チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー

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八章 決意する少女

ユーリの解放

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 先程まで割れんばかりの歓声が上がっていた闘技場だったが、一人の男が立ち上がるとその歓声は止んだ……。

「カナよっ!見事な勝利だっ!貴様に勝者の証、バジリスクスケイルを授けるっ!!」

 私は立ち上がり、観客席の男が立っている方へと向いた。

 今喋っている男、彼がここの支配人タイタスと言うことだろう、彼が言うと控室のゲートが開かれ一人の兵士が両手に小さな宝箱のような物を両手に持ってやって来た。

「これがタイタス様より贈られた勝者の証、バジリスクスケイルだ」

 兵士が箱のフタを開けると、中には緑色をした手のひらよりも少し小さな鱗みたいな物が勲章のように加工されて収められており、私はそれを受け取ると、兵士は控室の方へと戻っていった……。

 遂にバジリスクスケイルを手に入れた……っ!
 これでまた一歩ザクスを助けるという目標に一歩近付くことが出来た!

「さてカナよ!優勝者には好きな褒美が与えられるのだが貴様は何を望むっ!?」

「では!ユーリという冒険者を私に下さいっ!!」

「ユーリだと……っ!?そんなもので良いのなら貴様にくれてやるっ!後で貴様の部屋へと連れて行かせようっ!!では皆のもの!優勝者カナに今一度盛大な拍手をっ!!」

 私は盛大な拍手に包まれながら闘技場を後にした……。


 ◆◆◆


「おい!入るぞっ!」

 部屋へと戻り、元の装備へと着替え終わった頃部屋のドアがノックされるが、私が答える前にドアが開かれた。

 そこには黒い鎧に身を包んだ男性と数人の兵士、それとユーリの姿があった。

「貴様とこうして会うのは奴隷として貴様を買った時を含め二度目だな、カナよ」

 黒い鎧を着た男性は鋭い眼光で私を見据えてくる……。
 間違いない、彼がタイタスだ……っ!

「そうですね……。私に何か用ですか……?」

「私は貴様に一つの提案をしに来たのだ。貴様は見事ヴァインを打ち倒した。私としては貴様にはここにとどまり闘技場の王者として君臨してもらいたいのだが、どうだろうか……?」

 タイタスは提案と言うが、彼の目は否定を許さないと言わんばかりの鋭さを込めた眼差しで私を見つめている。

「すみません、私には行かなければならないところがあるのです……」

「貴様……っ!タイタス様のご命令を……っ!!」

「よせ……っ!」

 私がタイタスの提案を断ると、一人の兵士が襲いかかろうとしたが、タイタスは自らそれを制した。

「カナよ、私のは飽くまでも提案だ。断るのは貴様の自由。だが、ヴァインを打ち破り勝者となった貴様の名だけはこの闘技場に残させてもらう。最後に約束のユーリだ、受け取れ。この男を犯そうがどうしようがそれは貴様の勝手だが、ここでしてもらっては困る。それだけは言っておく」

 タイタスは私にユーリを押し付けると、兵士を連れ部屋を出ていった……。

「あの……カナ……、さん……?」

「取り敢えずはここを出るよ」

 不安げな表情で見つめるユーリを連れて、私は部屋を後にした。


「カナっ!」

 部屋を出ると、誰かに呼び止められた。

 誰だろう……?

 声のする方へと振り向くと、そこにはヴァインの姿があったっ!

「え……?うぇえ……っ!?ヴァインあなた死んだんじゃ……っ!?南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏!迷わず成仏……っ!」

 まさか負けたのが悔しくて化けて出てきたとか……っ!?

 この世界で通用するかどうか分からないけど、私は思わず手を合わせて念仏を唱える。

「お前は何をやっているんだ……?言っておくが俺は死んではいない、しばらくの間気を失ってはいたがな……」

 心臓を貫かれたのに、気を失う程度で済むんだ……。
 ヴァインの体は何もかもデタラメなようだ。

「……それで、何のよう?再戦なら受けないよ」

「そうではない、先ほどのことをあやまっておこうと思ってな、カナすまなかった」

「え……?」

 何を思ったのか、ヴァインは私に対してお詫びを言ってきた。

「お前との戦いの最中、俺は怒りに我を忘れてしまっていた。本当にすまなかった……。それでだ、もしよければカナ……俺の妻になってくれないか……?」

「え……?は……?はあぁぁぁぁぁぁーーーー……っ!?」

 突然ヴァインは片膝を付き私へとプロポーズを申し込んできたっ!
 それを理解するのにしばらくかかり、理解すると私は顔を真っ赤にして素っ頓狂な声を上げていた!

 まさか生まれて初めて私にプロポーズをして来た男が好きな人ではなく、因縁の相手とは夢にも思わなかった!

 ちなみに、私に一番最初にプロポーズして来たのはミリアさんだったりする……。

「さっきの戦いで俺はお前のことがますます気に入った!だから俺の妻となって俺の子を産んでほしいっ!」

「い……イヤよ……っ!私は心に決めた人がいるのっ!」

「心に決めたやつ……?それはそこにいるユーリとか言う奴の事か?」

「ち……違うよ……!私はここへは好きな人を助けると言う目的のために来たの!それにはバジリスクスケイルがどうしても必要だから来ただけなのっ!」

「なるほどな……、好きな奴を助けるための戦いか。お前の強さの秘密はそれだったと言う訳か……」

「と……兎に角ヴァイン、私はもう行くね……!行くわよユーリっ!」

「え……?あ、うん……」

 私はユーリの手を引いて闘技場を後にした。

 ◆◆◆


 闘技場を出た私は、ユーリと向かい合っていた。

 目的のバジリスクスケイルは手に入れた。
 奴隷として捕らえられていたユーリも助けることが出来た。

 あとは、彼を解放すればここでの用事は全て終わる。

「ユーリ、私はこれであなたを解放する。後は自分のいた所へと戻りなさい」

「え……っ!?で……、でも……っ!?」

「あなたの出身が何処かは私は知らない。ここからどのくらいかかるのかも含めて……。だからこれをあげるわ」

 私はそう言い、お金の入った袋をユーリへと手渡した。

「こ……、こんなに……っ!?」

 中身を見たユーリはその金額に驚いていたっ!

 袋の中には100万エント程入っている。
 これだけあれば装備を整え、元いた場所へと帰れるだろう……。

「それだけあれば装備を買ったり、元いた場所への旅費にもなるでしょ?それとも、足りない……?」

「と……とんでもないです……っ!!」

 私が聞くとユーリは勢いよく首を横に振っていた。

「そう、なら良かった。余ったお金は取っておきなさい。あと偽の依頼には気をつけてね。それじゃあ、私はこれからプルックへと向かうから。じゃあね」

「うう……!ぐす……っ!カナさん……っ!本当に……!本当にありがとうございました……っ!!うう……!ううぅぅ……っ!!」

 余程奴隷の暮らしが大変だったのだろう、ユーリは泣きながら私が手渡したお金を抱き締めていた。

 その気持ちは私にも分かる……、私も一時期奴隷だったから……。

 ドラゴスでユーリと別れた私は船に乗るためプルックへと向かったのだった。
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