亡国の姫と脱走兵 ― 滅びから始まる再興の旅路

モノ岩

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脱走兵

兵士2

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「ピィーーピィーー」

 大隊長が突撃の合図の笛を鳴らす

  クラウスは一呼吸おき叫ぶ

「突撃!塹壕を出ろ!前に進め!!」

 あちらこちらで突撃の叫びが響き、兵たちは塹壕を駆け上がっていった。

 「ウオォ」  
 敵からの発砲はほぼ無い、完璧な奇襲が決まった、が勿論最低限の警戒はしている、すぐに迎撃が来る 。

草ひとつ生えない、真っ黒な大地。
砲撃で抉れたクレーターと泥濘。
四年間、両軍が攻めては返し、血を流し続けた膠着の地――

「モタモタするなぁ!」

(……砲撃支援はどうした!?予定と違うぞ!)

そんなことを考えながら、周囲の兵士と共に突撃を仕掛けた。
だが、足はまるで泥に縫いつけられているように重い。
走る速度は、驚くほど遅かった。

過去の砲撃で用水路は破壊され、一帯は泥濘と満水のクレーターに覆われている。
踏み出すたび、泥が靴底にまとわりつき、不快感と共に体力が削られていく。

パァーン、パァン……タタタタタ――ン!

「伏せるな!ここで止まると動けなくなるぞ!」

「は、はい!」

 悪路にもたもたしているうちに敵からの反撃を受けだした。 

(くそ!もう反撃が来た)

 周りの兵士が銃弾に当たり、バタバタ倒れていく、まだ敵陣地まで距離がある、

「くそっ……まだ敵陣は遠いぞ!」

「これは無理だ、准尉」

 誰かが呟いた。

「…分かっている、だが命令だ!」

 死ぬ、クラウスの頭に死がよぎりる、何回も味わっている感覚だが、今まで一番強かった。

「怯むな走れ!」

 その言葉で自分自身も奮い立たす、水溜りを飛び越えて倒木を跨ぎ走る。

「おい!」

 目の前の兵が撃たれた、自分に背中から覆い被さる、

「っ!」


退けようとしたが間に合わなかった。
 直後、目の前が光る、浮遊感と共に熱風が抜け衝撃が体に走る(ゔ、)  










 ◇
「うぅぅ」
(息が苦しい、くそ体が重い)

 意識をうしなっていた、失う前の記憶が曖昧だ目を覚まし、あたりを確認する

(体が半分埋まっている!砲撃を喰らった?)

 すぐさま泥から抜け出しながら体を確認する、(な、なんともない、は、肺、大丈夫だ少し息苦しいが破れてはない、)

 さっきの撃たれた兵士のおかげで、軽症ですんだ。


「ハァハァ」
(銃、銃、あった)

 泥の中から、泥まみれのライフルを引き寄せ、次弾を装填しようとする。
 
「早く追いつかなければ」

 中腰になり立ち上がる、はいつくばるようにヨタヨタと歩き出す。


(おかしい)


 クラウスはぼんやりと荒野を見渡す。

「ああ」


 戦闘は終わっている、銃声も兵士の叫び声も砲撃の炸裂する音も何もしない、戦闘は確実に終わっている、

「疲れた」

手から銃が滑り落ちる。

(もう十分俺は戦った、もういいだろう)
  

彼は泥に沈む、仲間の亡骸を見つめ、決意した、

「ここから逃げよう」

 それは裏切りだった、自分自身への裏切りでもあるし、今までの仲間達、国、家族、全てへの裏切りだった。







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