘆願する大崎を再び睨み付け、腹部に再度膝蹴りを見舞った。
「くぶぉーっ!」
「何が研究だ?……造ってたって事は、アレがどんなドラッグか知ってんだろ?」
縁に痛みつけられた大崎は、ダメージが深く壁にもたれ掛かり、縁に胸ぐらを掴まれて、ようやく立ってられる程だ。
「二度と造れねぇように、全部の指をバラバラにしてやる」
縁の宣言に、瑠璃は縛られながらも、縁に叫ぶ。
「もうやめてっ!新井場君っ!……やめてぇーっ!」
瑠璃の叫びが部屋に響き渡った時だった。
「縁っ!」
現れたのは桃子で、その後ろにはキャメロンもいた。
桃子の目に写った光景もそうだったが……それよりも、縁の様子に驚きを隠せなかった。
「縁……か?」
桃子の目に別人とも写る程に、縁は豹変していた。
桃子だけではない……キャメロンも、後に続く警官達も……その異様な光景に言葉を失っている。
「桃子さん……邪魔するなよ……。二度とスピリットを造れねぇよにしねぇとなぁ……」
ブツブツ囁く縁は、不気味ささせも感じさせ、桃子は身体が固まった。
すると瑠璃は桃子に叫んだ。
「小笠原さんっ!新井場君を……新井場君を止めてっ!」
瑠璃の叫びに我に帰った桃子は、急いで縁を背後から羽交い締めにした。
縁が羽交い締めにされた事により、大崎は立っていられなくなり、そのまま地べたに崩れ落ちた。
桃子に羽交い締めにされた縁は、必死に抵抗した。
「離せっ!……離せよっ!コイツは……コイツは……」
縁は既に錯乱気味だった。
「止めろっ!縁っ!その男は……もう意識がないっ!」
「関係ねぇっ!」
抵抗を止めない縁に、桃子は叫んだ。
「普通に生きるんだろっ!」
桃子のその叫びに、縁は抵抗を止めると同時に、脳裏にブワッと甦った。
『君は……普通に生きろ……』
憑き物が取れたような表情になった縁は、そのまま地べたに崩れ落ち、崩れ落ちた縁を桃子は無理やり振り向かせ、そのまま強く抱き締めた。
「普通に生きるんだろ?だったら……そんな顔をするな……」
桃子に強く抱き締められた縁は、目を見開いていたが、やがてゆっくりと目を閉じた。
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主人公二人の掛け合いがとても面白いです!笑いあり、たまにアクションあり……謎解きの展開も面白く、楽しんで読ませてもらっています!
大変でしょうが、頑張って下さい!