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新年を迎えて‥‥一月元旦
しおりを挟む病院は、クリスマスが終わると、早くも迎春準備が始まる。
クリスマス以降も、私の検査数値は安定を保っていた。マスクをすれば 病棟を出入りする事もできる。病院内のコンビニは、書店と提携していて、私のお気に入りの場所だった。休日の外来待合の次に好きな場所。 平日、回診の無い時間は、外来まで降りて コンビニで立ち読みして時間を潰していた。急に診察が入ると病棟からコンビニに連絡が入り 私は 再び囚われの身となる。
外来の広い廊下―受診の患者や家族が大勢行き来し、まるで渋谷のスクランブルみたいだ。 その隙間を外来の診察室へ向かう医師の白衣が行き交う。 最近は、若いドクター達は、濃い緑や紺のスクラブを着た上に、白衣を羽織り闊歩するのが流行りなのか 、テレビドラマの影響力は凄い。ユニホームマジックで 、皆が凄腕のドクターに見えるから、笑える。
私は何時も、気に入りの文庫本を見つけると 購入し、その広い廊下を壁に沿って本を立ち読みしながら移動する。これが人にぶつからず本を読みながら移動する妙技。壁沿いに這い 行き交う人の邪魔にならないように移動しているにも関わらず時々 、“邪魔をされる”
「 邪魔っ!」 真正面に決まって立ちはだかるのは 、外来診察へ行く
【先生】
(ったくぅ―)
先生は、私の頭上に手を載せて
「院内をうろつくなっ! 感染したら ヤバいぞっ!」
と 怒る。
(保護者かっ!)
私は、マスクを外して“ あっかんべ ”したい気分になる。
上目遣いに,
「うざい!」と囁くと…
先生は、片手で後頭部を抱えて頭を引き寄せ ギュッと力を込める。
「馬鹿めっ」
その一瞬の スキンシップは、大勢の受診患者の人混みに紛れる。一瞬で解き放たれ、何も無かったように外来診察室へ向かう先生…。
(一々 することが キザなんだから…)
わかっていても ときめく。
イチャイチャできない時こそ、先生が欲しくなる。
病院は12月29日から新年1月3日まで 休診するが、
高度救命センターは、年中無休…。
三浦ハルヒ先生は、年末に異動願いを出していた。
正式には1月4日付けの辞令だが 、〝 かきいれどき 〟の年末年始は、ドクターヘリに乗り込み 初期治療も精力的にこなしていた。
救命センター長(教授待遇)も 胸部外科ホープの助っ人に救命率アップの期待をかける。
相も変わらずの黒崎先生は、 “ 症例集め” の為に、緊急オペには精力的に加わる。黒崎~三浦ラインは、院内でもその実績が評判を呼び、早くも、今後の救命の目玉になりつつあった。
近頃は、三浦先生から直接オペの要請がある。先生はその全てには答えない。あくまで自分の興味か、研究対象のみと割り切っていた。
三浦先生は、 「うだうだ助けを 求める暇があんなら、 “ 切れっ”」
と、叱責される事も一度や二度ではなかった。
しかし、三浦先生は、諦めず 黒崎先生とのオペの機会を少しでも多く持とうと考えている。 何かを 察しているかのように…
ずっと体調が安定していたので、お正月の外泊の許可が得られた。
先生は 両家の対面と結納を、先生の実家である鎌倉の料理旅館で執り行う事を、事前に “ 神戸 ” に伝えていた。
事後報告はいつもの事で 諦める。すべてを先生に任せた。
私は、先生に体調さえよければ、4月から大学に復学したいと告げた。 先生は、満足そうに 「夢を掴んで、俺に見せてみろよ」 …って
( 婚約しても、 お嫁さんになるのは卒業してからだよ…ずっと先だよそれでもいいの?)
束縛されないのも 不安だった。 少しは、焦って束縛して欲しいと、我儘な事を考えたりしていた。
破天荒で、自己中な先生が結納なんて、古風な儀式にこだわるとは、…私は、古臭いと思いつつも、少し見直す。
それにしても、 一癖も二癖もある “ 綾野ツヨシ ” (父)を、良くも説得出来たもんだ。どうせ父親の本心は、さっさと嫁に行って 検察官など諦めろって事なのか?
