4 / 89
4
しおりを挟む裏カジノの正面入口へ到着した馬車。ウィルフレッドはエスコートをしながらリリーを降ろした。
お互い仮面を被っているので表情を読めるのは口だけ。
リリーは仲の良いカップルだと周囲にわからせる為にウィルフレッドの左手に自分の右手の指を絡め恋人繋ぎをした。そのまま彼の左腕を左手で掴み体を密着させる。
ウィルフレッドは一瞬驚いたが流石そこは騎士団の期待の星。リリーの意図を読み彼も演技を始めた。何事もない、これが通常運転だとばかりに口角を上げ堂々とカジノの中へ潜入する二人。
カジノの中は華やかだ。大きなシャンデリアが輝きを放ち、賑わう客達。リリー達はどこのテーブルへチャージしようか悩んでいる素振りを見せながらホールの奥にある扉の中へ入った。
暗い廊下が長く続いている。敵の姿はない。
まずは帳簿を見つけること。そして悪党を成敗すること。
ウィルフレッドが先頭を歩き帳簿がある部屋へと向かうと、曲がり角で人の気配がした。戦闘の始まりを察し横目でリリーを見るが、彼女は堂々とウィルフレッドの後ろで佇んでいる。
(守りきれるだろうか)
ウィルフレッドはリリーを気にかけながら、こちらへ向かってくる気配に立ち向かうべく攻撃を仕掛けた。
ガシッ!
「「・・・・・・」」
敵だと思っていた正体はエレンだった。ウィルフレッドとエレンは瞠目しお互いの正体を認知すると無言で掴み合っていた腕を離した。エレンの背後には他の騎士達三人も居た。どうやら彼等は先程たまたま合流したらしい。丁度今いる場所から一番近くにある部屋に帳簿がある。
部屋に誰も居ない事を確認し、中へ入る。
シンプルな執務室と言ったインテリアで部屋の中央に机があった。壁には何体かの甲冑が飾ってあり少々不気味な内室だ。
机の引き出しを開けると何冊かの分厚いノートがあった。全てを取り出しどれが帳簿なのか各自探る。
するとーー
ウィルフレッドの背後に展示されていた甲冑がゆっくりと動き出した。ウィルフレッドは真剣にノートの中身に集中していた為それに気付いていない。他の騎士達も気付いていない。
甲冑がウィルフレッドに襲いかけようと腕を振り上げた瞬間
ガシャンッ!
「・・・ッ!?」
リリーが甲冑の腕を蹴り上げヒールの先で敵の目元を攻撃した。相手は堪らず悲鳴を上げ床へ転がる。
何が起きたのか驚いた騎士達は状況を把握すると部屋のインテリアとなっていた甲冑へ警戒の態勢を取った。
全ての甲冑が動き出し、戦闘が始まった。
剣で攻撃をしてくる甲冑に対し騎士達は素手で応戦する。少し時間はかかったが全ての敵甲冑を倒した彼らは帳簿を見つけ外に出ようとしたその時、扉が勢いよく開いた。
「これはこれは何処ぞの虫が集っているようだ。殺虫剤を撒かねばならんなあ」
現れたのは髪を七三にわけたふくよかな男。嫌なダミ声で話した男だが、ルークが持っている帳簿を見つけ瞳を充血させた。
「虫ごときが私の邪魔をするなー!!」
ぞろぞろとふくよかな男の背後から敵が侵入してくる。多勢に無勢だが騎士達はこの状況でも諦めていない。
「お前がここの頭か」
ウィルフレッドの鋭く冷めた声が響いた。
ふくよかな男はそれを認めニヤリと厭らしく笑った。
「お前達のような虫けらに何が出来る!殺せ!殺すのだ!!」
一斉に敵の部下達が攻撃を仕掛けてきた。
何人かの騎士達は倒した甲冑から奪った剣で応戦をするが、武器を取れていない者もいる。
「こっちは丸腰だっての!」
リヒャルトは後者だった。敵から繰り出される剣での攻撃を素早い身のこなしで避けている。
だったら敵から奪えばいい。
リリーがリヒャルトと交戦していた相手を早業で倒し剣を奪うとその剣をリヒャルトに渡した。
「あ、ありが・・・とう」
あまりにも呆気なく倒れてしまった相手と平然とした態度で武器を渡してくるリリーに戸惑うリヒャルト。リリーは何事も無かったかのように壁に寄り掛かり見物の姿勢をとった。
剣を持ったリヒャルトは先程とは人が変わったように素早く動き敵を倒していく。
騎士達の動きを観察しある程度彼らの強さを知ったリリーは、仲間が倒され愕然としすっかり怯えてしまったふくよかな男を見た。
決着ついたな。
ウィルフレッドがふくよかな男の首筋に剣先を当て観念させた。
「いやーお見事!」
パチパチと場違いな拍手が響く先には騎士団団長のジョンがにこやかに人受けしそうな笑顔で部屋の出入口に佇んでいる。
「後は他の騎士達に任せて飲みに行こう!今夜は俺の奢りだから。リリーも報告兼ねるから付き合ってね」
続々と他の騎士達が集まりふくよかな男や倒れている敵を捕縛していくのを見守り、リリーはジョンと騎士五人と夜の酒場へ向かった。
69
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
転生先は男女比50:1の世界!?
4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。
「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」
デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・
どうなる!?学園生活!!
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる