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クリスマスの夜

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分厚い木彫ドアを開けると…玄関に縦型シューズBoxが備え付けられていた。  ブーツ脱履用のチェストも用意されている。


「わぁー広いっ」

正面の真っ白な壁  真っ先に目に飛び込んだクリムトの

        【接吻】のフェイク。

  「素敵…」

靴を脱ぎ先生の後についていく。
壁伝いに左側のスライド扉を開けると、室内の間接照明がセンサーに反応し 柔らかく足元を照らしだす。目前のガラスウォールに都内のパノラマビューが拡がった。

私は、先生より先に窓際に駆け寄った。

「うっわぁ~なっ、なにぃぃ凄いっ」

窓ガラスに張り付いて眼下の景色に感激する。

「…」

夢中で景色に見入る私をそのまま残して、服を脱ぎ捨てた先生は、裸でキッチンの奥に消えた。規則 正しく ビルの合間を縫う道路。その上を細かいドットがキラキラと行き交う。

もう少しすると、夕闇が眼下の巨大都市に暗幕をかけ細かい光の粒が宝石に変わる。



腰にバスタオルを巻き、頭をゴシゴシ拭きながらシャワーを浴びてきた先生が、私に近づいてくる姿が、窓ガラスに写っている。
先生は、私の背後から眼下の都心を チラッと見てリビングのソファーに体を沈め、テレビをつけた。

年末のお笑いモノマネ合戦。 直ぐにツボにハマったのか、げらげら笑っている。

    (ご機嫌じゃん)
 

夕闇はやがて 夜のとばりへと姿を変えていく。  様々な色の宝石をちりばめた宝箱のような きらめく夜景に変わっていく。

     町は、クリスマス一色。

まさか、クリスマスを先生と過ごすなんて。 


去年、弟の検査と受診をすっぽかして、
(…最低な医師っ  てこき下ろしてたんだっけ…)


タオル裸のまま 先生はリビングとキッチンをうろつきだす。

〝ピンポン♪~〟

( あらっ 誰か来ましたよ )


先生はリビング入口のモニターを確認するため立ち上がった。

「なんだっ !何しに来たっ」

けんもほろろに 21階のエントランスまできている客に応対している。

(…誰?…)

私は、先生の横に行きモニターを覗いた。

「黒崎ぃ 開けなさいよ~ ご馳走差し入れにきたんだからぁ~」


(笠原先生!三浦先生まで  ‼︎ )

「っ何が差し入れだっ…!」

施錠を解除し 
「リノが来たら、玄関を開けてやってくれっ。俺は、着替えるから…」

先生はキッチンの冷蔵庫横と壁の間のスペースに入っていった。


( 何があるのか あとで探検しよう )

〝~ルルルル♪〟

「あっ ハイ ハーイ」

玄関を開けると 笠原先生がご機嫌でシャンパンのボトルをかざす。


「この~綾野ミチルぅ~幸せものめ~」


(笠原先生 酔ってますよ…)


三浦先生は、手荷物がいっぱいで ふらつく笠原先生を支えるのがやっとの様子だった。


「三浦先生っ 荷物を降ろして下さい」

私は、先生の荷物を降ろすのを手伝う。両手が開いた三浦先生は、笠原先生を腰から支えた。 私が二人をリビングに案内していると言うのに…先生はオヤジパジャマに着替えて お笑い番組を見て下品な笑い声を張り上げている。


「黒崎ぃ!なんだァァ  だっせぇ格好ぉ~」


(酒癖   私以上に悪いかも…)


「おっい 三浦ぁっ   リノと何処行ったんだっ  まだ 宵の口だぞ」

先生は振り回され困り果てている三浦先生に  追い撃ちをかける。
楽しいお笑いタイムを邪魔された 先生は意地悪全開で二人を困らせる。

  …

「すいません…今日にかぎって  早くから バーが開いていて… 」
三浦先生は頭を掻く…


「…とんだ クリスマスイヴだっな!」


「黒崎ぃぃ! お酒頂戴い~」

先生は 呆れ…つつ「三浦っ  土産の シャンパンを開けろ!」

「えっ? 」
私も三浦先生も 同じ疑念を抱いたと思う。

(まさか…そんな 事 )

先生は キッチンから両手にシャンパングラスを器用に4つ持ってきた。 その一つに注ぐと

「リノ  飲め!」


(え~~~!)

