ハイカブリ 「姉の暴力に怯える日々。後ろから近づきたのは、人気のあのモデルだった。」

高野マキ

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地獄からの生還  救いの主は堕天使

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T大学医学部附属病院高度救命救急センター入り口
病院車両に混じって警察車両 大型バイクが2台が横付けされている。

センターフロアの家族待合室

「関係者には残ってもらってます。父親と連絡が取れましたが 現在鹿児島で荷物の積み込み中だとか… 姉の方は携帯がつながりません。 関係者は男子高校生二人。本人のバイト先の社長が身元引受人になってくれるそうです。」

警察官が病院関係者に聴取した情報を提供している。

「君等は、バイト先の社長がくるまでもうすこしここにいてもらうよ」
 
若い警官が二人に話しかけた。


  「わかりました」
純也が素直に返事を返す。

町田柊士は黙って床に視線を落としていた。



それから 数時間 二人は会話も少なく 高 華蓮の命がどうかだけを心配していた。

 「マジ 柊ちゃん 恩にきるよ この借りは一生かかっても返すから…」

「大袈裟だな  高 が無事ならそれでいいじゃん」

「あいつ やっと抜け出すきっかけ掴んだばっかりなのによー 」

純也の表情がさらに曇る。

「そうなのか?」
柊士は純也の気持ちを慮ってあえて興味がなくても聞いてみた。

 純也が所属するモデルエージェントの社長の目に止まって、来月からモデルレッスンに通わされる事になっていた。通いが大変だからと社長の実家で華蓮を預かることも社長が強引に決めていた。

 「高のどこが モデル向きなのか 俺にはさっぱりわからないけどな…」

純也は柊士の言葉にニヤついた。

「柊ちゃんが描くモデルって立体的つうかむっちりした体型の女や男だろ? 俺等は デザイナーが作る服をいかに良く見せるかの仕事なんで、出来るだけ貧相な顔や余分贅肉のついてない体型が求められるのよ」

意外な純也の説明に
「え? でも雑誌やテレビでみるモデルって綺麗な女ばかりじゃね?」

「あー 作ってるからね プロのメイキャップアーティストが付きっきりで!どうしてもダメならちょっと顔イジるし 要するに 顔なんかどうにでもなる 女性モデルは上背 メリハリある細身の身体 まっすぐな長い脚と腕 八頭身以上 って条件かな」

「へー 高はその条件に当てはまったんだ」

純也の顔が突然曇る。

「でも、これで華蓮が命拾いしたとしても
身体に消えない傷が残ってしまったらモデルはできない…」

純也は脱力して項垂れる。

「そうか、ま、そうなるとはまだ決まったわけじゃないし、美容整形だってあるしなっ!」

柊士には珍しく確証のない希望を口にする。

「柊ちゃん その言葉 華蓮が無事なら直接あいつに言ってやってよ」

 純也は柊士の不器用な思いやりに救われた気がした。

「何で? お前が高 に言ってやれっ、あいつの世話焼くのだって 気があるからだろ?」

「…うーん そんなふうに見えるかな?」

純也から意外な返事が返ってきた。

「えっ、違うのか?」

「あー わかんねぇ~ 」
純也は待合室の天井を見上げた。


病院関係者に案内されて双葉社長がやってきた。

「純也ちゃんっ 大丈夫なのぉ?」

えっ、何で 俺?

「俺は何とも無いですが…」

「バカねぇ 華蓮ちゃんよっ!華蓮ちゃん」

呑気すぎる社長に、

「そんな呑気な話しじゃないすっ!生死に関わる重傷らしいです 俺等まだ未成年だから 詳しくは教えてもらえなくて…」
(当時18歳は未だ未成年扱いの頃)

