【R18】 その娼婦、王宮スパイです

ぴぃ

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第三章

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 「エレン、久しぶり」

 リリーに突然背後から抱き着いた人物はエレンだった。イケメンで王子様の様な彼がなぜ強姦魔呼ばわりされたかと言うと、彼の見た目が以前と異なるからだ。爽やかだった長さのプラチナブロンドの髪はモサモサとしていて前髪で顔を隠している。ツルツルだった肌には無精髭。しかも小汚いフードを被っている。美貌を隠し体格のいい長身の男に小柄な女性が襲われていると周りが勘違いしてもおかしくはない。

エレンで間違いないはずなのに彼は返事をせずに無言で抱きついたまま離れない。周りの誤解が解けるまでリリーは「知り合いです」と何度も言い、心配してくれた人々を納得させた。やっとエレンと向き合い彼を見上げるがあらゆる毛で顔が見えない。

もしかしたら顔出しNGなのかと思ったリリーはエレンの前髪を自分にだけ見える程度にそっと上げた。アメジストの瞳と目が合い久しぶりに会った可愛い生徒に思わず顔が緩む。エレンは何かを堪えているように難しい顔をしていた。いつも笑顔が多かったのにその顔は苦しそうだ。

どこか怪我でもしているのだろうか・・・。

「怪我してる?」
「・・・うん。心が怪我してる」

精神科か?心臓科か?
たしかに苦しそうな顔をしている。
だがエレンは医者が苦手だと言っていた。
以前医者から偽の病名を告げられ言い寄られたと言っていたのを思い出し他の提案もしてみる。

「病院行く?・・・それかカフェか、家来る?」

少しでも安静に過ごした方がいいのではないか?でも心臓が悪いなら病院に行かなくては。ひとりで行きたくないのなら付き合うぞ。

「病院付き添うよ?」

「・・・大丈夫だよ。リリーの家行きたいな」

こうして二人は家に向かった。



***



*エレンside

 リリーがいなくなった。
すごく好きで大切な存在があっけなくいなくなってしまった。どうしてずっと一緒にいられるって思っていたのだろう。

片想いでいいからそばにいたかった。
特別に想われなくていいからそばにいさせてほしかった。同じ空間にいて、笑い合って、時々触れ合って。それが幸せだと思っていた。

どうしていなくなったの?
僕がなにか悪いことした?

もう会えないと思うと胸が突き刺さる感覚が襲う。焦りと喪失感も加わりどうしようもない。いても立ってもいられず気付いたら何の計画も無しに騎士団の寮を飛び出していた。


 暫くリリーを探しながらあらゆる街を転々とし、人の邪心にうんざりすることになる。 

最初こそ必死にリリーを捜していた。彼女の特徴を伝え手当り次第に人に聞き回る。だがこの見た目のせいなのか度々偽物のリリーを宛てがわられた。ピンクアメジストの髪と瞳の色、その特徴は割と多い。中には瞳の色だけ同じでカツラを被る者まで現れた。最悪な事に薬を盛られ危うく犯されそうになったこともあった。

これでは埒が明かないと思い髪も髭も伸ばし服装もみすぼらしく変えた。すると面白いくらいに人が寄ってこず、順調に捜索を進めることが出来た。結局人は見た目なんだなと鼻で笑いリリーを捜す。

一ヶ月以上捜し続けてもリリーは見つからない。簡単に見つかるなんて思わなかった。それでもと思っていたがある時ふと会ってどうするんだと疑念を抱く。

彼女は特別僕を好きだと思っていない。
会えたとしても少し話すくらいで解散するのは目に見えている。家に招かれとしても追い出しはしないだろうがずっと居させてもらえるとは限らない。

好きだと伝えるのは怖い。
同じ想いを返されないのが分かっているから。
それでもそばに居たいと思うのは、間違っているのだろうか。

彼女の気持ちが第一なのは分かっている。
でも、どうしようもないくらい僕は我儘なんだ。

もし先にユリウス様がリリーを捕まえて結婚していたら?僕は彼女にとって邪魔者になってしまうのだろうか・・・。

こわい・・・怖い・・・それでも・・・そばにいたい。
彼女に会いたい。


 月日が経ち、力のない足取りでリリーを捜す。
王都からはかなり離れたが、中々に大きく活気のある街にたどり着いた。どうせここでも見つけられないだろう。期待せずに聞き込みをしながら街を散策する。