笠原先生は ご機嫌で一気に 飲み干し…目の焦点が泳ぎソファーに倒れ込んだ。私も 三浦先生も 黒崎先生の荒療治に 唖然とする。


「三浦っ ゲストルームでリノの服を解いて寝かしとけっ!」


「はっ はい」

三浦先生は 黒崎先生の命令を 忠実な部下として 実行した。

リノ先生は 急性アルコール中毒寸前で先生に排除された。

後始末を任された 三浦先生がお気の毒だった…。

玄関から向かって右側にゲストルームがある。中はツインベッドにクロゼットが備え付けられ、バスとトイレ、洗面が併設している。


三浦先生が 戻ってくると、  「お前さ、もうリノとヤったか?」

ニヤニヤ笑いながら失礼な質問をする先生に、三浦先生は、返事に詰まった。

「センセイ! 失礼ですよっ 」私は先生を睨んだ。


「ってかぁ… リノにお前が喰われた?」  先生の悪乗りは止まらない。

「先生っ、いい加減にしたらっ‼︎  三浦先生困ってますよっ」

「あ~ぁ   煩い女っ」  先生は悪態をつくと、またテレビに視線を向けた。

三浦先生は、私の助け船に乗り込み 話題を下ネタから逸らした。

「先生! 書棚の本拝見してよろしいですか?」

三浦先生は黒崎先生の蔵書が気になる様子。

(勉強熱心…)  三浦先生に好感を持った。それに引き替え誰かさんは



「一々聴くな!勝手に見ろっ…何なら全部持って帰ってもいいぜ~グッヒャヒャァ  ハハハァハハ…」  
お笑い番組に夢中。



私は 笠原先生が気になり様子を見にゲストルームへ行った。
先生は軽く寝息をたてながらベッドに沈み込んでいた。

( 三浦先生ご苦労様でした…)
笠原先生の枕元に水注しを置く。

リビングは各人が 自分の世界にのめり込むように好き勝手にくつろぎだした。 黒崎先生も笑いすぎの後は、シャンパン片手に論文執筆に入る。 三浦先生は、救命医療の概論各説に目を通し、解説は 執筆人の一人、黒崎先生が講義する。


(なんと まあ 贅沢…な)

私は、最近のマイブームの六法全書を読む。
先生の書棚から医師法や参考文献を拝借する。
( 先生がいつか 医療過誤で 訴えられないとも 限らないから…その時のためにも~ぉ…ねぇ  )

「おいっ   ちょっとだけ 校正できるか? 」

仕事モードの先生が、一番カッコイイと思う。

「大丈夫だよ」
私は、プリントアウトされた原稿の束のチェックに入る。
先生と三浦先生はソファーで…私は、ダイニングテーブルで……

( なんて クリスマスイヴなの…皆…学究の徒だ )


 (素敵な聖夜)



昼間 たらふく肉を食べたのに、消化が進み空腹感に襲われる。
ひたすら校正に没頭していた私は、二人が座るソファーに初めて視線を移した。それぞれ、クラッカーやらチーズやら、手元に用意して、先生は…竹輪をかじりながらキーを打っている。私だけ…食べる事を忘れていた…。
校正の手を止めキッチンへ移動し 、冷蔵庫の中を見た。  一人者のくせに、観音開きの大型冷蔵庫…ありえない。

中は…差し当たりめぼしい食べ物が………………………グゥ~見当たらない。がっかりした お腹…鳴く…鳴く…〝キュルル〟

 「あっ 綾野さん僕らの差し入れ 食べませんか?」

〝ドキッ〟 三浦先生が 気づいてくれた。



銀座のデパ地下で仕入れてくれた、デリカテッセン…早速 キッチンに運び 〝チン 〟する。


リビングに 芳しい空腹を刺激する香りが漂う…

( え~い  チンできるものは 全てチンしちゃえっ )

