白衣の下(Ⅰ)悪魔的破天荒な天才外科医黒崎ヒカルと惨めな過去を引きずる女子大生の激甘ラブストーリー。先生ったらいきなり襲ってくるんだもん 涙

高野マキ

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香川君と‥‥


朝の光が遮光カーテンのわずかな隙間からベッドルームに差し込んでくるので 閉じた瞼の薄い皮膚を透して 私の眠りが妨げられる。

“…………ぅん ”

寝返りを打つと、左側に伸ばした腕が コツっと当たった。
ベッドのスプリングが、僅かに波打ち 先生の大きな体が反対側に返りモゾモゾ動く。そっと…息を殺して見守ると、静かに寝息を立てている。


 「…お酒臭い 」

( 笑っちゃう…そこいらの酔い潰れたオヤジ  … じゃん )


広いキングサイズのベッドの上で、ゆっくりと上半身を起こしてみる。 大丈夫…貧血はない。
左側の先生の裸の背中は、
一段と日焼けして皮膚が艶めき まるでワックスを塗ったみたい…肩甲骨の周りから背骨にかけての綺麗な曲線と 筋肉の盛り上がりにうっとりと見とれてしまう。


小さなお尻は 残念ながら、薄い絹のブランケットで被われ輪郭がわずかに透けて見え…先生の引き締まったお尻が生で見たいと思ってしまう。ベッドから降りて冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、飲みながら 静かに背伸びして先生を起こさないように用心深くテラスに出てみた。ヴィラのプライベートビーチから、朝日に輝くグレートバリアリーフの絶景に息を呑む…。

このままどこにも行きたくない。   …この景色は私に永遠の命を約束しているような幸福感を与えてくれる。

パジャマのまま 朝のビーチに降りてみた。

白い砂が素足にチクチクと当たる。波打際で海水に足を洗われ、ひゃっ…と声を上げ 、ケラケラ…独りでに笑える。


  ( 生きてるッ!)

波打際の砂は濡れて素足を刺す事もない…

……………………………………

…………



「 うわぁっ !」背後から先生に捕まる。

腰に薄いケットを巻いただけの大胆な格好…いつもの子供っぽい悪戯を仕掛けてくる。私の首筋に顔を埋めて スー―ッと深い呼吸をした。


「お酒臭―い!」
先生の腕を振り払おうと ジタバタ暴れてみる。

「ダメ  絶対 離さないぞ…………放してやんねぇ………ぞ!
臭ぇ―かぁ ~、ん?ん ?ん…ほれーっ」

〝ハァァ――――ッ 〟


「ヤダーァー 辞めてぇ―ってばっ …!」

鼻を摘む…大人のくせに子供っぽい先生…

  じゃれる。     悪戯する。 そんな… 先生が 好き…




 ( 離さないで…)


先に ケアンズへ 発ったナオミ先生達を 追うように、午後私達もヘイマン島を後にする。ケアンズでは香川君が待っていてくれる。


ハミルトンから 小型飛行機でケアンズに着いたのは午後4時を過ぎていた。空港からタクシーでホテルに戻る。


「ミチル…」


「えっ、 なあに?人の顔…ジロジロ見てぇ 何よ?」

先生はホテルの玄関ポーチで私の顔を見るのを止めて 正面を向くと、
「そばかすが増えた…な」

そんなひどい言葉を囁き…私をエスコートしてロビーに向かう。


( ひどい…気にしてたのに !)

もともと、そばかすが頬から鼻柱、頬と ポツポツとあった。
日焼けすると余計に色素が濃くなり青白い顔によく目立つ…

先生は愉快そうにニヤけながらロビーのソファーへ私を座るように誘う。私の横に座るとククッとまた笑う。

「この世で一番言われたくない事…言われたっ」

(…ここが公の場でなかったら、一発おみまいぐらいじゃ…済まさない…んだから っ!)


怖い顔を作って睨んでみる。


「…マジで 怒った顔…か? かわいいぞ~」

またジロジロとみると…

「今度から そばかすの数数えてやろうか…」


…………!!


