トリエステ王国の第三王女によるお転婆物語

ノン・タロー

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偽者の第三王女

魔法の実技練習

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 翌日、あたしは冒険へと着ていく服を着て「魔術練習場」という場所へと来ていた。

 ここはお城の敷地内に設けられてはいるけど、場所は室内ではなく屋外に設けられており、アリアの話ではここで魔術師が魔法の練習をするのだと言う。

 何にしろ、ここなら逃げようと思えばすぐに逃げられる……、そう思っていたのだけど……。
 
「さあステラ様、昨日は座学がメインでしたので今日は屋外でステラ様のお好きな実技訓練を致します」

「実技ね。昨日はずっと室内で息が詰まりそうだったわ!それはいいんだけど……、このアクアバインドは何……?」

 あたしは自分の腹部へと目をやると、そこにはアリアの唱えたアクアバインドが巻かれており、それが彼女の手元まで続いている。

「それは勿論ステラ様がお逃げにならないようにするための措置ですわ。隙を突かれて逃げられては困りますから」

「……あっそ」

 どうやら最初からあたしが逃げ出すという事は計算済みだったようだ……。

 チ……っ!

「ステラ様、ますば初級の火属性魔法、『火球ファイヤーバレット』から行きましょう。詠唱の呪文は覚えていますか?」

「ファイヤーバレットの詠唱……?」

 え……えっと……、どんなのだったかしら……?

「……ステラ様?昨日のわたくしの授業を聞いてきましたか?」

「も……モチロン聞イテイタワヨ?」

 あたしはアリアから目を逸らして答える。

 聞いていたかどうかと聞かれたら勿論上の空っ!

「ステラ様、わたくしの目を見て答えてください。聞いてなかったんですね、ステラ様……?」

「……はい、聞いていませんでした」

 アリアから放たれるプレッシャーに負けたあたしは大人しく降参する。

「はあ……、仕方ありませんね……。では、わたくしがファイヤーバレットの詠唱を言いますので、ステラ様は復唱してください。いいですね?」

「わ……、分かったわ」

 アリアの言葉にあたしは頷くと、アリアは魔法の詠唱を始めた。

「いいですか……?"火の精よ、我が声に聞き従いその力を示せ!"『火球ファイヤーバレット』っ!」

 アリアが魔法を唱えると、彼女の手のひらに火球が現れる。

「おぉ~!」

「ステラ様、感心している場合ではありません。次はステラ様がやる番ですよ」

「わ……分かってるわよ……。え~っと……、火の……なんだっけ?」

「"火の精よ、"です」

「"火の精よ、"……それから?」

「"我が声に聞き従い"です」

「"我が声に"……なんだっけ?」

「"聞き従い"です」

「"我が声に聞き従い"……それで?」

「"その力を示せ!"です」

「"その力を示せ!"」

「そうです、それを最初から続けて言うんです」

「分かったわ。……ところで、最初は何だったかしら?」

「ステラ様!真面目にやってくださいっ!」

「いや……、あたし自身は真面目にやっているつもりなんだけど……、暗記といのはどうも苦手で……あは……、あははは……っ!」

 アリアは物凄い形相で睨んでくるけど、あたしはそれを笑って誤魔化すことにして見る。

 もともとあたしは何かを暗記して覚えると言うのが大の苦手で、そんのあたしに魔法の詠唱を覚えろというのが合点無理な話なのだ。

「笑って誤魔化しても無駄ですっ!ステラ様っ!もう一度魔法の詠唱をしますよっ!魔法の本を見ながらでもいいのでやってみて下さい!」

 アリアから魔法の本を受け取ると、あたしはファイヤーバレットの詠唱を所を読む。

「わ……分かったわよ……。えっと……、"火の精霊よ、我が声に聞き従いその力を示せ!"『火球ファイヤーバレットっ!』」

 ファイヤーバレットを唱えるとあたしの掌に火球が現れ、メラメラと燃えている。

「で……、出た……」

 初めて生み出した魔法にあたしは感動すら覚える。

「ステラ様、感動するのは良いですが、それをあちらの的へと投げてみて下さい。」

 アリアはそう言い、少し先にある的を指す。

「分かったわ!」

 あたしは言われるがまま的へと向かってファイヤーバレットを投げると、的の真ん中のあたりへと当たる。

「当たった……。見てアリアっ!的に当たったわっ!」

「お見事です!ステラ様っ!では、他の初級魔法の実技の練習をした後、再びお部屋へと戻って魔法の詠唱の音読をと書取を行います。そうですねさしずめ100回ずつ行いましょうか」