「あらっ! そんな大変な事になってるの?困ったわねー… 傷とか残らないでしょうね?」


「社長っ ひょっとして 仕事の事ですか!」

純也が声を荒げた。

「そ、そんなんじゃないわよっ 顔ならどうとでも整形できるじゃないの、心配、心配してるのよっ」

図星を突かれて気まずい雰囲気の中


「ご家族の方 いらっしゃいますか?手術が済みました。先生から説明があるので こちらに来てください。」

救命センターの看護師が伝えにきた。


「はいっ はい、私…家族ではないですが、身元引受人ですっ お話し聞かせていただきますっ」

高身長の体格の良い二人の高校生の間から小柄なおばさんが勢いよく手をあげた。

純也は嫌な予感がした。

  社長 また 顔を修復しろとか、金はいくらでも出すから 使える身体に戻せ とか…
無茶いいそう…


二人はかれこれ10時間以上救命センターの家族待合室にいる。

「柊ちゃん、マジで悪かったな、社長も来たし柊ちゃん先に帰ってくれ、俺は社長を待ってからかえるから…」

純也の申し訳なさげな表情から

「おい 純也 ガキの頃からの付き合いだろ?遠慮とか 無し 俺も遠慮なく帰らせてもらうから」

町田柊士は 果てしなく座っていた待合室の無機質な長椅子から立ち上がって 背伸びをすると

「じゃあな」

  出て行く後ろ姿を見送りながら純也は心から柊士に感謝した。


一方 患者説明室内では、

「救命の三浦です。高 華蓮さんの手術の執刀をさせていただきました。貴女は…」

医師の視線をしっかり見据えて
「私 こう言う者です。高 華蓮さんの親代わりとして 今後全ての責任を代行させて頂きます」

社長は派手な名刺を三浦医師に差し出した。


「は、はぁ…」

   モデル事務所? 彼女モデルだったのか⁈
三浦医師はついさっきまで緊張の連続だった超難関の手術を思い出していた。

「えっ 側臥位からのアプローチですかっ!」

「先生…考えても見て下さいよ この女の子まだ嫁入り前ですよ、好きな男に綺麗な躰見せたいじゃないですか?…」

…僕なら 命優先で患者のQOLは後回しにしているところだった… 
一瞬こめかみから冷たい雫が流れた。

三浦医師は目の前の食い入るような眼差しを向けるモデル事務所の社長に、胸を張って説明した。


「では、先生 華蓮の身体の傷は?」

「はい、上着で完全に隠れますし、細かく縫合していますので 年月が経てばよく見ないとわからない程度には回復する見込みです。、顔の打撲痕は幸い裂傷も無いので 痣になる事は無いと考えています」


「先生っ!ありがとうございますっ、これであの子の将来も、我が社の未来も明るくなりました!」

社長はその場に立ち上がり、その小柄な身体をピタっと折り曲げて三浦医師にお辞儀をした。
   
     我が社の未来って…

「あ、いえ、 その 言いにくいのですが、彼女の将来を先に考えたのは 僕ではなくて、ですね…」


「はい?え?お医者様は未だ他にも?」

「あ、はい 今、ニュースで話題になっている黒崎先生が急遽応援に駆けつけてくれて…黒崎先生が彼女の将来を考えてくれた次第で…」


「黒崎先生…と、言うと 早瀬ヒカルくんっ!」

 目の前の小柄な社長が舞い上がった。
「あの…その方かどうか…」

「先生 もしかして 黒崎ヒカル先生?」

「あ、はい 」
 
「彼、今どこにいるんですかっ 会いたいなぁ
会わせてくださいよ!」

  その勢いに圧倒されながら
「黒崎先生は今回の手術に急遽応援に来てくださっただけですので お取次は致しかねます。今回の手術内容にご納得いただけましたら書面にサインをお願い致します。僕はこれから次の手術がありますので失礼します。この後の事は看護師から説明してもらってください」


 社長はしばらく放心状態だった。


 三浦医師は 余計な事を口走ったと後悔しながら退室していった。

残った看護師から
「では 患者さんがICUに入ったらお呼びしますからもう少し待合室でお待ちください」

看護師の言われるがまま純也達が待っている家族待合室に戻ってきた社長の目に映ったのは

香ばしい匂いが立ち込めた狭い待合室で弁当を貪り尽くす2人の高校生だった。


  貴方たち…? 何!

「あー 社長! 社長の分もありますよっ」

純也が口いっぱいに焼肉を頬張りながら叙○苑の焼肉弁当を差し出した。


「どうしたの? 買ってきたの?」

対面のパイプ椅子に腰掛けながら弁当を受け取った社長が尋ねた。

「柊ちゃんが 強面のおじさんから奢ってもらったらしい」

「奢って貰ったって…こんな高級弁当 知り合いか何か?」

怪訝そうに弁当を開けようとしない社長に

「いえ 何んだか知らないヤバそうなおっさんにバイク貸せとか言われて2人で叙々苑まで…
黒崎先生って守衛が呼んでました。
華蓮の命を助けてやったから有り難く食えって…意味不明な事言って俺と純也は二人前づつ、社長のまで特上一人前 その人が買ってくれました。」

  

双葉社長は また 呆気にとられてポカンと口が開いたまましばらく放心状態に落ちていった。








 




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