チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー

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七章 恋する少女

間の悪いカナ

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 その日の夜、ハイドラとの戦いで疲れたのかザクスが早々に寝てしまい、暇となった私はマジックオーブを使い、アルアナの所へとやって来ていた。

 やって来たのだが……。

「お前な……来るのはいいが時間とか人の都合とか考えろ……」

 アルアナは慌てて着たと思われるバスローブに、びしょ濡れになった髪からは雫まで落ちている……。

 どうやらお風呂に入っていたらしい……。
 これは少し悪いことをしたかもしれない……。

 でも、アルアナがいつお風呂に入るかとか私にはわかるはずがない……。

「ご……ごめん……」

「それで……、今日は何の用だ……?バストアップなら出来んぞ?」

 入浴を邪魔されたからか、アルアナの言葉にはどこかトゲがあった。

 しかし、バストアップには実際興味がある。
 後で聞いてみよう。

「ハイドラの猛毒袋やアラクネの糸袋、ジャイアントスライムの核を持ってきたので預かって貰おうと思って……。」

 魔法のポーチから猛毒袋や糸袋、それにジャイアントスライムの核を取り出すと、例によりアルアナが魔法で自分の下へと引き寄せる。

「確かに預かった。他になにかようがあるのか?ないなら早く帰れ!」

「あと、イービルアイについて教えてほしいんだけど、魔導都市をイービルアイが滅ぼしたって聞いたんだけど、そのイービルアイはどこに……?」

「……イービルアイは滅ぼされた魔導都市に封じてある。今のお前では勝てないだろうから場所は教えられん。もっとも、死にたいというのなら話は別だが?」

「え……遠慮しておくよ……」

「懸命な判断だな」

 その魔導都市がどんなのかは知らないけど、少なくとも都市を一つ滅ぼすくらいなのだから、よほど恐ろしい魔物なのかも知れない。

 封じている場所は教えられないと言っていたので、たぶん聞いても無駄だろう……。
 それにまだ死にたくないし。

「後はなにか用か?」

「後はバストアップを……」

 私はダメ元で聞いてみた。

「……好きな男にでも揉み育てて貰うか、子を孕むかしろっ!」

 アルアナはそう言い放つと、魔法で私を出入り口の魔法陣へと追いやり、気が付くと私は神殿を追い出されていた。

 どうやら私は強制退場されたらしい……。

 少しばかり胸を大きくしてくれてもいいのに……、ケチだ!

 アルアナの神殿を追い出された私は、仕方なくマジックオーブでサーミラへと戻ったのだった。


 ◆◆◆


 ハイドラをたおしてから数日経った頃、サーミラの港へとヤパーニ方面へ行く船が入港する。

 この世界で船に乗るのはリーツェからこのサーミラに来て以来だが、下船する人と、乗船する人とで賑わっていた。

 航海するための食料などの物資が港から船へと積まれて行く中、私とザクスは数日前に買ったヤパーニまでのキップを船員へと見せると、船に乗り込む。

「おお~!ここが俺達の船室か……!さすが特等船室だなっ!」

「うん……、そうだね……。豪華だね……」

 ハイテンションのザクスとは対象的に私のテンションはかなり低い……。

 それにはもちろん理由がある……。

 今回の船旅は思い切って特等船室(カップル向け)を買った!

 出港してからヤパーニへ着くまで沢山ザクスに愛して貰おうと思い買ったのだが……よりによって昨日から生理が来てしまったのだ……!
 私のテンションが低い理由がここにある。

 特等船室、しかもカップル向けだからベッドはクイーンサイズなのが一つなのは勿論、二人でゆったりと過ごせるよう畳まで敷かれている。

 さらに浴室にはシャワーは勿論、二人でもゆっくりとお湯に浸かれる浴槽がある。

 おまけにジュースやお酒といった飲み物や、間仕切りが設けられたテラスでは夜景まで楽しめ、どう見てもムード満点、「どうぞラブラブでお熱い夜をお楽しみ下さい!」と言わんばかりな船室となっているのだが、私の生理のせいで全て台無しになってしまったのだ……っ!!

 これでテンションを上げろという方が無理な話だ。

 こんなことなら生理を遅らせる魔法をかけておけば良かったと思うが、既に後の祭り……。

 私はザクスに抱いてもらえない事が確定した船旅をしなければならなくなったのだ……。
 高かったのに……。

「と……取り敢えずカナ、そろそろ少しはテンションあげてみないか……?」

「無理……あげれない……、上がらない……、あげようがない……」

 ザクスは苦笑しながらも気遣ってくれるが意気消沈した私はどう頑張っても浮上出来そうもない……。

 さらに言えば、二日目なのでかな~りキツイ……。

 お腹が痛い、腰も痛い、男の人が羨ましい、ザクスと出来なくて悲しい、ザクスに当たりたくない……、でもイライラする……。

 こんなときは誰かに愚痴を聞いてもらいたい……。

 私は船が出港してからしばらくすると、ザクスに出掛ける旨を伝え、甲板へと移動した。


 ◆◆◆


「……それで、私が呼ばれた訳ね」

 私の目の前には、現し身の御鏡で生みだされたもう一人の私がいた。
 今度のは悲しみの私らしい。

 楽しみにしていた船旅を生理で台無しにされ、悲しみに暮れた私のようだ……。

「そう……!私の愚痴に付き合って……っ!!」

「あのさあ……、それはいいんだけど、あなたが生理中に呼び出すから私も生理になってるんだけど……」

 どうやら生理も反映されるらしい……。

「はぁ……」
「はぁ……」

 私ともう一人の私は同時にため息を付く……。

「なんで生理ってあるんだろうね……。お腹痛くなるし……」

「月のモノだから仕方ないって言うのは分かるけど、こんなに痛くなくてもいいよね~……」

「おまけに腰も痛いし、イライラするし、情緒は不安定になるし……」

「そうそう……。ほんと男の人が羨ましいよね~……」

「女の子ってほんと大変だよね~……」

「ね~……」

「本当ならヤパーニに付くまで1日中ザクスとヤるつとりだったんだけどね~……」

「いや……、それはどうなの……?ほんもの……」

 私達は海を見ながら雑談をする……。

 こうしていると、少しは生理痛が楽になってくる……ような気がする。

「あ……、カナどこに行ったかと思ったらこんな所にいたのか……。ほら、一緒にメシを食いに行こうぜ。それに腹が痛いのなら俺が擦ってやるから」

 甲板でもう一人の私と雑談をしているとザクスがやって来た。
 どうやら探しに来てくれたらしい。

 そう思うと、悲しい気持ちから一転して嬉しくなる。

「うん……!」

 私は笑顔でザクスの手を取ると、いつの間にか悲しみの私は消えていたのだった……。
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