白衣の下 第一章 悪魔的破天荒な医者と超真面目な女子大生の愛情物語り。先生無茶振りはやめてください‼️

高野マキ

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帰国 アクシデントの余波

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先生は機内食も摂らずぐっすり眠っている。

今から数時間前…

私がホテルの寝室で目覚めた時、あれだけハードな仕事を こなした後とは、思えない精悍な姿で着替え始めていた。レモンイエローの細いストライプシャツにネクタイを通している。


髭も綺麗に剃りいつもながら、丁寧に撫で付けられたオ―ルバックの
黒い髪…。  薄目を開けて格好いい旦那様に見とれた。


「おいっ…、起きてるなら黙って見てないで手伝えよっ」


「え~知ってたぁ…ど―れっと」

私はベッドからゆっくりと起き上がり その場に座る。

「年寄りかっ」

先生は横目で睨み厭味を言う。

(自分だって鏡の前でネクタイ一本結べないくせに…よく言うよ。)


ゆっくり立ち上がり、先生の正面に向かうと マルーンのネクタイを結ぶのを手伝う。  珍しく学生が就活で使いそうな色のチョイス。


「 案外 ぶきっちょだよねぇ…」

笑ってやる。


先生は災害ボランティアで 朝まで協力したドクター達と昼食会に行くと言う。


「ぼちぼち起きて 荷物まとめとけよ~」

シャツとネクタイのコントラストが若々しい…


「行ってらっしゃい」

“ あなた ”…の言葉を飲み込んだ。  素敵なスーツ姿を見送りながら
先生と家庭を持てたら…妄想が膨らむ。



 (   先生の子供が 欲しい…)

“  先生と子供と私、三人でもう一度オーストラリアを旅したい…”

この時は 無茶な夢にも望みが持てる気がしていた。
昨日の夜の大惨事…



(   命なんて…はかない  )


明日はどうなるかわからない…………………








♪  “間もなく到着”

機内アナウンスが流れてきた。


「先生っ、先生ぇ!シートベルトだよ」

お腹を叩いて起こすと、

「おっ…わかったっ」


〝 グガ―――ッ 〟 大きな背伸びをすると、
「早えなぁ―」

着陸に備える。


窓のブラインドを上げると 見慣れた夜景がひろがってきた。



      日本に帰ってきた。



(   ただいま………)



国際線到着ロビー

ゼミの院生が 迎えに来てくれていた。


「おい、寒いからコート着ろっ」

先生に手渡されたコートを羽織る。

(こういう気配りは非の打ち所が無い紳士なのに…、究極自己中ぶりが…残念だよ…先生)


「先生 家に帰れるの…?」



「なあ…そうしたいところだが、お前は外泊扱いだから病室へ直行だな」

先生は顔色変えず院生に荷物の取扱いの指図をしている。 
 医局やゼミの学生への土産が大層な荷物になっていた。  迎えのタクシーに二人で乗込むとT大学附属病院に向かう。

渡航スタッフとはケアンズ空港で解散していた。


( 香川君も今頃は、家路に向かっている頃…)


病室に戻ったのは、午後9時を過ぎていた。



「さすがに 時差無しでもきついなぁ…」

先生はソファーに躯を落とすと手足を目一杯伸ばした。私はパジャマに着替えながら、

「お医者さんって、思っていた以上に重労働なんだね~」

先生を労うつもりで言ったのに

「ったくぅ、おまえから聞いても実感わかねぇなぁ…」

「なんでよっ、本当にそう思ってますっ! 」

「じゃあ…本心確かめてやろうか?大事な亭主を癒せるか…へへへ」

意地悪な事を言って楽しんでいる。そこへ 突然病室の扉が開く。


「お帰りっ! 」

笠原リノ先生が入って来た。


「綾野さん、帰国早々で悪いんだけどぉ、明日から検査続くんだぁ よろしくっね」


「はい…」
(早速…厳しい現実だ)



「おまえさぁっ ノックぐらいしろっ バカッ」

先生は、ソファーの肘かけを枕に脚を投げ出しリノ先生を睨む。

「黒崎ぃ…宗方先生が、話しがあるって今夜きつい…?」

リノ先生も、さすがに申し訳なさそうに言う。

(本当の用事は…先生か~)


