亡国の姫と脱走兵 ― 滅びから始まる再興の旅路

モノ岩

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第二章

駅へ

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「……俺に案がある、少し待っていてくれ。」

 クラウスは、昨日きた方向にかけて行った。

「はあ……」
リュシアはため息とともに、壁にもたれかかって腰を下ろした。
 数分後クラウスが戻ってきた、手に何か白い布を持っている。

「早かったわね、手のものは何?」

「ああ、衛生兵の赤十字だ。」

「それが、案なの?」

「そうだ。」

 クラウスはリュシアの前にしゃがみ込み、口を開いた。

「俺が負傷兵の役をして君が看護婦の役をやる、それで誰にも怪しまれない。前線帰りの衛生輸送なんて珍しくないからな。」

「それ、いい案じゃない!」
リュシアはぱっと立ち上がり、クラウスを指さした。

「でも、切符は? お金なんて、ほとんど持ってないのよ」

 リュシアは包みから、数枚の硬貨を取り出す。

「大丈夫だ、国内なら俺はタダで乗れる。君も付き添いの看護師にしとけば大丈夫。」

「……あなた、階級は?」

「俺? ……准尉だ」

 その答えを聞いた途端、リュシアの表情が曇る。

「馬鹿なの?」

「……は?」

「その階級まで上がったのに、全部捨てて逃げ出したの?」

「……そういうの、許されるのね」

「え?」

 彼女はゆっくりと視線を落とした。

「“姫”である限り、私はきっと、どこまで行っても誰かの視線や期待から逃れられない。
……だから、本当は、私はまだ一歩も逃げられてないのよ」

「……」

「ごめんなさい。変なこと言ったわ……」

「いや、実際、俺は馬鹿なことをしたと思ってる、だが後悔はしてない。」

 小さな風が通り抜け、草の葉がさわりと揺れる。


 短い休憩を終え、二人は駅を目指して歩き出す。

「これ、腕に付けてくれ」

「こう?」

「良い感じ。衛生兵も看護婦もほとんど同じ赤十字だから大丈夫だろう。」

 リュシアの腕に赤十字の腕章がつけられた。

「……ところで、その腕章、どこで?」

「ああ、戦場に転がってた……元部下から拝借した。あいつには悪いが、今だけ借りる。怒られないと思うけどな」

「そ、そう……」

 二人は並んで歩き出す。頭上では雲が流れ、小さな鳥の鳴き声が響いていた。
 まるで、戦争など遠くの世界のことのように思える一瞬だった。

 駅に近づくにつれ、人通りが増えてくる。

「よし、怪しまれてない。」

「ええ、今の所そうみたいね。」

 横切って行く兵士や一般人に特別疑問の顔は浮かんで無かった。

やがて、大通りに入り庁舎の前を進もうとする。

「待って。」

「どうした?」

 急なリュシアの問いかけに、クラウスは足を止める。

「庁舎がどうした?」

「実は……あそこで少し騒ぎを……」

「また厄介なところで……」

 二人庁舎の前で引き返し路地を進み迂回を試みる。

「……詳しくは聞かないけど、何人くらいに?」

「……」

「あー、兵士数名、将校二人、野次馬たくさん……?」

「おぉ…」

(将校か……相手が誰かにもよるが、厄介だな)

「……ごめんなさい。もっと早く言えばよかったわ」

「いや、次からは早めに頼むよ」

「ええ、わかったわ」

 無言の時間が少しだけ流れる。

「……ただ、少し対策がいるな」

 クラウスは小声でつぶやきながら、素早く思考を巡らせた。そして、すぐに口を開く。

「……君は髪が特徴的だ。嫌かもしれないが、その、髪を切ったほうがいい。」

「……いい考えね。」

 即答だった。

「……切ってしまってもいいのか?」

「髪なんて、また伸びるものよ」

 リュシアは胸元から短剣を取り出すと、ためらいなく肩のあたりで髪をバサリと切り落とした。

「大胆だな。」

「このくらいしとかないと……今からやっていけないわ。」

「そうかもな。」

二人は路地を進む。








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