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第001話(全力逃走?!)
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「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
鬱蒼とした森で、僕は全力疾走していた。
ブモモモモォォォォッッ!!
荒い鼻息を吹かせながら、僕に対して重さも大きさも10倍以上ありそうな魔獣がこちら目掛けて突進してくる。
「無理無理無理!無理だからーっ!!」
僕は絶叫を上げて涙目になりながら、追いつかれないように走り続ける。
4足歩行で迫ってくる魔物は、突き出た鼻と天に伸びる二対の牙が特徴的な、いわゆる猪という生き物だ。体高は2m、体長が4mもある規格外れの巨大な生物がただの猪の訳がないんだけれども。
真っ赤に光る目が僕をターゲットしており、牙の隙間から荒い呼気と涎をボタボタ垂らしながら、迫ってくる姿はマジでおしっこをチビリそうなほどの怖さだ。
「な、なんで、こんなことにーっ!」
そんな巨大な猪に追いかけられながら逃げ惑う。この森は鬱蒼としていて、そこら中に木が生えていて、足元も草や岩が露出しているし、所々に朽ちた倒木もあり、お世辞にも走りやすい地形ではないので、僕はそれらを回避して必死に走る。
身長1mにも満たない僕がジグザグに回避しながら走っているのに対し、体長4mはある猪魔獣が直進してきているが、何故か距離は縮まらずに、少しずつ開いていく。
「な、何とか、逃げられるかも?!」
僕が少しずつ開いていく距離にホッとしたのもつかの間、猪の目が怪しい光を強く発し、天に向けて雄叫びを上げる。その雄叫びに応えるように、猪の身体を赤黒いオーラーがまとわりついていく。
ブグモモモモォォォォッッ!!グモモモモォォォォォッッッ!!
「えぇぇぇぇ?!更にパワーアップ?!しかもやっぱり魔獣?!」
猪魔獣は前足の蹄で、地面を数度蹴ると、弾丸のような勢いで僕にめがけて突進してくる。僕と猪魔獣の間には幾つもの木が乱立しているのに、全く気にせずそれらをなぎ倒しながら一瞬で距離を詰めてくる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっっ!死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅぅぅ!!」
僕は猪魔獣から逃げるように一目散にダッシュする。それでも追いつかれそうになったので、ギリギリまで引きつけて、横っ飛びで藪の中に突っ込んで回避する。
間一髪、致死性の突進を回避した僕は、すぐに藪の中から立ち上がって、猪魔獣の挙動を確認する。あんな質量にぶつかられたら、一発であの世行きは確定だ。この体格と身体を覆う魔素の量、更に魔素を放出してパワーアップした所を見ると、ここいらを縄張りにしている領域主ではないだろうか。
ブモッ!ブモッ!ブモモモモッ!
ブモッ!ブモッ!ブモモモモッ!!
ブモッ!ブモッ!ブモモモモッ!!!
ブモッ!ブモッ!ブモモモモッ!!!!
ブモッ!ブモッ!ブモモモモッ!!!!!
「え?チョット待って?冗談でしょ?!」
領域主っぽいの1頭だけで100回死んでもお釣りが出そうなのに、更にコレですか?!
そこら中から、猪型の魔獣がヒョコッ!ヒョコッ!と顔を出す。その数なんと10……20……30……いっぱい……
さっきの雄叫びは仲間を呼ぶ合図でもあったようで、領域主の配下の猪魔獣が僕を取り囲むように、集まってきた。
「お、終わった……短いようで短かった人生だ……」
それすなわち短い人生以外の何物でもないが、僕は華麗にorzの体勢をとって項垂れる。
ブモッ!ブモッ!ブモモモモッ!
鼻息も荒く、猪魔獣の群れは少しずつ、こっちに近づいてきて範囲網を狭めてくる。
ピィィィッッッ!!
僕が絶望で項垂れていると、頭上で鋭い鳥の鳴き声が響く。その空気を劈くような鳴き声に、僕も猪魔獣も空を見上げる。
そこには綺麗な紅玉珠色をした小鳥が僕の頭上を旋回していた。
ワォッ!ワォォォォーンッ!!