ロースト七面鳥のスライス、マッシュポテト、にんじんのグラッセ
クリームシチュー、春巻?酢豚? エビチリ …トルティーヤ…

多国籍デリカ?  私はダイニングテーブルに並べ、ワインを勝手に 空けて  “いただきます”  を先にしかける。ソファーの二人は、ちゃっかり 着席している。

「 あっだめっ!」パッチンッ‼︎
つまみ食いする先生の手を叩く。先生はお構い無しに文献片手に ぱくつく。

「綾野さんと 黒崎先生見てると ちょつと妬けます」


三浦先生は 小皿に欲しい物を取り 口に運ぶ。

「 妬ける?」どうしてか 聞いてみた。

笠原先生とは  ペースが合わしずらい…らしい。
強引で自己中心的  相手の都合は無いに等しい、そう思い こちらから都合付けて合わせると 忙しいと拒否され  振り回されっぱなしだと…。

私は酢豚に、箸をつけながら 

(…三浦先生 まるで私みたい)   心の中で 呟く。


黒崎先生は、私達の会話を聞くでもなく、分厚い資料をペラペラとめっている。


先生がチーズマカロニに手を伸ばすと、私は急いでキッチンからタバスコを取り出し、先生の手元に置いていた。母親の代わりと 主婦の代わりを 小学生の頃から 身に付けていた。

三浦先生のワイングラスに 先生宅から失敬した赤ワインを注いでいると…最上級なお誉めの言葉を戴いた。


 「綾野さん まるで うちの“お袋 ”みたいです」


       (おっ 、おっ、袋って‼︎ )

私は返事に困り…しどろもどろしているが、三浦先生にとっては、最上級の褒め言葉。

〝クゥッククク…〟先生が下を向き、笑いを堪えるがもたずに吹き出した。

「はヒヒヒヒッ~お袋だってよぉ‼︎ 」

先生は大笑いしながら、私のおでこにデコピンした。

「ミチルっ  お前って  ほんと、笑わしてくれるよなぁ」

( ムッカ!)

今怒ると 三浦先生に悪いので無視することにした。
先生は傍若無人に笑い転げている。


    (そのうち収まる…)      放置に限る。


宴もたけなわになってきたころ、バスローブに身を包んだ笠原先生が リビングに戻ってきた。私と三浦先生は、まるでホテルでくつろいでいるような 先生に言葉が出ない。つい数時間前、酔っ払って倒れていた人とは別人。


 「あ~あサッパリした  ハルヒもぉ シャワー浴びて来なさいよ」

そう言うと、キッチンまで行って冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出し一気に飲み干す。


 「くろさきぃ―!今夜泊まっていくよ   いいよねぇ~」
笠原先生は、甘えた声で先生にねだる。

先生は着信メールを確認しながら無視を決め込んでいた。 めんどくさい事はいつでも無視する。

(   笠原先生は、ずっと先生の事が好きなんだ…)

ふと、確信した 。  その一途さがせつない…私にはどうしようも出来ない。 黒崎先生は知っていて 知らん振りを決め込んでいるのか、今まで 一度も答えてあげなかったのか…

「ミチルっ ちょっとこれ どう解釈するんだ?」
黒崎先生がパソコンに入ったメールの和訳 を私に聞いてきた。

「はっ、 えっ…⁈ 」  私がどぎまぎしていると、

「私が 見てあげる!」    笠原先生が先生の横に行く。

「くろさきぃ~   なんか アメリカで特許申請した?」

「あっ  おぅ…去年か、 手術道具を改良したな   たしか、医療器会社に丸投げして任せてたが、それか?」

「多分 特許が 取れたみたい…」
笠原先生は顔を 曇らせ原文を再読し直す。


三浦先生も読んで…「先生っ!やりました特許取得ですよ!」

手放しで喜ぶ三浦先生と対象的な笠原先生の表情が気になった。

医療機器メーカーからも先生に電話が入った。同じ連絡が医療機器メーカーにも入ったとの事。  先生は、私達が驚きと喜びに湧いているのをよそに…

 「需要があれば…儲かるけどな  」 と、夢をぶち壊す…。


  (ったくぅ、そろばん勘定してる…)

この夜の アメリカでの特許取得は、 のちに先生の将来に大きく影響する事になる。 私は、病気の事を忘れてイヴのサプライズを自分の事のように喜んだ。

複雑なのは… 当の本人と  リノ先生が漠然と感じる疑念…



「リノ今夜は 帰れっ お開きだ」

先生は、特許の一件から、仕事モードに切り替わっていた。パソコンのモニターを見ながら時々 キーボードを小刻みに打つ。

「わかった そうする?」

笠原先生は、残念そうに、三浦先生を見る。

「先生、下のホテルのラウンジへ行きませんか?」

三浦先生が笠原先生の気持ちを汲んで誘った。


    (  優しいんだ  三浦先生…)

