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ヘイマンリゾートビーチビラ2日目

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私は ベッドの上から朝日が昇り始めるのを見つめていた…窓の外は暗闇から僅かな光が射し、グレーから薄いピンク色へと変化していく。背後の先生は ブランケットを抱きかかえ低い寝息を立てている。窓ガラス越しのテラスに少しずつ 日が射し、白い砂一粒一粒がキラキラと輝きを放ちだし 寄せては返す波に砂粒が踊る。


許されるなら…ずっと此処で 先生と暮らしたい。

( 現実から逃げ  出したい・・・・)一雫の涙が 頬を伝う…。

辺りはやがて乳白色にかわり 海上は綺麗なピンク色に染め上げられてゆく…。裸の素肌にシーツを巻き付け そっと 先生を起こさないようにベッドから出る。まっすぐに正面のテラスが見える窓ガラスの前まで行き、ヘイマン島の朝焼けに息を呑む…………


 天国という場所が あるなら まさに この場所

目の前の海原は 綺麗なピンク色からやがて荘厳なシャンパンゴールドの輝きの中へ――― 両手をガラスに当て、素直に神様に感謝している私がいる。

   黄金の光に包まれこのまま死んでもいいかもしれない……
そう思った時、私のガラスに当てた手の上に長い綺麗な指の大きな手が重ねられる…私の頭の高さに合わせて顔を


「先に起きるなよ…」   甘く囁く先生


「何考えてたんだ?」


「何も…天国だな 幸せだな…って」


先生の長い指が 私の重ねられた手に絡まる。


「そうだろっ…♪」  
先生は得意げに相槌をうつ。

「俺が天国だって言ったよな !」へらへら笑う。

(まったくぅこの人、大人だったり子供だったり、可笑しな人…)

私を虜にして離さない….。



そのまましばらくガラス越しに二人で朝日が昇るのを見届けよう。



朝は、ルームサービスを取ると決めて 私も先生も部屋着のまま寛ぐ。

「オハヨー ゴザイマス」

ウイリアムが ワゴンで朝食を運んできてくれた。
数種類のバンズやシリアル、スクランブルエッグ  フレッシュサラダ 、飲み物  フルーツ  ヨーグルト・・・・・・ヴィラのダイニングで
テーブルセッティングが済むまで、先生とテラスからビーチで遊ぶ子供達を眺めていた。

「可愛いらしいね」 思わず笑みがこぼれる。

「ふん ガキか…」  
先生には別れた、奥さんとの間に 7,8歳の子供がいるはず。

「先生の子供さんの事…聴いたらまずい?  」

好奇心から拒否されるのを覚悟で尋ねた。


「Mr.Mrs.クロサキ…ゴヨウイデキマシタ  ドウゾ コチラヘ  」
ウイリアムが呼んでくれる。
ダイニングに並んだ朝食。カトレア 胡蝶蘭 シンビジウム…目にも鮮やかな熱帯の草花が テーブルに飾られ食べる前にうっとりしてしまう。

「ノミモノハ   イカガ  イタシマショウ?」

先生は、フレッシュミルク  私はオレンジジュースを頼む。先生はバンズにバターを塗りながら、給仕するウイリアムにチップを渡し退出するよう言う。  ウィルは笑顔で、用があればすぐに呼んでくれと言い残し出ていった。


無言で食べる先生を見ながら、

「ウイリアムを追い出したのは、子供さんの事…話してくれる気 あるんだ~」
私はスクランブルエッグを小皿に取り分け先生の前に出す。肘を突き 顎を手の平に載せた先生が話し出すのを 待つ。
出されたスクランブルエッグを スプーンで掬い一息つくと…

「〝 タクヤ ”って云って 今年小学校二年生か…」
掬ったスクランブルエッグとバンズを同時に口に入れる。

「ふう--ん 可愛い?」

私はタダシの小さい頃を思いだす。私の思惑は外れ、先生の表情険しくなる。

「…」

当時は、アメリカから帰国したばかりで仕事に忙殺され名ばかりの婚約と結婚など、思い出せないほどどうでもいい事だった…と、先生が話し出す。

「タクヤは 妻の再婚相手とベルリンで暮らしている。」


「 えっ!  」 と…声をあげた。去年欧州の学会の後の 単独行動…

外来の主任看護士さんが、勝手に一人でふらついているって怒っていた。
(もしかして…会いに行ってた?)

