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三章 旅立つ少女
さよなら、ラウル
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翌朝、私は間借りしている部屋で目覚めると、自分の荷物や服を魔法のポーチへとしまっていく。
銀行に預けていたお金は昨日のうちに全て引き出してある。
この部屋に住んでからニヶ月近く……、本当にいろんなことがあった……。
辛いことや、楽しかったこと、時には寂しい事だってあった。
でも、そんな日々を過ごしたこの部屋とも今日でお別れ……。
次はまた別の誰かが使うのかも知れない。
感傷に浸りながらも部屋を出ると、一階にある冒険者ギルドのホールへと向かった。
「グレンさん、おはようございます」
「カナちゃん、おはよう。よく眠れたか?」
「はい、よく眠れました」
ホールへと降りると、今日もいつものように冒険者で賑わい、ホールスタッフは今日も朝から忙しくしている。
私も最初来た時、このホールスタッフとして働いていたな……。
その光景が鮮明に蘇る……。
「カナちゃん、はい、食事だよ」
私がカウンター席に座ると、ファナさんから頼んでもいないのにフレンチトーストと、スープ、そしてジュースが差し出される。
私が好きなグレンさんのフレンチトーストだ。
「カナちゃん、これ好きだったたろ。最後だ、俺からの奢りだよ」
カウンター越しにグレンさんはにこやかな笑顔を見せる。
私はグレンさんのフレンチトーストをしっかりと味わいながら食べることにした。
気が付くと横にミリアさんが座っていたが、お互い何も喋ることなくただ食事をしていた。
話すときっと泣いてしまうだろうから……。
ミリアさんも同じなのか、私に何も話しかけようとはしなかった。
ホールの壁に掛けられている時計で時間を確認しながら、ミリアさんから貰った馬車の時刻表を見ると、そろそろ出ないと間に合わない時間だ……。
「それでは、グレンさんそろそろ行きます。今まで本当にありがとうございました……!」
「ああ、気を付けてな。いつでもカナちゃんの帰りを待ってるぜ」
食事を終え、グレンさんに最後の挨拶をする。
「ミリアさん……、今まで本当にありがとうございました……」
「私の方こそありがとう。もしまたこの街に来ることがあったら、声掛けてね……」
「……はい!」
私は後ろ髪を引かれる思いで冒険者ギルドを後にすると、馬車が出るという南門へと向かった。
◆◆◆
南門に着くと、そこには1台の幌馬車が止まっており、何人かの人が乗るための切符を買い求めていた。
私も切符を買うために並ぼうとすると、誰かに声をかけられた。
『カナ……』
「ジェストさん?」
声のする方へと振り向くと、そこにはジェストさんがいた。
『カナ、切符は買っておいた。リーツェ行きのやつだ。それと、昼の食事だ。馬車の中で食べると良い』
ジェストさんは、なにやら細長い包を手渡してくれた。
なんだろう……、これ……?