「うん…そうだね~クリスマスイヴだもんね、仕事人間は綾野さんに任せるわ」


笠原先生は バスローブから 着替えるためゲストルームへ戻った。 二人は今から階下のホテルへ行くと言う。 先生は 二人が居る事すら 
もう意識の中に無い。メール?のやり取り…か、メール相手は海外?  アメリカはまだ  イヴイヴの 仕事時間…。私は先生に代わって二人を玄関まで見送る。


「綾野さん 軽いセックスなら問題ないから、避妊はしてね…」

私は いきなりの 笠原先生の言葉に ドギマギする。目がキョドっていることに 気づいた笠原先生は、

「あれ?黒崎先生には伝えてあったんだけどねぇ…まっ、くれぐれも
“妊娠”  だけは 気をつけてねっ 明日 病院で」


〝―お休みなさい〟 玄関のドアが閉まると…残酷な現実に引き戻された。

              妊娠は出来ない

 軽いセックス…



先生が仕事に熱中している間に…未来の主婦候補のまね事をしてみる。ゲストル―ムのハウスキーピング。シーツ替えや 備品チェック

リノ先生がいつでも気持ち良く、お泊りできるように。

〝私の主治医さん〟
シーツ 、タオル 、バスローブ を抱えて先生の居座るリビングを通過しキッチンへ  冷蔵庫と壁の間の80センチほどの狭い隙間。

先生が 入浴の時に出入りしていた 隙間…しっかりセンサーが作動し照明が灯る。左右の壁は、リネンと薬品、入浴用品、洗濯、掃除洗剤、そして収納棚。  


「 オシャレすぎっ!」

タオル、シーツ、カバー類、薄手ブランケット、バスローブが 右の棚に何枚か ストックされ、左は薬品 洗剤類がきっちり収納されていた。


乾燥機内蔵の洗濯機に、抱えた洗濯物を入れ 洗濯機が指示する洗剤を投入すると、洗濯機が作動し始める。  天井には室内干し用の吊り金具が取り付けられていて、 先生のTシャツが 掛かっていた。

突き当たり左側の、スライド扉を開けると、洗面台、パウダーコーナーからトイレ 浴室へと続く。 スライド扉の正面にも同じタイプの扉があった。  開けると…主寝室、センサ―が感知し柔らかい間接照明
 が足元から灯る。天井には埋め込みの照明があり、 宮付きベッドの宮部分に明るさ調整つまみが付いている。  入口の壁にも調整つまみが設置されている。寝室の横の小部屋がウォークインクロゼット。

プライベートスペースの動線が短く、無駄のない設計。
私は新居を一回り探検して、寝室を出た。 


リビングで仕事をする先生が髪を掻き上げながら、私に視線を向けたので 、二人して目が合う。うっすらと口角を上げ ニヤつきながら、

「探検は終了したか… 隊長さん…」

ふざけた呟きをしたかと思えば、直ぐ仕事に引き返す。 私はシンクの洗い物に取り掛かり、ついでにコーヒー  メーカーでエスプレッソをセットした。

対面式だと 食器洗いをしながら先生の様子がつぶさに 観察できて楽しい。

コーヒメーカ―は エスプレッソの出来上がりを電子音で知らせてくれる。先生が仕事に没頭しているリビングのテーブルへ芳醇な香り立つカップをそっと置いた。

私はダイニングテーブルに 残っている食器や食べ物を片付けに掛かる。

途中休憩してダイニングの椅子に座り、先生を眺めながらエスプレッソの苦味と香りのギャップを楽しむ。

    (かなり お疲れ気味…)
時々、銀縁眼鏡を 額に引っ掛け、眉間を親指と人差し指で揉んでいる。黒髪のオールバックは 左右に毛束が崩れ…ハラリと一筋が顔に掛かっている。厭らしいほど色っぽい。

     (エロすぎっ)

私だけが知っている 先生だけのオヤジ臭にムラムラしている。今すぐ襲い掛かかりたい。先生の匂いを近くで嗅ぎたい。



先生に抱かれた姿を妄想する。仕種の全てが私の性欲を刺激した。
私がそんな欲望に 身を焦がしている事など 先生は気付くはずもない。モニターを見ながら考えこむ…姿が 私の体を乱す。エッチな衝動をこらえて、  「せっ、先生ぇ お風呂、先に入ってきます」
その場から逃げ出した。 

