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5.積もった思いがこの手に溢れて
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エアコンが部屋を冷やす音をバックグラウンドにペンが紙の上を走り続けている。時折、ページをめくる音がしてまた黒鉛が摩耗していく音が再開する。その音を聞きながら遥希は本を読んでいた。暇つぶしに立ち寄った本屋で買った話題のサスペンス小説。麦茶の氷を鳴らしながら一口飲み込む。
「そういや、お前葉山と会ってないの?」
「え? なにいきなり」
「山崎がずっとお前らの話しててうざいんだけど」
千田がワークから顔をあげて遥希を見た。なかなか見ないまでの心底嫌そうな顔。夏休みのありあまる時間を千田は山崎とのゲームに費やしているらしい。詳しくは知らないが、そういう時はたいてい通話を繋げるのだという。
お前ら、というのはつまり遥希と葉山の話ということか。
それも無理もない。最後に葉山と会ったのは花火大会の日。それ以来遥希は連絡を避け続けていた。初めのうちは体調がまだ戻らないからという理由で押し通せたのだが、一週間も経つとそうはいかない。何か病気が隠れているのではないかという話になってしまう。
両親の実家に帰るだの買い物に付き合うだの、千田との先約があるだの、ありとあらゆる言い訳を連ねて葉山からの誘いを断り続けていた。しかしそれもそろそろ苦しくなってきている。きっと、葉山も避けられていることを察していることだろう。
そうはわかっていても顔を合わせる勇気が出ないでいる。
「喧嘩でもしたわけ?」
「そういうわけじゃないけど」
「嫌われるようなことでもしたのか?」
現在進行形で嫌われるようなことをしているのは確かだが、そういう意図の質問ではない。
原因もきっかけもない。遥希側に問題があるだけである。
千田がシャーペンを置いて深くため息を吐いた。頭を抱えるようにしてなにか深く思案しているような素振り。
「お前さ、人間関係が自然発生的に起きるもんだと思ってんの?」
「な、なんて?」
「なんで俺以外の友達がいないか考えたことあるか?」
いきなり何の話だ、と言えるような雰囲気ではなかった。
本を傍らに置いて考えてみる。かろうじて記憶に残っている小学四年生以降、友達と呼べるような存在は何人かいた。しかし、今現在において彼らが友人と呼べるかと言われると疑問が残る。数名は進学先すら知らない。進学先を同じくした彼らとは廊下ですれ違えば挨拶を交わすし、教科書を忘れたときに頼りはする。それはどちらかといえば協力関係、もっと言ってしまえば利害関係のようなものに近い。
そうなってしまったことに疑問を抱いたことはない。考えたこともなかった。
「ない、です」
「だろうな。じゃあ、そいつらと俺の違いはなんだと思う?」
なぜ千田とだけ付き合いが続いているのか、という意味だろう。
千田の面倒見がいいからだと思っていた。ぼんやりとしていて、輪の外で立ち尽くしているだけの遥希の手を掴んでくれたのはいつも千田だ。
「半分正解。正しくは、俺が佐倉と関わろうとし続けているからだ」
遥希には違いがわからない。面倒見がいいから、結果的に関係が継続しているのだと思っていた。
千田は理解していないであろう遥希の顔を見てまたため息を吐く。これはそんなに深刻な話なのか。
「面倒見がいいのは佐倉だってそうだろ。勉強だって聞かれたら誰にでも答える。一人でいる人間にも声をかける」
「それは一人相手の方が話しかけやすいだけで、」
「この場合、佐倉側の気持ちは関係ないんだよ。相手が助かったと思ってるならそれでいい。じゃあ、俺と同じで面倒見のいい佐倉は俺とは違って友達が少ないのはなんでだと思う?」
そんなに友達が少ないことをはっきり突き付けないでほしい。けれどその反面、やはり遥希はそのことについても気にしたことはなかったように思う。自分の趣味である読書は、人との関りは必要ではない。煩わしいとまでは言わないが、自分から求めたこともない。関わろうとし続けたことはなかった。
「あ」
「お前は人と関わるだけ関わって、それを続ける努力をしていないんだよ」
「そんなこと」
「ないって言えるか? 小学校から数えて、佐倉から俺を誘ったこと何回あると思う?」
答えはゼロだ。一度もない。買い物も、過去の花火大会も、今日に至るまですべて千田発信だ。千田からの連絡の頻度が高いというのもあるが、それでも遥希が服や本を買いたいと思い立っても千田に声はかけないだろう。そもそも、そんな選択肢が遥希の中にはないのだから。
「でも、なんでいきなりそんな話?」
「葉山が俺と同じ扱いになるのは可哀そうだからだ」
「可哀そう?」
「そうだろ。あんなに頑張ってるのに」
「頑張ってる? 葉山が何を?」
まったく話が見えなくなってしまった。そりゃあ葉山は怠惰ではないが。わけがわからない、と眉を寄せる遥希に、千田はあんぐりと口を開けて固まってしまう。綺麗な口内がのぞいている。