「あいつが 駆け落ちしたのは話したか?」
先生は、スクランブルエッグをくちゃくちゃ掻き混ぜながら 私の顔をニタリと見る。いつものふてぶてしさが戻る。


( あら…開き直りだしたのかしら? )



「先生と一緒になる前から 好きな人がいた…とかだった?」

お母さんの旅館で聞き取りした事を 思いだした。

「まあ…俺が悪い…彼女に申し訳ないが…、女として見れなかった」

眉間に縦皺をよせ、険しい表情の先生は ミルクをぐっと飲み干す。

(あらっ ら、口にミルクの髭…まったくぅ  もう…)
シリアスな流れなのに、ぶち壊し…私はテーブルナプキンで先生の口に残るミルクを拭き取る。


( 無精髭… 剃ればぁ⁈ )
調書を取ってる時に、余計な事が気になる。

「聞いて いい?」  
 疑問をぶつけた。

「男の人って…すぐ女として見れないとかぁ  言うけどさ…
…ぶっちゃけセックスはしちゃうんだ…」


(あっ…言っちゃったよ! ヤバいかも…だけど…二人の間には、子供がいるじゃん! 愛がなくても、子作りはできるんだよね…)

言った後で、後悔しても後の祭り…先生から言い訳なんか聞きたくない  逆ギレしたって構わない と思った。



(あれ…? 無反応…じゃん‼︎ )

恐る恐る顔を上げる。先生は 我関せず、二個目のバンズにかぶりつきベーコンに手が伸びている。  答えを聞くまで先生を見る。


「お前 ぇ!喰ってねえじゃん 喰えよ!」

急かされ  慌ててポタージュにパンを浸して口に入れる。

「俺さ…男じゃないかもな  !お前がたてた〝仮説 〟なら…」

(へっ…仮説?)コッフン コホッ!食べた物を喉に引っかけそうになった。

(なっ、何をいきなり 言い出すやら!)

「コホッ ゲッホ…男じゃないって どういう事よ?」

まだ裏があるらしい。 先生を凝視する。

「私が知るかぎり…そう経験はありませんが、先生はそうとうの 好き者と言うか、好色と言うか…」

変に殊勝なことを言われると調子が狂う。


「おまえー好き者ってぇぇ!こ、好色ぅ?」
グヒヒヒィヒ グァハハハハ‼︎!

下品に大笑いするそこいらのやさぐれおやじに


 笑われた私はムッとする。



   ( またまた  下品に笑ってはぐらかす気だ )



「わりぃクククク お前やっぱりいいわ!  最高」
先生は立ち上がり私の頭を撫で回す。
私は、先生の手を払い除ける。

「だからさ…お前みたいな女じゃないと 抱けねぇって事さ」

褒め言葉とは、受け取れない。


「変態!」
(腹が立つ―――!)


「そんなふざけた事言って 、ちゃんと子造りしてるじゃん」

私は横を向く。直ぐに反論してくるだろうと、想定していたのに…
意外にも ダンマリを決め込む先生。
ソッポ向いたものの、少し気になり 横目で先生をチラ見した。
先生はポタージュをすすりながら バンズを口へほうり込む。


「何ぃ?怒ってんだよ…訳わかんねえ 奴 “ お前がいい ”って告白してんのによ、だからぁ…何が知りたいんだっ!」

(無視! 無視! )知らん顔する。



「あーぁ 面倒くせぇの」
先生は 椅子から立ち上がり 私の傍に来ると、立ったまま 私の頭に手を乗せ腰辺りに引き寄せ 頭をくしゃくしゃ撫でまわした。

私は、上目に先生を睨む。( スキンシップ…でごまかすなっ!)

先生は、遠くの海を一瞬 、切な気に見る。



「タクヤは …俺の子供じゃない…」


ドック ドック…胸が…         


ギュウと 胸が詰まる…聞かなければよかったと、後悔する一方で

さぞかし 苦い思いを味合わされただろう先生を、守らなくちゃと、一方的な 保護本能がもたげてくる。私の正義感をよそに…肝心の本人は ケロッと朝食にぱくついている。  おそらく今の旦那の “ タネ” だろうと先生は話してくれる。


「どうして⁉︎ そんなこと、DNAを 調べれば 解ることじゃん‼︎ 」

先生が タクヤ君の出生を調べない訳が知りたい。

「調べて どうなる?」  
先生が またニタニタと厭らしく笑う。

「だってぇ…戸籍上は先生の実子だよっ!でも本当のお父さんじゃないかもしれないって!  マズいよ」



( タクヤ君が将来 戸籍謄本とか必要になった時・・・・・そう考えただけで…起こりうる 騒動…ゾッとする  )

安易に質問すると 脚を掬われそうだが、先生は余裕で 私との問答を楽しんでいる。また私をネタに 遊んでる。

(  とりあえず   朝ごはん…)
先生があちこち汚ならしく食べ散らかして、残り―――

(あっち、こっち 手をつけてっ~!やだっ)


「先生っ 、スコーンとか リゾットとか、何かぁ― お腹にドッシリとくるの食べたいな…」

「ウィルを呼べっ」
先にお腹を満たした先生は 、新聞に目を通しながら自宅感覚でくつろぐ。 ウイリアムに連絡すると、日本食があると言うので試しに 頼んでみた。

(  落ち着け…  DNAも調べないで 離婚したんだよ…子供の親権も あっちなら、戸籍上の問題だけ…か? えッ⁈ でも…本当のお父さんの養子…‼︎  そこんとこタクヤ君が 知ったら、どう理解するんだろ…やっぱ、先生がどう考えてるのか…確かめたい!  確かめたいけど…)

先生は何処吹く風…とばかりに、取り寄せたワシントンポストの記事に見入っている。


!!!!!



ウィルが運んできてくれたのは、ご飯 、のり 卵、味噌汁

「わぁっ♪  頂きます!」

「Mrs.クロサキ  ミソスープハ、ネギ ト、トーフデ ヨカッタ デスカ?」
ウイリアムは ご飯と味噌汁をよそってくれる。

ダイニングに 味噌の香りが漂いだすと新聞を読んでいた先生がモソモソしだす。


「ウィル!シェフは日本人もいるの?」


「オキャクサマノ オクニニアワセテ、シェフヲソロエテ オリマス」

「 私達だけのシェフなわけだ♪」


「バ~カ!んな、訳ないだろが!日本食レストランの板前だろ ⁈」
先生が味噌汁につられ私達の会話に入ってくる。


「Mr.クロサキ  イカガデスカ」

「くれっ」


( まだ食べるんだ…)

私は、お腹が満足しだしてきたので 先生への質問を再開してみる。


「先生は 去年のヨーロッパの学会のとき、 一人 別行動したって聞いたけど・・・」


先生は 熱いご飯に卵をのせ醤油をたらし 掻き混ぜながら

「タクヤに日本のゲーム頼まれててさ…」


「そっかあ!パパしてたんだぁ~♪  タクヤ君に好かれてるんだ」

先生が卵かけご飯を食べ始め 無言になる。

「日本のゲームとアニメは 世界一だよねーー‼︎ 」

私が話しをふっても、乗って来ない。

それどころか、眉間に縦皺は 苦しい証拠か―


「もしかして   好かれてない…とか…? 」
ちらりと先生の表情を観察する。


「まあ…最近は、かなり挽回してる」


(えっ!今まで嫌われてたんだぁ‼︎   うちのお父さんだよ…まるで…
で、挽回のきっかけがゲームなわけか……………)


「おおっ!そういやお前の 弟っ!!役にたったよ」


「へっ…?」
(なんで、タダシのバカが登場するのよっ)



「いやあ~ お前の弟さ、入院中ゲームばっかりしてたろ…でさ…教授にね…」




「…わかった‼︎ それ以上いわないでっ」


タダシは、あれだけ嫌っていた先生を ある頃から突然、彼の中で認めだした。


※※※※※※※※※※※※



去年  入院中…教授回診の時、

ゲームばっかりしていないで院内学級で勉強しろ…と、タダシは教授に沢山の医師の面前で お説教され 皆から笑い者にされた。その時

「教授…お言葉ですが、院内学級も春休みですから…」

この准教授の惚けた切り替えしに、怒るわけにもいかない教授は、苦笑いを浮かべ  日頃から何かと教授の横柄な要求に堪えている医局員、取り分け原田先生等は溜飲を下げた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※




衆目の中 教授にハジをかかせる形で、タダシの肩を持った…先生。
先生は タダシに〝 恩 〟を売って取り込んでいた。


「タダシと、タクヤ君と先生の関係は?」


私の取り調べに―――


「だからぁ―、弟にさ、助けてやった代わりに…今  、日本で一番人気のゲームを何とか 手に入れてくれと、頼んだ…」


「エーーーーーーッ!」
タダシは 叔母にあれこれ新作が出る度、立て替え払いで購入して貰っていた。


『 本当っ!〝 ツヨシ 〟ったら甘い父親! タダシに 幾ら  小遣い渡たしているのかしら?』と、文句を言いながら、発売日には早くから並んで購入してくる。(  叔母も甘い…)


たった今…資金の出所は 目の前にいるオヤジ…だと分かった。


             《 黒崎ヒカル 》

私が 叔母に頼まれ、せっせと病院に運んだ新作ゲーム、裏で操っていた犯人~ 〝 先生 〟 だった。そんな事情で タダシを手なずけた…油断も隙もない。


( くぅう…ムカつく )私は 苛々を顔に出さないように、造り笑いで…


「タクヤ君 、喜んだでしょ~?」
もう、バカバカしくて どうでもいいけど 質問する。


「おっ  、さすが! ゲーマーな弟だな、今度 タクヤが 日本に来たら弟に預けるかなっ♪ 」
( いい親子関係じゃん!)


たったそれだけのために 、帰りが遅いとどれだけ心配したか…
私って…ただのバカ?   タクヤ君に 好かれてないとか有り得ない。
仲良し!  年に…ニ週間ほど鎌倉に泊まりにくるらしい。


【タクヤ君には、お母さんが責任をもって 先生との関係が壊れないよう配慮して、真実を伝える事。  親権 養育 それにかかる費用は、全て実両親である今の両親が負う。 本人と面談するのには制限無し 】

と、弁護士を介して取り決めもしている。


(心配して損した…この件に関しては 保全の必要なく〝  しろ  〟と判明 )

タダシから信頼を取り戻し医局員の日頃の鬱憤を晴らす・・・・この 人
案外   抜け目なく出世するかも…しれない。



( 私――ひょっとして!  超ド級の  玉の輿? に乗ったかも…)














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