「…いや 今から家で調べたい事もあったんだ…ウチに来るか?」

(えっ!帰っちゃうの? )


「黒崎がいいなら、外の小料理屋で待ってる先生に連絡するけど…」


「じゃ ウチへ二人で来いよ…何なら泊まっていけっ」


「…わかった了解」

私を素通りして 話しがまとまってしまう。 先生は、ソファーから半身を起こすと、

「明日の朝、寄るから今夜は、ゆっくり寝ろよ」

(素っ気なくない?  私を ぼっち にして 行っちゃうんだ…)


先生は 何時ものように私の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「…」

 ( 放置するんだ…)


「なんだっ そんな顔するなよ…リノ先に 行ってくれ! 俺は、家へ帰って待ってるから」


「じゃ、綾野さん ゆっくり休んで!」

笠原先生が出ていった。

            
            (淋しいじゃん…)
「…」

先生に優しく抱きしめられても…夜、たった一人でいる淋しさは埋まらない。   結婚して、 赤ちゃん産んで 明るい家庭を作りたい…。

 (先生には、絶対 言えない夢…)

結婚しても赤ちゃんを産めないなら、家族を持つ意味がない。生理も薬で調整しないと血が止まらない。  毎月 不安と恐怖が付き纏う。それだって、何時まで生理があるかもわからない。   命にかかわるから強制終了だってあり得る。

 ( 先生と私の赤ちゃんが欲しい…)

幸福と恐怖が頭の中をかけ巡る。


「何 考えてる?」


「…」

「明日朝 一番に来るから…」



「…」


「黙ってないで、何か 言えよ…」


「眠い…」

先生から顔を背ける。  背ける事を許してくれない先生は、私の顔を強引に自分の方に向けて、鋭く私の瞳の奥の本心を探ろうとする。


「やめてっ!さっさと帰ってっ」
…………

先生はあっさりと私から離れた。


「…そうか… とにかく、朝までおとなしく寝てろっ」


「…」

おざなりのキスを.額に落として部屋を出ていってしまった…。



( 何もわかって ない…)



    「 鈍感… 」



朝7:30に看護士が各病室を巡回し 忙しい病棟の一日が始まる。

先生は、約束通り 朝一番 、病棟のカンファレンスが始まる前、やっと私の所に 帰ってきた。淋しい、逢いたかったと、本心を吐き出せなかった。


「おはよう…」

いきなり抱き寄せ私のパジャマの胸にざらつく頬を擦り付ける。


「…まだ拗ねてンのか?」


「別に…」

冷たい言葉の代わりに 太い首に腕を回して黒い髪に顔を埋め先生の匂いを胸一杯嗅ぐ。


…ふううん



「…」

先生は頭をあげて 私に顔を近付けると、私の瞳を確かめてから 唇を塞ぎ薄く開いた隙間へ息を送ってきた。


〝 すぅ――っ 〟

唾液が湧く…私から舌の侵入を試してみる。先生の大きな手の平で頭を包み込まれキスの角度を変えながら 私の拙い舌技は、呆気なく先生に絡め捕られてしまった。  下半身の奥がトク トク トクと疼き始める。