ふいにピンクアメジストが視界に入った。
すぐにリリーだと分かった。
彼女の背中しか見えないが僕がリリーを見間違うはずがない。思考よりも体が先に動く。

力強く背後から抱き締めた。
この匂い・・・間違いない。甘くて優しいこの匂いが大好きだった。

周囲が悲鳴をあげてハッとする。
しまったッ髪を切るんだった。
こんな汚い姿で会いたくなかった。
かっこ悪い自分を見せたくないと腕に力を込めて額を彼女の肩にくっつけた。

「エレン、久しぶり」
「・・・・・・。」

顔に熱が集中する。
本物のリリーだ。少し高いけど落ち着きのある声音が耳に心地よく響いた。こんなに汚い姿なのにすぐに気付いてくれたことが嬉しい。

やっぱり、君じゃないとダメなんだ。



***



 エレンを家に招き入れたリリー。彼はイケメン美貌を髪で隠しているが家に着くなりソワソワしていて落ち着きがない。

「どうかした?」

「・・・いや、もっとシンプルな内装を想像していたから。探検してもいい?」

確かに王都で住んでいた部屋は必要最低限の物しか置かなかったから、今住んでいるインテリアとのギャップが激しいだろう。ナチュラルな家具で揃えたリビングは今やリリーの自慢の部屋だ。お茶を淹れて待っていると言うと彼は内見を始めた。

二人分のお茶を用意して待っているとエレンは先程とはうってかわり、俯きながらトボトボと歩きながら戻って来た。その手には“妊娠”の本。

彼はそっとリリーのお腹を撫でた。ゆったりとしたワンピースを着用していたので見た目では分からなかったが、撫でるとお腹が膨らんでいるのがハッキリと分かる。

「・・・歯ブラシが、二本あった」
「うん」

「・・・・・・男物の服もたくさんあった」
「うん」

「・・・・・・・・・。」

!?

リリーはギョッとした。
エレンが泣いていたから。

ハラハラと流れるエレンの涙を手で拭いながらリリーは彼に今までの経緯を話した。ウィルフレッドとの子を宿したこと。リヒャルトと結婚したこと。彼はその間ずっと黙って聞いてくれた。

話が終わると彼はリリーの手を握った。だが握ったまま何も喋らない。何を考えているのか全く読めないなと思ったリリーは彼の手を引っ張りお茶を用意していたテーブルの椅子へと座らせる。

ずっと俯いたままだがもう涙は出ていないようだ。

エレンは黙ってお茶を飲んだ。
リリーと手は繋いだままだ。

リリーはそんな態度の彼に混乱していた。
どうしてこの街に来たのか、何でこんな格好なのか、仕事中なのか。色々と聞きたい事があるのに聞ける雰囲気じゃない。リヒャルトの話でもすれば喜んで食らいつくのでは?

話題を振ろうとしたがエレンがゆっくりと唇を動かした。

「・・・きて」

立ち上がったエレンに手を引かれ大人しくついて行く。彼はソファに座ると自身の膝上にリリーを背面向きで座らせた。

リリーの髪を片側に流し、顕になった首筋に顔を埋める。少しだけ反応してしまったリリーが振り向こうとしたが、楽に寄りかかれるようエレンに座り直されてしまった。リクライニングソファのように背中をエレンに預けたリリーの頭を優しく撫でるエレン。陽の光が窓から差し込み、妊娠中のホルモンの影響で眠気がリリーを襲う。エレンに対しての警戒心がないせいか、そのまま眠ってしまった。

腕の中で眠ったリリーを見下ろし、ゆっくりと壁に飾られていたリヒャルトとリリーの結婚証明証を虚ろな目付きで見るエレン。


「このまま連れ去ったら嫌われちゃうかな・・・」

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