白衣の下(Ⅰ)悪魔的破天荒な天才外科医黒崎ヒカルと惨めな過去を引きずる女子大生の激甘ラブストーリー。先生ったらいきなり襲ってくるんだもん 涙

高野マキ

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入院3

「お姉さ~ん、ここにいたんですか!探しましたよっ 綾野君、手術終わりましたから、麻酔が覚めるまで時間がかかりますので…今夜は観察室で過ごして貰いますね」

只野先生の濃紺のスクラブは汗の染みが浮き上がり手術が大変だったんだと思わずにはいられなかった。


「ありがとうございましたっ」

先生にご苦労様の意味も込めて深々とお辞儀を返した。


「いえ~僕なんか…それで、ですね黒崎先生はまだこの後も三件の手術あるので手術後の説明が今夜遅くか、明日になってしまうかもしれないんですよ、もし帰られるのなら…」

私は只野先生の言葉を遮り

「いえ、今夜は弟の側に付いています」


「そうですかぁ~手術はね旨くいきましたので…明日には食事も摂れるって先生が言ってましたから…お姉さんも無理しないで下さい」

只野先生は巨体を揺らしながらエレベーターホールの方へ走っていった。私は観察室へ急いだ。


「お姉さんっ綾野君順調ですよ…この感じなら今夜には お食事ゼリーとか 摂れるんじゃないですかぁ?1時間おきにお熱はかりに来ますね~」

かわいらしいナースが部屋から出ていった。



(タダシ…手術も初めてじゃ無いから慣れてるよね)

1時間おきにナースが出入りし、弟はうわごとを繰り返していた。夜遅くになると

「姉ちゃん…喉渇いた…」

弟も言葉を発するようになってきた。この後の手順はわかっている。水に侵たしたガーゼで弟の渇いた唇を湿らす。

「まだね…飲み物、 オーケー出てないのよ…ゴメンね」

私が申し訳なく弟に話すと、

「いつもより楽なんだけどなぁ…喉が渇いたなぁ…」

お腹も空いているだろうに…丸一日食べていない。

「黒崎先生は、あんたの手術してから すぐに三件も手術してるんだってぇ… よく体力もつね…」

私は手元の時計で時刻を確認した。
午後9時…ノックの後観察室の扉が開き

「あのね―綾野君っ  先生から飲み物と軽い食事オーケー出たよっ」

只野先生はスクラブから真っ白いケーシーに着替えていた。


「只野先生…今日の手術は全て終わったんですか?」

黒崎先生の事が気になってしかたがなかった。もう帰宅したのだろうか…

「はい…一応予定は終了したんですがねぇ………… 教授の方の手術が長引いてまして…その応援で…黒崎先生はまだ手術室なんですよ… おそらくね、深夜までかかりそうです…」

「お医者さんって 大変な重労働なんですね…」

朝からもう12時間以上人の命と格闘しているなんて…なんだか‘奴’がカッコイイ…皆から頼りにされている…私には横暴で強引な男でも、人の命を何人も助けてる貴重な存在なんだ……

逢いたいよ…逢いたい…逢いたい、逢いたい逢いたい逢いたい逢いたい…………………………

頭の中が黒崎先生でいっぱいに埋まってきた…


「いや~ね…そうでも無いっす~綾野君も、もう大丈夫ですね!明日は元の部屋に戻れますから…」

只野先生は自分の事を尊敬されたと勘違いし謙遜しながら観察室を出て行った。


(只野先生もいつか 名医と呼ばれる存在になって下さい)

弟はゼリー飲料を二本平らげてまた眠りについた。
午後10時…消灯時間…私は手元をスタンドで照らし1階のコンビニで買った本の続きを読む。

[…三人兄弟の末っ子は 兄弟の中で一番出来が悪いが心優しく、 一人暮らしの母親はいつも 末っ子の事を気にかけていた。末っ子は仕事も旨く行かず母親にも会わす顔なく公園のベンチで途方にくれる兄弟に会いに行って母親の病気を知り…その末っ子は母親をポンコツ車に乗せて名医のいる病院まで運ぶ]…物語

涙で文字が見えなくなってきた。文字が織り成す感動的なシーンは私の琴線を激しく揺らす。私はティッシュを引っ張りだし 後から後ら出てくる涙と鼻水を拭き取りながらも本から目が離せない。
病室の扉が開いた事に気がつかないまま床に座り込み涙を拭いていた。


「どうしたッ?」

「えっ…」

聞きたくて待ち焦がれていた声…涙で先生の姿が良く見えなかった。手の甲で目を擦る。

「………」

先生は私の脇から両腕を差し入れ私を立たせた。


(…ふらつくよ センセイ…)

片手で私を支えて 自分の方に向き直らせると暗闇の中のスタンドの明かりをたよりに私の顔を覗き込んできた。
不思議そうな表情

「なにぃ?…泣いてんのか?汚ったねぇ顔だな、不細工が 余計にひでぇぞ」


(逢いたかっよぉ…) 

戦場から帰還した黒崎先生の戦いの汗をたっぷり吸収したスクラブに顔をくっつけて先生のオヤジ臭を胸いっぱい吸いながら泣いていた。でも------泣きすぎて鼻が詰まって匂いが解らない。
私は汚れたスクラブの上に羽織っている先生の白衣で顔を拭き鼻をかんだ。
頭上からカエルを踏み潰したような 先生の声がした。

「おいっ…弟が起きるぞっ、静かにして付いて来い!」


先生は観察室のドアから人の気配が無いか確かめると   私を関係者以外立入禁止区域へ引きずっていった。
深夜12時もとうに過ぎていた。




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