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第二章
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しおりを挟むキュッと恋人繋ぎをしながら街中を散歩する二人。彼らはまだデート中だ。先程からリヒャルトは顔に手を当て悶々としていた。
(まって俺めちゃくちゃリリーのこと好きじゃんっ。なにさっきの俺も好きって。凄く自然と出ちゃったんだけど!リリーには聞こえてないっぽいから良かったけど。男に話しかけられただけで浮気ってヤバくない?話しかけられただけなのに重くない?でも凄くムカついた。めっちゃ嫉妬した。しかも俺の女って連呼しちゃった。恥ず!)
リリーが好きだと自覚したリヒャルトは思えば出会って直ぐに好きになったのではと考えた。無口で無表情で可愛くない、面白くないって思っていた。でもそれは振り向いて欲しかったからなのかもしれない。
リリーが好き。
リリーと一緒にいたい。
やばいこれ・・・大好じゃん。
耳を赤くしたリヒャルトは恥ずかしくてリリーと視線を合わす事が出来なくなった。歩きながらリリーがリヒャルトを見上げる。
「今日リヒャルトの家に泊まっていい?」
「・・・え?」
カアアッと顔を赤くしたリヒャルト。それってどういう事か分かってるのか?
「ダメ?」
「ダメじゃないけど・・・いいの?」
リリーは処女なのに俺が相手でもいいの?
含んだ瞳で彼女を見ると彼女は微笑みながら頷いた。ドキドキとリヒャルトの鼓動が早くなる。
いや、浮かれちゃダメだ。
リリーの家に泊まるのと一緒。
やましい事はない。
「あれ、偶然だね」
聞き慣れた声が聞こえハッとなり声がする方向を振り向いた。そこにはニコッと良い笑顔を浮かべたエレンとその周りにいつもの騎士達。
彼らはお揃いの帽子を被り恋人繋ぎをしている二人を一瞥するとムッとなり腕組みをして仁王立ちをした。
「どこに行ってたんですか?」
「どこってデートだよ。街中ぷらぷらしてた。皆こそどうしたの?」
リヒャルトの質問に彼らは口を一文字に結び黙った。彼らはリヒャルトとリリーのデートを観察しようと朝からリヒャルトをストーカーしていたのだが、リヒャルトが待ち合わせ場所にたどり着く前に人混みで見失ってしまった。その為デートと言ったらここだと思われる令嬢に人気のあるレストランや服屋へ行ってみたが出会う事が出来なかったのだ。
所詮彼らは貴族様だ。平民のデートと貴族のデートでは向かう場所が違う。その為四人で貴族のデートコースを楽しんだのだ。もう諦めて帰ろうとしたところたまたまピンクの二人を見つけたという。
はあ~と深い溜息を吐いたリヒャルト。
リリーと二人きりの時間を邪魔されないで良かった。大好きな仲間は最大のライバルだ。
「今日はリヒャルトの家に泊まるの」
「へぇ、じゃあ僕達と一緒だね。一緒に帰ろうか」
あ、そうか。リヒャルトは騎士寮に住んでるから彼らと一緒かとポンッと手を叩いたリリー。手を離されてしまったリヒャルトは再び握ろうと腕を伸ばすが、その手をエレンに掴まれてしまった。
「僕と手繋ぐ?」
「嫌だよ気持ち悪い」
「喧嘩になるからリリーは誰とも手繋いじゃダメですよ?」
「・・・?わかった。リヒャルトの手あったかかった」
ありがとうと彼に礼を言ったリリー。
リヒャルトはそれだけの事なのに胸がキュンとしてしまい重症だと深く息を吐いた。
***
騎士団寮に着いたリリーと騎士達。彼らは他の騎士達と鉢合わせないようキョロキョロと警戒しながらリヒャルトの部屋の中へ入った。
「寮は女立ち入り禁止なの?」
「そんな事ないけど誰にも見られたくないじゃん。変に絡まれたくないし」
今まで誰も女を連れて来なかった彼らが女を連れ込んだとなるといい話題のカモになってしまう。察したリリーはふむと納得した。
「お風呂入ってくるね。場所どこ?」
「えーと部屋を出て突き当たりを右に・・・て」
「「「え!?」」」
全員で驚いた。
リリーにとっては泊まるんだから風呂に入る事は当たり前だ。だが彼らは動揺した。ここは騎士団の寮だ。各自部屋にシャワー室は無く共同の大浴場が備えられている。つまり他の人間も入るわけで、その相手は屈強な騎士の男達。そんなとこにリリーを一人で放り込めば見つかり次第食われてしまう。
「後でシャツ貸して?行ってくるね」
部屋から出て行こうとするリリーの腕をリヒャルトが咄嗟に掴んだ。
「ダメ!絶対ダメ!」
「でも今日は屋台に囲まれたから髪が焼肉臭いしお風呂入りたい・・・あ、勝負下着見たい?」
今日はピンクのレース紐パンなんだぞとワンピースを捲ろうとするリリーを全員が叱責した。
「後で見るから今脱がないの!はあ~どうしよ」
「全員で囲めばいけるんじゃないか?」
ウィルフレッドの提案にそれしかないかと頭を抱えたリヒャルト。
「後で見るとはどういう事だ?」
「・・・一緒に風呂入るんだから後で見ることになるでしょ」
ウィルフレッドの質問にそれらしいことを言ったリヒャルト。
このメンバーはリリーの裸を見たことがある。一緒の風呂にも入ったことがある。だからここに居る仲間達に彼女の裸を見られても構わない。だか他の男に見られるのは絶対に嫌だ。彼らに課せられたミッションはリリーの裸を何がなんでも他人に見られないこと。
今の時間帯ならまだ早すぎるので人はいないだろう。行くなら今だ!