「悪い、俺はてっきり佐倉が葉山の気持ちに……あ、いや。忘れてくれ」
「葉山? もしかして、千田は俺の気持ち気づいてるの?」
「は? お前の気持ち?」
「そういや、お前葉山と会ってないの?」
「え? なにいきなり」
「山崎がずっとお前らの話しててうざいんだけど」
千田がワークから顔をあげて遥希を見た。なかなか見ないまでの心底嫌そうな顔。夏休みのありあまる時間を千田は山崎とのゲームに費やしているらしい。詳しくは知らないが、そういう時はたいてい通話を繋げるのだという。
お前ら、というのはつまり遥希と葉山の話ということか。
それも無理もない。最後に葉山と会ったのは花火大会の日。それ以来遥希は連絡を避け続けていた。初めのうちは体調がまだ戻らないからという理由で押し通せたのだが、一週間も経つとそうはいかない。何か病気が隠れているのではないかという話になってしまう。
両親の実家に帰るだの買い物に付き合うだの、千田との先約があるだの、ありとあらゆる言い訳を連ねて葉山からの誘いを断り続けていた。しかしそれもそろそろ苦しくなってきている。きっと、葉山も避けられていることを察していることだろう。
そうはわかっていても顔を合わせる勇気が出ないでいる。
「喧嘩でもしたわけ?」
「そういうわけじゃないけど」
「嫌われるようなことでもしたのか?」
現在進行形で嫌われるようなことをしているのは確かだが、そういう意図の質問ではない。
原因もきっかけもない。遥希側に問題があるだけである。
千田がシャーペンを置いて深くため息を吐いた。頭を抱えるようにしてなにか深く思案しているような素振り。
「お前さ、人間関係が自然発生的に起きるもんだと思ってんの?」
「な、なんて?」
「なんで俺以外の友達がいないか考えたことあるか?」
いきなり何の話だ、と言えるような雰囲気ではなかった。
本を傍らに置いて考えてみる。かろうじて記憶に残っている小学四年生以降、友達と呼べるような存在は何人かいた。しかし、今現在において彼らが友人と呼べるかと言われると疑問が残る。数名は進学先すら知らない。進学先を同じくした彼らとは廊下ですれ違えば挨拶を交わすし、教科書を忘れたときに頼りはする。それはどちらかといえば協力関係、もっと言ってしまえば利害関係のようなものに近い。
そうなってしまったことに疑問を抱いたことはない。考えたこともなかった。
「ない、です」
「だろうな。じゃあ、そいつらと俺の違いはなんだと思う?」
なぜ千田とだけ付き合いが続いているのか、という意味だろう。
千田の面倒見がいいからだと思っていた。ぼんやりとしていて、輪の外で立ち尽くしているだけの遥希の手を掴んでくれたのはいつも千田だ。
「半分正解。正しくは、俺が佐倉と関わろうとし続けているからだ」
遥希には違いがわからない。面倒見がいいから、結果的に関係が継続しているのだと思っていた。
千田は理解していないであろう遥希の顔を見てまたため息を吐く。これはそんなに深刻な話なのか。
「面倒見がいいのは佐倉だってそうだろ。勉強だって聞かれたら誰にでも答える。一人でいる人間にも声をかける」
「それは一人相手の方が話しかけやすいだけで、」
「この場合、佐倉側の気持ちは関係ないんだよ。相手が助かったと思ってるならそれでいい。じゃあ、俺と同じで面倒見のいい佐倉は俺とは違って友達が少ないのはなんでだと思う?」
そんなに友達が少ないことをはっきり突き付けないでほしい。けれどその反面、やはり遥希はそのことについても気にしたことはなかったように思う。自分の趣味である読書は、人との関りは必要ではない。煩わしいとまでは言わないが、自分から求めたこともない。関わろうとし続けたことはなかった。
「あ」
「お前は人と関わるだけ関わって、それを続ける努力をしていないんだよ」
「そんなこと」
「ないって言えるか? 小学校から数えて、佐倉から俺を誘ったこと何回あると思う?」
答えはゼロだ。一度もない。買い物も、過去の花火大会も、今日に至るまですべて千田発信だ。千田からの連絡の頻度が高いというのもあるが、それでも遥希が服や本を買いたいと思い立っても千田に声はかけないだろう。そもそも、そんな選択肢が遥希の中にはないのだから。
「でも、なんでいきなりそんな話?」
「葉山が俺と同じ扱いになるのは可哀そうだからだ」
「可哀そう?」
「そうだろ。あんなに頑張ってるのに」
「頑張ってる? 葉山が何を?」
まったく話が見えなくなってしまった。そりゃあ葉山は怠惰ではないが。わけがわからない、と眉を寄せる遥希に、千田はあんぐりと口を開けて固まってしまう。綺麗な口内がのぞいている。
「悪い、俺はてっきり佐倉が葉山の気持ちに……あ、いや。忘れてくれ」
「葉山? もしかして、千田は俺の気持ち気づいてるの?」
「は? お前の気持ち?」
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