湯を全開に出しながら バスタブに裸体を沈め


(あぁ…私って 厭らしい、自己嫌悪だ)
先生を見て発情してる。

(セックスがしたい)


バスタブの縁に肘を沿わせ その上に頬を乗せる。 溢れる湯を うつろに見つめ…ひと時でも 先生と離れたくない…離れられない。
先生は こんな私を知っている?こんなにも 先生を必要としている事を…わかってくれているんだろうか 。


どんなに 先生から愛され 大切にされても 私の先生への欲望はそれ以上を求めてしまう。求めても、求めつくさなければ 、不安に苛まれ、いてもたってもいられない。病気が、私をそうさせている?

そうじゃ無い、本当の私は  欲深くて 痛い女なんだ。





音も無く 浴室の扉が開くと、一度に湯気が 湧き立つ。浴室内に垂れ込めた湯気は 扉の向こう側の人を包み隠した。私は重たい頭をもたげて  視線を正面に動かし 腕を広げ真っすぐその人に伸ばす。
逞しい腕が、優しい動きで私の体を絡め取る。静かに持ち上げられ抱かれ

「 おそいっ 」耳に熱い息が降り注ぐ。

私は顎を上げ 首筋から鎖骨を 先生の唇に押し付けた。ゾクッと快感が全身に走り思わずため息に似た声が出る。



「エロいなぁ お前  」私に巻き付く腕に力が入る。
二人の間に 隙間が出来ないように…

私は、そのまま 抱き上げられ  浴室から寝室へ運ばれる。私をケットで包み 濡れた 髪を 余ったタオルの端でゴシゴシ拭くのは先生。
手足はケットで包まれているから 抵抗出来ない…。

水分を吸ったタオルケットをいきなり 剥ぎ取られ 咄嗟に胸を庇った。
「バァーカ!下がまる見えだっ」先生が勝ち誇ったように言う。

「ヤッ…ダッ することが いちいち乱暴なんだからっ!」
私は腕で 両脚を抱え直し、体をくの字に曲げ抵抗した。


先生に腕を掴まれ丸まった身体を ほぐすように引き寄せられると、私の体は簡単に 無防備な体勢にされてしまう。
 


強引に抱き寄せられ 、私の鼻先まで 迫ってきた先生の ぽってりとした なまめかし唇がわずかに開き


「  メリー クリスマス 」  


  甘い吐息の様な囁き…           瞬間、鼻先に…キス…‼︎


〝―ァッ ん! ん! ん! 〟 痺れる 素敵…すぎる!


 〝    愛してる …  〟




( えっ? えっ! うわー――っ ダッダメェ )
耳を疑う囁き もう失神寸前  呼吸が出来ない…

「 結婚 するか 」


考える隙すら 与えられず キスの雨  両手首を先生の手で バンザイ状態にガッチリ固定され 私は先生の激しい情熱を全身全霊で受け止める。唇が私の肌から 離れた一瞬 上から鋭い茶色の瞳にフォーカス
され

「返事は?」


ハートを一突きで 射抜かれた。もう逃れられない…    離れない

私は貴方のもの
  


  「はい」




(先生 映画のワンシーンみたいだよ…)
先生の手指の一本一本を 確かめるように、私は 指を絡める。
( 大きな手の平 )ピアニストになれば…と思えるような長く 繊細そうな指先  シミ一つない手  (  綺麗… )

その手に 頬擦りし唇を押し当てる。先生の手の平に 夢中になっている私をよそに もう一方の 先生の手は 私の体に優しいアプローチを繰り返している。


「 ふぅぅ…ぁはぁ 」


私の背中は、先生の胸と密着し お尻は先生の体のカーブに沿って下腹部とぴったりくっつく、二個のパズルのピースのように。
先生の吐息が耳を掠める―

  「 うふっ  くすぐったいって 」


”  ケアンズに行く ”
その囁きも その時の私には遠い 快感の波間の中にたち消える・・・・


先生という  大きな海で、翻弄される小船のように
幸せの 波間で  ほんの束の間、この幸せに まどろむ 。

   













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