リリーはリヒャルトの騎士服を着せられた。少しでも目立たないようにとの事だが彼の服が大きく、ブカブカ過ぎてお化けのように腕をプラプラさせている。特にズボンは手で押さえていないと下に落ちてしまうので歩きづらい。
そんな彼女を囲い周囲の目を気にしながら騎士団寮内の大浴場へたどり着いた一行。浴室に誰も居ない事を確認し、風呂場を見たリリーは感動した。
騎士団の大浴場はとても清潔で広く泳ぎたくなった。きっとナターシャがこれを見たら喜んで泳ぐだろう。その隣でぷかぷか浮かんでいる自分も想像出来る。
早速入ろうとリリーは周囲の目を気にせず服を脱いだ。前を隠そうとしない堂々とした彼女に対し騎士五人ももはや抵抗なく裸になった。彼らは潜入捜査でもしているかのように周囲を警戒し合図を送り合って中にリリーを入れた。
リリーがシャワーで体や髪を洗っている間も彼らは守るように囲う。いつまでも体を洗わない彼らに疑問を抱いたリリーは首を傾げた。
「体洗おっか?」
「「「・・・大丈夫」」」
正直洗ってほしい。だがそんな時間は無い。いつ誰が来るのか分からないのだから早く風呂から出たい。
洗い終わったリリーが湯船に浸かろうと浴槽に向かうのをルークが止めた。
「ダメだ。出るぞ」
ガーンとショックを受けたリリーはルークを見上げた。
「ちょっとだけ泳ぎたい」
「風呂は泳ぐ場所ではない」
正論を言われてしまい落ち込むリリーを見かねてノエルが助け舟を出した。
「一往復くらいはいいんじゃないですか?」
ノエルの言葉を聞いたリリーはコクコクと頷きキラキラとした瞳でルークに許しを得る為じっと彼を見た。まるで小動物がエサを懇願するかのように瞳が輝いている。一瞬たじろいだルークだったがそれでもダメだと言おうとした時、脱衣所から物音が聞こえた。
咄嗟にリリーを抱えて湯の中へ入ったルーク。二人を囲うように他の騎士達も湯船に浸かった。
「あれ?この時間に君達がいるなんて珍しいね」
脱衣所から中へ入って来たのは騎士団第二番隊隊長のユリウス。彼は平民出身でありながらもずば抜けた剣術で二番隊隊長を務める優秀な人物だ。甘いマスクとは裏腹に引き締まった逞しい筋肉を持ちながらも、純粋な彼は他人に優しく老若男女問わず人気がある。
そんな彼は騎士団長ジョンの直属の部下である五人がいつも居ない筈の時間帯に大浴場に居る事に疑問を抱いた。しかも彼らはこの広い浴槽で密着しているではないか。これはもしや唯ならぬ事情があるのでは?と首を傾げている。
「先輩もこの時間に入るなんて珍しいですね」
同じ平民出身で可愛がられているリヒャルトが彼に問うた。ユリウスは照れくさそうに頬を掻きながら小さく笑った。
「僕はいつもこの時間帯だよ。誰も居ない時の方がその・・・泳げるからね」
実はこのユリウスは誰もいない広い浴槽で泳いだり浮いたりするのが好きなのだ。
あはは、もうっ言っちゃったよ~と後輩にカミングアウトしたその声色は落ち着いていながらも優しく耳心地が良かった。
何だかナターシャみたいで可愛い人だと思ったリリーは微笑ましくなり声に出さないよう小さく笑った。
そんな彼女を見たウィルフレッドが堪らずリリーの顔を掴みキスをした。
他所の男で笑わないでほしい。
突然の行動に驚いたリリーは瞠目しウィルフレッドを見たが、直ぐに体をリヒャルトにより離される。
「ちょっとなにキスしてんの!?」
大浴場に響いたリヒャルトの声に驚愕したユリウスは彼らを二度見した。
「え?キス?え?え?」
だが彼らはユリウスに背を向け密着している。
ハッと何かを悟ったユリウスは焦り始め、冷静になろうと浴槽に浸かろうとした足を止めた。
「・・・僕は恋愛は自由であっていいと思う。偏見は持たないし軽蔑もしないよ。勿論他の人に話すつもりも無いから安心してね?いつでも相談に乗るから。それじゃあお邪魔虫はまた後で入るよ。君達もゆっくり休んでね」
そっとドアを閉じて浴室から出て行ってしまったユリウス。リリーは未だ見ぬ彼が五人を誤解した事が面白すぎて肩を震わせていた。だが今声を出して笑ってしまえば脱衣所に居るユリウスに声を聞かれてしまうので笑うことが出来ず、目に涙を溜めながら苦しいと身悶えしている。
誰のせいで勘違いさせられたと思っているんだと青筋を立てた五人は無言で彼女を擽った。ひゃっひゃっと声を我慢しながらバシャバシャとお湯を叩くリリー。最終的に逃げるように湯船から這い出て必死に酸素を取り込んだ。
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