「うぇ……っ!?100回も……っ!?」

「当たり前です!ステラ様は人一倍物覚えが悪いのですから人の十倍倍……いえ、百倍はやってもらいますっ!」

「あの……アリア……?あたし一応この国の第三王女なんだけど……、その王女に向かって物覚えが悪いというのは流石にどうかな~と思うんだけど……」

 あたしはコメカミをヒクヒクとさせながらやんわりと抗議をする。

「いいえっ!わたくしは先日、トリエステ国王ご夫妻に『娘のあの頭の出来の悪さをどうにかして欲しい』と仰せつかっているのですっ!あの時の国王ご夫妻のガックリと肩を落とされた姿と言ったらとても見るに忍びないものでした……。ですからわたくしは命の変えてもステラ様の脳筋な頭を治す所存ですございますっ!」

 アリアは熱く語っているが、なるほど……、これは父上と母上の差し金なのか……。

 それにしても、脳筋って……まあ、あながち間違いじゃないから何も言わないけど……。
 でも、最近アリアの物言いに容赦が無くなってきたわね……。

「なるほど、分かったわ。それなら、あたしでも出来そうなカリキュラムを組んだら呼んでちょうだい。それまであたしは休憩をしておくわ」

「かしこまりました。……ではなくて、ステラ様も一緒に行うのですっ!」

「えぇ~……、メンドイ~……」

「『メンドイ~』ではありませんっ!それでしたら、ステラ様がご自分でカリキュラムを考えてくださいっ!」

 ふむ、自分でカリキュラムをか……。

「分かったわ。なら勉強は魔法、一般教養会わせて一日五分。あとは剣術の練習や、街へとお忍びに行ったりするわ。これでいいかしら?」

「ダ・メ・で・すっ!!せめてお勉強をわたくしの授業と一般教養をそれぞれ二時間づつするというのならまだしも、ステラ様は一日五分というおふざけにも程があるようなものを、このわたくしが承認するとでも思ったのですかっ!?」

「え……え~と……、例え1%でも可能性があるのなら……と想って……」

「そんな可能性はございませんっ!0%ですっ!わたくしの授業と一般教養の授業をせめて最低でも二時間づつは受けていただきますっ!」

「うえぇぇーー……っ!?そんなに時間を取られたら剣の訓練も街へとお忍びに行ったりする時間も無くなるじゃない……っ!?」

「ステラ様の本業は冒険者ではありませんっ!そもそもステラ様は姫様なのですから、剣術の訓練も、冒険者としてのお仕事もする必要がないのですっ!姫様の一番のお仕事は他国の王子とご結婚なされ、その方のお世継ぎをお産みになられることが一番の仕事なのですっ!その為に一般教養は必要なんですっ!今のままでしたらどの国にもステラ様をお嫁にお迎えしたいと仰ってくださる国などございませんよっ!?」

「ふ~んだ、別に好き好んで他国に行く気なんて無いも~ん!それに、あたしは自由気ままに生きて、結婚なんかしないも~ん!」

 ヒートアップするアリアに、あたしは負けじと反論をする。

「はぁ……、分かりました。そこまでワガママを仰るのでしたら、国王ご夫妻に『ステラ様はお勉強を何一つなさらず、屁理屈を捏ねてはあの手この手で逃げ出すことばかりを考えている』とご報告し、ステラ様のお小遣いの大幅カット、及びステラ様の剣術の訓場への出入り禁止、並びに許可なく城からの無断外出禁止をしていただく他ありませんね……」

 アリアはため息をつきながらとんでもない事を言い出す。

「うぇ……っ!?アリア……!それは卑怯よっ!?」

「何とでも仰って下さい!ステラ様のためならばこのアリア、悪名の汚名ぐらいいくらでも着てさしあげますわっ!」

「ぐぬぬぬぬ……っ!」

 この脅しは流石に卑怯すぎるわっ! 
 しかし、本当にアリアがそのように報告し、父上や母上にそのようなことをされてはあたしの自由は完全に失われてしまう。

 さらにこのついでだからとダンスやテーブルマナーまでも覚えろと言われようものなら本当に息が詰まる。

「ステラ様、どうされますか?」

 アリアはニコリと笑みを浮かべるが、その笑みはあたしから見れば悪魔の笑みだった。

 それに、どうするかと言われればあたしが言うことは一つしか無い。

「分かったわよ……。やるわよ……、やればいいんでしょ……?」

 あたしは白旗を挙げるようにガックリと肩を落としながらアリアへと頷く。

「ステラ様、最初からそう言えばよろしいのです。それではまずは昨日お勉強した初級魔法の実技練習をいたしましょう。その後、お部屋に戻ってお勉強です」

「はい……」

 あたしのこの後、初級魔法の実技練習をしたあと、再び部屋で勉強漬けにされるのだった……。
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