「ジェストさん……、ありがとうございます」
『今俺がお前のためにしてやれるのはこのくらいだからな……。そう言えば、ミリアの姿がないが……』
「ミリアさんなら、ギルドのホールで会いました」
『……そうか。気が向いたらいつでも帰って来い。俺はカナの事は忘れない』
「はい……!私もジェストさん達の事は忘れません!それでは行って来ます……っ!」
私は馬車に乗り込むと、馬車は南門を出て街道を走り出す。
ジェストさんはずっと手を振ってくれていた。
やがて馬車が進むに連れ、ジェストさんが、南門が、そしてラウルの街が小さくなっていく……。
ニヶ月くらいしかいなかったのに、まるで自分の故郷を離れるような感覚に襲われる。
今まで過ごしてきたラウルでの日々の出来事が鮮明に脳裏に蘇る……。
ファナさんの指導を受けたホールでの日々……、冒険者として第一歩を踏み出した日……、ディンさんとの訓練……、仲間との出会い、冒険……、そして……、今訪れる別れ……。
いつの間にか目からは涙があふれていた。
さようならラウル……。さようならみんな……。
私の気持ちを知ってか知らずか、馬車は軽やかにリーツェへと続く街道を進んでいくのだった……。
◆◆◆
~サイドストーリー~
ージェストー
カナを見送った後、俺は冒険者ギルドへと向かった。
するとそこには、ひとり寂しそうにカウンター席に座っているミリアの姿があった。
『ミリア……』
「カナちゃん……、行ったの……?」
『ああ……。ミリアも来ればよかったんじゃないのか……?』
「無理よ、行ったら私もカナちゃんも別れが辛くなるわ……」
見ると、ミリアの目には薄っすらと涙が滲んでいた。
俺もミリアと一緒に泣くことが出来れば良かったのだろうが……、こういう時はこのリビングアーマーの体が恨めしい……。
「さっきまでこの席にカナちゃんが座ってたの……。そして、最後まで味わうかのようにフレンチトーストを食べていたのよ……」
ミリアは淋しげに隣の椅子を撫でている。
「こうなるって分かってたらスケ嬢の仕事なんか引き受けなかったのに……っ!」
『……俺もだ』
「俺は慣れたよ……」
ふと声をかけられ、顔を上げるとそこには少し淋しげな顔をしたグレンの姿があった。
「冒険者ギルドのギルマスなんかしてるとな……、突然の別れって奴は直ぐにでも訪れるもんだ……。いい意味でも、悪い意味でも……、な」
『グレン……』
「カナちゃんはいい意味で別れを告げてくれた。後はあの娘の無事を祈るとしよう……」
グレンはそう言うと、カナが座っていたという席に酒の入ったグラスを置いた。
「グレン……、それ何よ……」
「ああ、門出を祝う酒だ……。カナちゃんの前途に祝福があらん事を……」
グレンはそう言うと、カナが向かったリーツェの方角を見ていた。
俺とミリアもグレンに続き、リーツェの方角を見る。
カナの前途に祝福がある事を願って……。
銀行に預けていたお金は昨日のうちに全て引き出してある。
この部屋に住んでからニヶ月近く……、本当にいろんなことがあった……。
辛いことや、楽しかったこと、時には寂しい事だってあった。
でも、そんな日々を過ごしたこの部屋とも今日でお別れ……。
次はまた別の誰かが使うのかも知れない。
感傷に浸りながらも部屋を出ると、一階にある冒険者ギルドのホールへと向かった。
「グレンさん、おはようございます」
「カナちゃん、おはよう。よく眠れたか?」
「はい、よく眠れました」
ホールへと降りると、今日もいつものように冒険者で賑わい、ホールスタッフは今日も朝から忙しくしている。
私も最初来た時、このホールスタッフとして働いていたな……。
その光景が鮮明に蘇る……。
「カナちゃん、はい、食事だよ」
私がカウンター席に座ると、ファナさんから頼んでもいないのにフレンチトーストと、スープ、そしてジュースが差し出される。
私が好きなグレンさんのフレンチトーストだ。
「カナちゃん、これ好きだったたろ。最後だ、俺からの奢りだよ」
カウンター越しにグレンさんはにこやかな笑顔を見せる。
私はグレンさんのフレンチトーストをしっかりと味わいながら食べることにした。
気が付くと横にミリアさんが座っていたが、お互い何も喋ることなくただ食事をしていた。
話すときっと泣いてしまうだろうから……。
ミリアさんも同じなのか、私に何も話しかけようとはしなかった。
ホールの壁に掛けられている時計で時間を確認しながら、ミリアさんから貰った馬車の時刻表を見ると、そろそろ出ないと間に合わない時間だ……。
「それでは、グレンさんそろそろ行きます。今まで本当にありがとうございました……!」
「ああ、気を付けてな。いつでもカナちゃんの帰りを待ってるぜ」
食事を終え、グレンさんに最後の挨拶をする。
「ミリアさん……、今まで本当にありがとうございました……」
「私の方こそありがとう。もしまたこの街に来ることがあったら、声掛けてね……」
「……はい!」
私は後ろ髪を引かれる思いで冒険者ギルドを後にすると、馬車が出るという南門へと向かった。
◆◆◆
南門に着くと、そこには1台の幌馬車が止まっており、何人かの人が乗るための切符を買い求めていた。
私も切符を買うために並ぼうとすると、誰かに声をかけられた。
『カナ……』
「ジェストさん?」
声のする方へと振り向くと、そこにはジェストさんがいた。
『カナ、切符は買っておいた。リーツェ行きのやつだ。それと、昼の食事だ。馬車の中で食べると良い』
ジェストさんは、なにやら細長い包を手渡してくれた。
なんだろう……、これ……?
