【R18】 その娼婦、王宮スパイです

ぴぃ

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第二章

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「・・・俺、なんでここ来ちゃったんだろ」

 現在夜の七時半。
リヒャルトはショーン酒場の店の前に立っていた。
影での訓練を終えクタクタの筈なのに今朝のリリー達のやりとりが頭から離れず一人で来てしまった。

どんな男か見たらすぐ帰るし・・・。

そもそもその男が来るかもわからないのだ。
初対面で胸を触る男なんて遊び人だろうし、一回会っただけの女なんて忘れている可能性が高い。冷静に考えればわかる事なのにあんなに楽しそうに探すとか言い出すリリーが危なっかしいのだ。

そう、これは仲間思いだからこそする行動だとリヒャルトは自分に言い聞かせ入店した。

賑わう酒場。
店内全体を見渡せる席を探す。
奥のカウンターがよさそうだ。

その席に見知った二人組を見つけてしまい瞠目したリヒャルトは慌ててその人物達に駆け寄った。

「どうしてウィルとエレンがここにいるの?」

ウィルフレッドとエレンの二人が奥のカウンター席で隣に並びながら酒を飲んでいた。

「飲み会なら誘ってよ」

ムスッと唇を尖らせたリヒャルト。
彼に気付いた二人は互いに気まづそうに視線を逸らした。

「一人で来たんだけどたまたま会ったんだよね」

「それって・・・」

つまり、そういう事だ。
彼らはそれぞれリリーの相手が気になり店に来たのだが店中で鉢合わせてしまったのだ。

気まずい雰囲気が漂う。

「二人はさあ、リリーの事興味無いって言ってたじゃん」

「・・・そう言うお前はどうなんだ」

たしかに当初は興味無いと言った。
でも今は気になって落ち着く事も出来ないのだから仕方がないではないか。

「俺は仲間意識ってやつ。変な男だったらやめとけって言いたくて・・・せっかくだから三人で飲もう。ボックス席に移動しよ?」

席を移動しようと動いた三人だがまた見知った人物に遭遇してしまった。

「「「あ。」」」 「「えっ」」

ルークとノエルもショーンの店に居たのだ。
既にボックス席で酒を飲んでいた二人。
気まずい空気が五人を包む。

ルークとノエルも店の出入口で鉢合わせてしまい、二人で飲みながら観察しようとなったのだ。

結局いつものメンバーで飲むことになってしまった。

ノエルはわかるがルークが来ている事に違和感を抱いたウィルフレッド、エレン、リヒャルトの三人がジト目で彼を見続けた。

「・・・な、なんだ?」

視線を受けた彼は戸惑う。
紫色の長くて綺麗な髪が揺れた。
今彼は髪を束ねていない。
シルクのようにサラサラと輝いている彼は美人だ。動揺を隠せないその表情も彼を知らない普通の男なら惚れてしまう顔をしている。

「一番来なさそうなのにって思って」
「好意を抱くなとかリリーに言ってたくせに」

エレンとリヒャルトがぼやいた。
それだけしか言っていないのにルークは焦る。

「ちがっ!師弟関係だから見定めてやるだけだ」

まったく、素直な男である。
するとーー。

「きゃあ!カッコイイ!」
「ご一緒しましょう!」
「私はこの方の隣!」

酔った女性達が一気に押し掛けてきた。
コの字のボックス席だというのにテーブルの下へ潜り込み各自の間に座り込む女性達。

騎士達はその素早い動きに影か?と唖然としてしまう。彼女達は相当酔っているのか全員顔を赤らめ騎士達の身体をベタベタ触り出した。

気持ち悪い・・・酒臭い・・・。

エレンは嫌悪感を堪えベタベタ触る女性の手を笑顔で離そうと試みるが、離してもすぐに引っ付いて来る。どうした事かと悩んでいたらテーブルに影が差し、視線を感じた。ふと見上げて固まってしまう。

リリーが騎士達を黙って見ていたのだ。
彼女はたまたま騎士達の席を通りがかっただけ。

アイボリーのカジュアルなワンピースと紐付きのブーツ、髪はハーフアップに可愛くまとめられ、足し引きも完璧な化粧をしていて訓練時とは違う気合いの入った可愛らしい姿に思考が固まる騎士達。

困っていたら助けようと思ったリリーだったが、ベタベタと触り合ってイチャついているように見え、これは楽しんでいるなと察した彼女は何も言わず席を離れようとしたーーが

ガシッと両手をボックス席の端に座っていたウィルフレッドとルークに掴まれてしまった。驚くリリーと女性達。

生徒が夜遊びをして先生に怒られると思っているのだろうかと思ったリリー。

「大丈夫だから離して?」

「何が大丈夫なんだ?俺達は大丈夫じゃない」

「これは誤解だ!」

ルークの言う誤解の意味がわからない。
リリーから見たら楽しそうに男女がじゃれているように見えるだけ。何が誤解なのかわからない。

困惑するリリーにシルヴィが近付いてきた。

「リリーさんお待たせー!その格好可愛い!髪型も似合って・・・え、何この状況」

女にベタベタ触られている騎士達。
リリーの手を掴むウィルフレッドとルーク。
異様だ。周囲の客達もチラチラと様子を伺っている。

「えーと、楽しそうだね?・・・リリーさん行こ?」

「待って!一緒に飲みましょう!」

リリーを掴んでいる二人の手を手刀で落とし、その場から去ろうとするシルヴィとリリーをノエルが叫んで止めた。

あー、そういう事かーと察したシルヴィが絶対零度の眼差しで騎士達に群がる女性達を睨みつけた。

「お姉さん達相手が嫌がってる事に気が付けない程自分勝手なの自覚しなよ。ちゃんと鏡見てる?ブサイクが調子乗ってベタベタ触ってんじゃねぇよ」

ひいっ!

自分達よりも整った顔をしているシルヴィのドスの効いた声に女性達は小さな悲鳴を上げ怯えながら席を離れた。

女性達がいなくなった事で安堵の溜息を吐いた騎士達。自分達じゃあんな追い払い方は出来ない。

「ありがとう」

ほっとした顔でエレンが礼を言った。
シルヴィは自分達でなんとかしろよと言いたくなったがそれを堪えスンとした表情を向けた。

「別に・・・僕も経験あるから気持ちわかるし。リリーさん行こ?」

シルヴィとリリーが移動をしようとしたが、再びルークに手首を掴まれてしまったリリー。眉間に皺を寄せたシルヴィがルークを睨んだ。

「ノエルが一緒にと言っただろう」

その場しのぎの言葉だと思っていたシルヴィはどうして騎士達は自分達と一緒に飲みたいのかと考えひらめいた。きっと彼らはリリーのことが気になるのだろう。自分もこういう時期があったなと過去を思い出した。

「奢ってくれるならいいけど?」

「かまわん」

「ラッキー♪でもまずは仕事の話するから邪魔しないでね」

こうしてコの字のボックス席にてウィルフレッドの隣にシルヴィが、ルークの隣にリリーが着席し飲み会をスタートさせた。


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