…………………

       イラッ…



「おぅっ !香川 ぁここ ここ っ」

先生は客室用エレベーターから出て来た香川君を見つける。


エレベーターから出てきた香川君は、スーツに身を固めメンズファッション誌の一コマを彷彿とさせるほど素敵だった。




「香川っ  、会場の下見はしたか?」

香川君は ナオミ先生一行や、T大学から来たスタッフと明日の進行について会場で段取りを済ませていた。


「香川よ、 ナオミの奴…また 我が儘…言ってないだろうな」


「ええ  、大丈夫だと思います…座長を嫌がっていましたが、座長はナオミ先生でないとオーストラリアで開催する意味がない…と説得しました」


「ったく…自分が目立って なんぼの女だからな…裏方を嫌がるんだ
自分の講演時間が減るからな…よく黙らせたっ、上出来 上出来、お前さ ナオミと相性いいかもな…   俺が言ったって聴き入れるタマじゃねぇからな…」


先生は香川君の交渉力に一目置く。語学力はもちろんの事、度胸があり とっさの事態にも冷静に対処出来る。この時、先生は香川君を後継者に育ててみたいと 考えだしていた。

翌日のコンベンションセンターでの医療講演会は主要先進国の医療研究者が一同に参加し盛況のうちに幕を閉じた。

夜は各国主要研究者が集い盛大なレセプションが開催された。


夜のレセプションの後、「 先に、ホテルに戻って寝てろ…」と、言い残したまま 先生は、私を香川君に任せ 雲隠れしてしまった。

( 真夜中まで 気になって 眠れなかったのに…)
連絡も無く、朝になっても ベッドの隣は空の ままだった。旅立つ前…持ち物から何まで 全て先生に任せていた ‘つけ’ がまわる。

( 連絡方法が無い…私は、今まで先生の何を知ってたんだろ…携帯電話の番号すら覚えていない…)

「全くどこに行っちゃったの…よ」
段々 腹が立ってくる。

時計は午前8時…を指した時 部屋の電話が鳴る。


(!先生だっ‼︎ )

ベッドから飛び出したい―衝動を抑え そろそろと起きてみる。
急に起き上がると、目眩が襲ってくる。

(よっしっ!)

電話の受話器に手が届く瞬間…、呼び出しベルが鳴り止んでしまった。


……………………
…………………

ザワザワと胸騒ぎがする。


( 先生…酔っ払って トラブルに巻き込まれてないかしら…何やってんの……ったくぅ )

頭の中は ネガテイブな妄想で支配される。


( 先生の事だから、ナオミ先生達と盛り上がって今頃…は…綺麗な金髪美人にお持ち帰り…〝ドックン〟…それはヤダ! まさか事故とか―! 怪我して運ばれた…ぁ⁈    やめてぇ~よぉ…な訳ないよ…連絡くるハズ…あゝ!妄想が止まらないっ!せんせいぃ~)

そんな、情け無い状態で 悶々と していると、スイートの扉が コン コン とノックされていた。 扉のノックの音も聞こえないくらい、パニックになっていた…。とうとう、


『 Mrs.クロサキ 入ります』

マスターキーでドアを解錠し、ホテルの従業員と一緒に入って来のは、香川君だった。


「かっ、香川くぅん!」

私は、異国の夜を一人ぼっちで過ごした心細さも手伝って香川君の姿を見た途端、ハグを求め両手を目一杯広げた。香川君は長い腕と広い胸で私をふんわりと包み込む。


(---いい匂い )

私の不安は 香川君の香りで半分は解消されたようなもので……この時は 無神経にも彼の気持ちなど考えもせず…彼に訴えた。


「 “せんせいぃがぁ 帰って来ない”」

背中を摩ってくれる手の平がほんわかと温かい。


( 君が…電話に出ないから心配したよ…)

「大丈夫だよ、先生なら…。また僕に‘ 指令’ が下ってるんだ」


( 指令.?)「何っ  それっ」

香川君っ、かっ 顔が近いっ! 香川君の顔が顔を上げた私の鼻先に あった。


(   勘弁してぇ~)


 私は 香川君の 腕の中から跳び退いた。
「ごっ 、ゴメン!つい… 先生が 帰って来ないから…」

涙目をごまかし、ゴシゴシ眼を擦る。






(…ふ~ん 泣いてたんだ ♪)

「綾野さん 先生の‘ 指令’ ってね 、今日一日 ケアンズ観光のお供をしろっ だってさ 」

香川君の笑顔眩しい。


「先生はどこ?」


( 香川君が居てくれるなら、‘オヤジ’ は居なくていいかも…)
そんな黒い気持ちがムクムクと立ち昇る。


「先生は、夕べ 最終便でメルボルンへ 発たれたんだ…」


「メルボルン!」

( ナオミ先生とぉ?)

「ん…まあ、あの人の事だから 仕事でしょ!昨日の講演の評判…かなり良かったみたいだから…追加で何か、講義か、そんなところじゃないか…と、僕は思うけど 」



( 香川君… 君は 先生にこき使われて、嫌がりもしないで…本当のところどうなの? 嫌なら…)



「さあー朝ごはん行くから用意してっ」

香川君がデニムにTシャツだから私も そうしよう。ホテルのレストランで軽く朝食を済ませ、二人でキュランダ高原鉄道に乗り込んだ。



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