シルクロードを突っ走れ

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「西安書院国際青年旅舎」

◆1日目(西安1)「西安書院国際青年旅舎」

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 シルクロードを突破しよう。西安からローマまで陸路で一気に。世界地図を広げた。ローマはため息が出るほど遠い。黄河沿いに中国内陸部を進む。ゴビ、タクラマカン砂漠を抜け、パミール高原を横に白峰連なる天山山脈を越え。緑のフェルガナ盆地からカスピ、黒海、ボスポラス海峡のイスタンブールへ。
 敦煌、カシュガル、サマルカンド……赤ペンで隊商都市を囲むだけで、わくわくする。果たして可能なのか。「天に飛鳥なく、地に走獣なし」といわれる熱砂の大地。標高4千㍍の峠越え。しかし、挑戦しないことには始まらない。
「西遊記」の名僧玄奘が、長安(現西安)からインド・ナーランダ寺院へ仏教修行の旅に出たのは629年。東方見聞録のマルコポーロの旅は1270年代。スウェーデンの探検家スウェイン・ヘディンが、タクラマカン砂漠の幻の王国楼蘭故城を発見したのは1900年だ。
それから百年余、機械文明の進歩と社会環境の変化は、世界史を彩る旅人が、生死を賭して立った道筋に、我々がスニーカーで立ち入ることを可能にした。そう思うだけで痛快だ。怖じけていられない。さあ一路、西安(写真)へGo!
                ☆
 出だしから焦るではないか。午後11時35分、西安咸陽国際空港。成田からソウル経由で搭乗したアシアナ航空便が急に夜便に変更、深夜到着となった。ロビーに人影が少ない。宿は未定。人相の悪い男が近づき、電卓に180と打った。市内まで180元(1元15円)。高い。130と打ち返す。だけど、この男、大丈夫か。カウンターの女性係員が「町中の鐘楼(じょんろう)行きバスがある」と言うと、鋭い目で凄み、若い男が「オレは百元だ」の声に「横取りすんな」と噛みつき、向き直ると、愛想笑いを浮かべて身分証明書を示した。
 ここは仕方ない。外の暗がりに乗用車が1台。車内には男女2人。「これはまずい」と尻込みしたが、女のバッグに見覚えがあった。コピー物のルイ・ヴィトンは機内で隣にいた韓国人だ。甲高い声で「Don’t worry(心配しないで)。ホテルに行くわよ」と言いうので、ままよ、と飛び乗った。
 高速道を30分。えっ、これが長安?シルクロード起点の街はこんなに煌びやかなのか。酒店(ホテル)やクラブのネオン煌々。大陸の懐深く、ひっそり佇む古都を思い描いていたのに。思い起こせば、ここは世界最古の国際都市。唐の時代の七世紀、留学生、芸術家、貿易商ら外国人が住み、西のバグダッドと比肩する百万都市だった。異国人を排除せず、優れた人材は宮廷で重用した。
 月光に照らされた幻想的な城壁が見えた。西安は東西5キロ、南北3キロの城壁に囲まれている。車が停まった。ユースホステル「西安書院国際青年旅舎」の表看板。フロントで若い女性が迎えてくれた。
「ツインは160元。ドミトリー(相部屋)なら50元」
 もちろんドミトリー。緊張してのどが渇いた。地下室にバーがある。壁に「毛主席 思想永遠放光芒」との若き毛沢東のポスター。毛沢東はファッションなのだ。翌朝、西安駅前に。若者の変貌もすごい(写真)。新宿の若者と変わらない。
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