「…せんせい  ダメェ」


先生の胸を押しのけた。

  「   ハァハァ…」息が上がる。


「したく…なっちゃうよ」

顔が真っ赤になるのがわかる。ギュッと、先生が私を抱きしめ


「俺もだ…今すぐしたいっ」


突然 勢いよく病室の扉が開いた。

「おはようございますぅっ」




「…オット」

先生は素早く、私から飛びのき 窓側へ向く。




「あっ…黒崎先生ーぇっ!」


看護師の表情が わずかに華やぐ。


「んっ…なっ、何だっ   採血だよな…宜しく頼む…よ …」


先生は私の頭をポンポンと軽く叩と

「じゃあな  ミチル 」

と、言って病室を出て行ってしまった。  私は左腕を看護士に預けながら、まだ下腹部の奥の疼きが続いていた。


「綾野さんっ、黒崎先生また凄い事して帰国されましたねっ、本当 凄い先生です!」


「…」

看護師さんの言っている意味が 理解できず、

「なっ、何かぁしましたかねぇ…?あの人ぉ」


「昨日のケアンズの大惨事ですよっ、日本でも朝から特番してますよっ‼︎  」



「失礼しますね…」
看護師は、一応ことわりを私から得て、病室のテレビをつけてくれた。  昨日のケアンズの事故の事が、大きく取り上げられている。

私達の泊まったホテルの前で、リポーターが昨日の惨事を詳しく説明している。

観光バスと路線バスの正面衝突と報道している………。

(ありえない…)   私は日本のテレビで昨日事故原因を知った。


「うわぁっ!せっ、先生ぇ!  」

でかでかと、テレビに顔写真が映る。  今から数年前のアメリカから帰国したばかりの先生

「しかしっ、黒崎先生ステキですよねぇ~  むちゃくちゃイケメンですもんっ!」


私は自分の事のように、恥ずかしかった。

「あっ、すみません  バイタル安定してますよ♪ 」

看護師は、しまったとばかりに病室を出て行った。


特番のMCが、《一昨日 夕刻、ケアンズ市内で乗客を乗せたバス二台の正面衝突による100人以上の負傷者を出した事故で、ケアンズ市内のホテルで学会講演の為逗留していたT大………………以下敬称略
その迅速で、的確な判断と 応急処置が多くの人命を 救う結果となり
日本の高度な 救命医療を世界中に示す結果となりました。
なお、本日午後2時より T大学病院内で、共同記者会見があります。当番組も、会見始まり次第  ライブ中継を予定しております》




  〝…  ゴックン…〟

(  どうしようっ!ドキドキ…)




( 先生テレビにでちゃうの?やだぁ~)


〝 ガラガラ――ッ〟

病室の扉が開く。


「綾野さん、検査に行きましょうか…朝からは…」


「大丈夫です  食べていません」

その日午前中は、レントゲンに始まり 昼までいろいろな検査で病院内を回った。  正午を過ぎて、最後に血液内科の外来で宗方先生の診察の呼び出しを待っていた。  呼ばれるまで外来待合の椅子に座りテレビを見る。  昨日の事故、回りの患者も見入っている。 各界のコメンテーターがこの病院の優秀さを褒め 讃え、時々  先生の経歴が誇張されて報道されている。




 (  これから  先生大変かも…一躍時の人になってしまった…)

救急車のサイレンの音が聞こえる。この外来が救命センターに近いから……か。



  〝 ポンッ〟


  「 痛っ!」


頭をぽんと叩かれる。

「ボーっと、してんじゃねぇぞっ…!」


「せっ、先生っ!こっ、ここで何してるのぉっ」

先生は濃緑のスクラブに白衣を引っ掛けた姿でちらっと振り返り、

「仕事だ」

慇懃な変わらぬ笑みを浮かべ 足早に救命センターへ向かって行った。背を向けたまま手だけ私に振って……。先生の後ろ姿を見送る…………。



“ …!まさか、今から…手術っ! 記者会見はどうするのよ?ただじゃ 済まない…”


「綾野ミチルさん 二診へどうぞっ」

私は、先生の事が急に心配になりだした。ドック、 ドック 、と不安感に心拍も上がってくる…。


「おや…? 綾野さん。何か心配事でもあるの?」


“…えっ”

「あっ 、先生っ…すみません」

私は 黒崎先生の事が心配で、診察室に入った事すら上の空だった。宗方先生の声で正気に戻った。

「大丈夫ですか?」

「あっ 、はい…だっ、大丈夫です」

「昨日は  向こうで大変でしたね……」

「あ…、はい」
何と答えていいものか…実際、私は何もしていない。


「夕べは 早々に旦那さんを借りて、悪かったね……
黒ちゃん、あなたの機嫌が悪いって、相当 気にしてました よ…」


「……」

「午後から会見ですか…」


「出ないつもりですっ!  多分…」


(  息が苦しい……)


「どうしたのっ⁉︎  黒ちゃん、何やらかすつもり?」

……………………………………………………

私はケアンズでの出来事や、診察室に呼ばれる寸前、先生が救命センターに急ぎ足で向かった事を話した。



「ははぁ…ん  !黒ちゃんらしいな~ぁ、大丈夫でしょうっ、心配いらないと思いますよ…」


「えっ 」


「多分…ね  、彼が出れば、会見ぶち壊しかねないなぁ…ふふ」



「…?」








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