元旦の朝。
先生は前夜の大晦日、三浦先生と救命センターで “お仕事” をこなしていた。 お仕事が終わったのは、元旦早朝。 その後、直ぐに私を
病棟まで迎えにきた。鎌倉のお母さんの所へ行く。
年始の挨拶も そこそこに、お母さんは いそいそと私の準備に取り掛かる。 振袖は、お母さんがまだ芸妓さんになる前に作った正絹の総絞り。 真っ赤な地色に桜の花びらが舞う。
私は着せ替え人形のように、先生のお母さんの手にかかり、見事な振袖姿に変身した。
「…ちょっと! ちょっと~ぉ ‼︎ センセーッ 見て…見て~」
大振袖姿でくるくる回って 見せた。
「馬子にも 衣装だな…」 憎まれ口を叩く先生の目は、満足げに輝いている。
「ヒカルさん…貴方のお目がねに叶うだけの事あるわっ!本当に、なんて、かわいいお嬢さん ! 大切にしなくちゃね…」
お母さんも笑顔で 私がはしゃぐ姿を見つめる。
やさぐれた男やもめの父親の下で育ったせいで…着物…和装など…生まれてこの方、まともに着た事がなかった。成人式の歳は…受験生…七五三の七歳の時は、母親と洋服姿で写真が一枚残っていた。
考えて見ればかわいそうな女の子と、言えなくもない。
髪は、お母さんがあっという間に、結い上げてくれ、髪飾りで仕上げてくれた。
父は、祖母と 弟を 神戸から旅館まで連れて来てくれた。
親族一同が揃った所で、結納の儀式が厳かに執り行なわれ、婚約指輪が 先生から私の左手薬指に…
ちなみに、TIFFANYではなかった。予想は 呆気なく覆され、
〝…Harry Winston 〟? 恐ろしく忙しい先生にしては、良くここまで抜かりなく準備が出来たものだと感心する。
〝 どうだ 全て完璧だ 〟といいたげな、先生の髭面。
(センセー!)
髭剃るの忘れてるよ―‼︎ もう手遅れ。儀式の後、大層な祝いの膳が用意された。 板前さんが、〝 坊っちゃん 〟の為だけに、腕によりをかけた料理の数々に 一同舌鼓をうつ。
父などは 、先生のお母さんにぞっこんな状態。
弟は ちゃっかり 先生から お年玉を貰い…
“兄”と 認めてやる? 随分と歳のくった兄…
父親達は、お母さんの旅館に一泊し、その後 東京の叔母宅へ行き 年始の挨拶と、結納が無事に済んだ報告をする予定になっていた。
私達は 鎌倉には泊まらず、マンションへ…とりあえず “新居” へ向かう。着物から解放された私は、 締め付けられてほとんど食事が摂れなかった。今頃になってお腹が 空いてくる。
「お腹すいたぁ…お腹すいたぁ」 と、訴えた。
先生は、気を利かせハンバーガーショップのドライブスルーに車を滑り込ませると 適当にメニューを注文する。
私は助手席で 〝 貪る 〟の表現通り、下品にハンバーガーを食べた。
「さすがのお前も…緊張して食えなかったってわけだ」
先生の髭面.横顔がにやける。
「 緊張なんてしないけど、着物がさぁ きつくて きつくて‥」
話しながら食べる。
「 ウッぐぁ~ッ ‼︎‼︎ 旨っ!」
「 野生かっ…!」先生も呆れる程の食欲を披露した。
やがて車は、首都高の インターを滑るように下ると 大学病院の巨大な建物の後方に、スルスルと細い54階建ての超高層マンションが目を引く。
先生は地下2階の駐車場に車を乗り入れ エロモード全開の私に 甘ったるいキスをする。私は獰猛に先生の唇をこじ開け舌を刺し込む…
〝 ふぁぁ…!〟
「おっ、おい! まっまて!」
先生は 、私の強引さにたじろぎながら 興奮している私を引き離した。
「ったくぅ・・ 家に入ったら思いっ切り 可愛がってやるから待てっ」
「待て・・な・・い」 甘えるように首を左右に振る。
「ダメ 大人しくしてろっ!」 先生は 私をギュッと抱きしめ耳たぶをカチッと噛んだ。
「あうっあぁ・・ん」 噛まれた痛さも快感に変わる。
強引に私を助手席から降ろした先生は、腰に回した腕に力を入れる。私はピタリと先生に纏わり付いた。お互いがまるで磁石で出来ているように。 先生の体に頭を預ける。
エレベーターで21階エントランスに出る。
この界隈は、大使館が多く このマンションも外国人の住人が少なくない。エントランスでも 新年を祝う外国人カップルが 、人目も気にせず 濃厚な抱擁やキスを交わしている。私は 先生にほとんど体重を預けながら自宅のある47階へ…
玄関扉を開けるとクリムトの接吻
抱き合う男女に触発された私達は玄関で愛し合った。初めて一つに溶け合った余韻に浸りながら先生は、私を背後から抱きしめ…肩に唇を押し当てる。
私は 壁に掛かる クリムトの
【接吻】を見つめながら、
( ね‥先生いつか 本物を‥‥見に行きたいね…)
心で呟き 背中から回された先生の腕を、撫でる。なめらかで張りのある筋肉の凹凸と、体毛のざらつき すべてが 愛おしい。
(…はぁぁ…)ため息が漏れる。先生の私を抱く腕にギュッと力が篭る。熱情のままに 抱き合い 激しい淫らな行為の間も 体感温度は
室内 センサーが適温に保ってくれている。
先生は 私の首に唇を押し当て 少しずつ耳元に近づくと、
「もう お前‥無し…じゃ…無理…か…も」
耳たぶに噛み付く
「 はぁ ん 」私は 先生の腕の中で180度回転し…うっすら無精髭の生えた頬に手を沿え 黙って 先生を見つめる。
先生の 瞳の奥から 深い愛情を感じる。
二人だけの元旦が
更けていく。
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