「ジェストさん……、ありがとうございます」
『今俺がお前のためにしてやれるのはこのくらいだからな……。そう言えば、ミリアの姿がないが……』
「ミリアさんなら、ギルドのホールで会いました」
『……そうか。気が向いたらいつでも帰って来い。俺はカナの事は忘れない』
「はい……!私もジェストさん達の事は忘れません!それでは行って来ます……っ!」
私は馬車に乗り込むと、馬車は南門を出て街道を走り出す。
ジェストさんはずっと手を振ってくれていた。
やがて馬車が進むに連れ、ジェストさんが、南門が、そしてラウルの街が小さくなっていく……。
ニヶ月くらいしかいなかったのに、まるで自分の故郷を離れるような感覚に襲われる。
今まで過ごしてきたラウルでの日々の出来事が鮮明に脳裏に蘇る……。
ファナさんの指導を受けたホールでの日々……、冒険者として第一歩を踏み出した日……、ディンさんとの訓練……、仲間との出会い、冒険……、そして……、今訪れる別れ……。
いつの間にか目からは涙があふれていた。
さようならラウル……。さようならみんな……。
私の気持ちを知ってか知らずか、馬車は軽やかにリーツェへと続く街道を進んでいくのだった……。
◆◆◆
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ージェストー
カナを見送った後、俺は冒険者ギルドへと向かった。
するとそこには、ひとり寂しそうにカウンター席に座っているミリアの姿があった。
『ミリア……』
「カナちゃん……、行ったの……?」
『ああ……。ミリアも来ればよかったんじゃないのか……?』
「無理よ、行ったら私もカナちゃんも別れが辛くなるわ……」
見ると、ミリアの目には薄っすらと涙が滲んでいた。
俺もミリアと一緒に泣くことが出来れば良かったのだろうが……、こういう時はこのリビングアーマーの体が恨めしい……。
「さっきまでこの席にカナちゃんが座ってたの……。そして、最後まで味わうかのようにフレンチトーストを食べていたのよ……」
ミリアは淋しげに隣の椅子を撫でている。
「こうなるって分かってたらスケ嬢の仕事なんか引き受けなかったのに……っ!」
『……俺もだ』
「俺は慣れたよ……」
ふと声をかけられ、顔を上げるとそこには少し淋しげな顔をしたグレンの姿があった。
「冒険者ギルドのギルマスなんかしてるとな……、突然の別れって奴は直ぐにでも訪れるもんだ……。いい意味でも、悪い意味でも……、な」
『グレン……』
「カナちゃんはいい意味で別れを告げてくれた。後はあの娘の無事を祈るとしよう……」
グレンはそう言うと、カナが座っていたという席に酒の入ったグラスを置いた。
「グレン……、それ何よ……」
「ああ、門出を祝う酒だ……。カナちゃんの前途に祝福があらん事を……」
グレンはそう言うと、カナが向かったリーツェの方角を見ていた。
俺とミリアもグレンに続き、リーツェの方角を見る。
カナの前途に祝福がある事を願って……。
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