罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー

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澪の章 寡黙なクラス委員長

澪の決心と母の不安

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 ──澪──


 日が暮れ始めた頃、わたしは彼方くんと一緒に学園に出た。
 夏とはいえ、時間が遅くなってしまったせいで薄暗い……。

「それじゃあ、彼方くん……また明日……」

「待って澪、暗い中一人で帰らせる訳には行かないから家まで送るよ」

 彼方くんが送ってくれる……そう思うと胸の奥が温かくなって顔がほころぶ……。

「それじゃあ……お願い……」

 彼方くんの手を握りながら、薄暗い道を並んで歩く……。
 その温もりが、胸の奥をじんわりと満たしていく。


 家に着くまでの間他愛のない話をした。
 小説の話、エリシアゲームの話、そして……家族の話……。
 彼方くんは親の再婚で家が賑やかになったと言っていた。

(賑やかって、いいな……)

 彼方くんの声を聞きながら、わたしの胸の奥が少しだけ、きゅっとなった。

 もし……もしわたしのお母さんと彼方くんのお父さんとが再婚していたら……。

 そんな“もしも”を考えたことは、何度もあった。
 でも、今日ほど強く思ったことはなかった。


 ◆◆◆


 楽しい時間はあっという間に終わってしまう……。
 わたしは気がつけば家のすぐ近くまでやって来ていた。

「彼方くん……、わたしの家もうすぐそこだから……」

「この辺りでいいの?」

「うん……、送ってくれてありがとう……」

 わたしは控えめに手を振ると彼方くんが手を振り返してくれる……。

 わたしは少し小走りで家へと向かう……途中一度だけ振り返ると彼方くんはずっと見送ってくれていた。

 もう一度彼方くんへと手を振ると今度は振り返ることなく家へと向かう……。


 アパートの階段を登り、家へと入るとお母さんが帰っているのか部屋の灯りがついていた。  
 時間も遅かったわけだし……お母さんに心配かけちゃったかな……。

「おかえり、澪。今日は遅かったのね」

「……うん、学園祭の準備してた」

 私は靴を脱ぎながら、お母さんの顔を見ないように答える。  
 彼氏とかいたから……、それを言葉にするのは少し怖かった。

「ねえ、澪。その学園祭なんだけど、お母さんも見に行こうと思ってるの。あなたが作ったアクセサリー、見てみたいし」

「……うん、いいよ」

 お母さんが学園祭に来る。
 それはつまりお母さんと彼方くんが出会うという事を意味し、少しだけ不安を感じる。

「取り敢えず手洗いとうがいしてきない」

「うん……」

 わたしは手洗いとうがいをしながら彼方くんのことを考える……。

 出来ればお母さんにきちんと彼方くんのことを紹介したい。
 そして、受け入れてもらった上で堂々と彼方くんと付き合いたい……。

 でも……そんなことを言うとお母さんどんな顔するかな……。
 心配する……?それとも……怒る……?

(でも……これは避けては通れない道……)

 わたしは心の中で決心をするとリビングへと向かう。


 うがいと手洗いを済ませ、私服へと着替えたわたしは夕食の準備を手伝いながら意を決して言葉を口にした。

「……お母さん、わたし好きな人ができた」

 お母さんの手が止まった。
 包丁の音が止まり、部屋の空気がぴたりと静まった。

「……好きな人って男の子?」

「……うん、御堂彼方くんっていう同じクラスの男子」

「……そう」

 その声は、喜びでも祝福でもなかった。
 ただ、静かで、冷たかった。

「……反対なの?」

「澪……あなたが小さい頃、覚えてる?あなたが少しでもはしゃぐと、お父さんは怒鳴って、叩いて…… 泣いていたあなたを、お母さんは守れなかった……」

 お母さんの声が震えていた。
 わたしは何も言えなかった。

「そのせいで、あなたは……言葉を閉じ込めるようになった。中学に入ったばかりの頃、男子にからかわれてたって……先生から聞いたわ」

 わたしは黙って頷いた。  
 あの頃のことは、今でも胸が痛む。

「だから……男の子と付き合うって聞くと、怖いの。澪がまた傷つくんじゃないかって……」

 お母さんの目は、私を見ていた。
 でも、わたしはその視線を受け止めることができなかった。

「……彼方くんは、違う」

 それだけしか言えなかったけど、わたしの中では確かな言葉だった。

「兎に角……学園祭の時にその彼方くんがどんな子か見させてもらうわ……全てはそれからよ……」

 お母さんはそれ以上何も言わず、夕食の準備を再開すると、包丁の音だけが静かに響いていた。
 張り詰めた空気は、まだ解けそうになかった。
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