猪魔獣と僕が上空に気を取られた一瞬の隙だった。猪魔獣の包囲網の外から、僕に向かって碧玉珠色の疾風が駆け抜けてくる。
碧玉珠色の疾風の進路にいた猪魔獣は宙に打ち上げられ、進路横にいた猪魔獣は血飛沫を舞い上がらせながら吹っ飛ばされる。
ピィィィッッッ!!
上空の紅玉珠色の小鳥も、もう一鳴きして翼を大きくはためかせると、領域主に向かって物凄い勢いで急降下する。
グモォォォォッッッ!!
急降下の一撃は、とっさの判断ができていない領域主に狙い違わず命中し、急所である右目を抉る。流石の領域主も、それにはたまらず絶叫を上げる。
「ファング!ビーク!」
僕は救出に来てくれた二匹に向けて歓喜の声を上げる。碧玉珠《エメラルド》色の50cmくらいの小狼がファング。10cm程度の紅玉珠色の燕がビークだ。
「もたもたするんじゃないのです!すぐにこっちに阿呆面していないで、とっととこっちに来るのです!」
碧玉珠《エメラルド》色の小狼のファングが作ってくれた道の奥から、失礼な物言いの女性の声が響く。僕はハッと顔を上げて周りを確認する。
予想外の増援に猪魔獣たちは戸惑い呆然としている。領域主も右目の痛みで血を撒き散らしながら暴れていて、僕への関心が薄れている。
僕は声の指示の通りに、小狼のファングが駆け抜けて作ってくれた道を走り、猪魔獣の包囲網を抜ける。
ブグッ!ブググッ!ブグモォォォォッッッ!!
何とか包囲網から出れた瞬間、領域主の怒りの雄叫びが木々や草花を揺らすほどの大音量で響く。それにより正気に戻った猪魔獣たちの視線が一気に僕の方に向く。
「今の隙にさっさと逃げるのです!」
さっきの失礼な物言いの声で再度指示があり、僕はファングとビークを引き連れて走り出す。
「この先に崖があるから、そこで迎え撃つ!です!」
「それって背水の陣じゃ?!」
「見通しの悪い森で包囲されるよりマシです!」
「わ、わかったよ!」
声に従って僕は走り出す。最初に領域主に襲われた場所を走り抜けていくと、声に指示されたような崖に出る。垂直に切り立っているわけではなく、ソコだけややせり出した感じになっている。
僕とファングとビークは、指定された崖の端に辿り着くと、崖を背に振り向いて領域主と猪魔獣の群れを待ち受ける。
キラッ!
僕達が猪魔獣に対抗するために構えていると、太陽の光を一瞬だけ反射して、紫色の影が月面宙返りをクルクルと何回転もしながら、僕達の前にズドンと華麗に降り立つ。
「全く、ポメがいないと少しの間の留守番もマシにできないとは、本当に役立たずのトーヘンボクなのです!」
僕に背中を見せながら、自分のことをポメと呼んだ、僕よりチョット小さい濃紫色の服を着て頭にはひらひらがついたカチューシャを付けた幼女?がやけに汚い言葉を吐いてくる。どう見ても頭が大きくて2.5頭身しかないのに、変に違和感を感じないのが不思議だ。そして取ってつけたような丁寧語の語尾がとても微妙すぎる。
ポメはベロア調の濃紫色のワンピースに真っ白なエプロンをかけている、いわゆるメイド服とよばれる服を着ている。そしてちらりとこちらの様子を伺って言い放つ。汚い言葉を吐きまくっている割には、非常に整っていて可愛い横顔だ。2.5頭身だけど。
「怪我はないようで何よりなのです」
ポメは可愛い顔と暴言にギャップが有りまくりだけど、安心した表情を見せているところを見ると心配してくれていたのだろう。
「というか、どうしてこういう状況になったのか、説明して貰いたいのです!」
「え、えーっと」
僕はポメに迫られて、こうなった経緯を思い出しながら話す。
…………
「あー、暇だなぁ」
僕はそう言いながら、倒木に腰掛けての休憩中に、憂さ晴らしついでに、何気なく足元の小石を拾って、数10m先にある巨石に軽く投石した。
その小石は放物線を描くどころか空気を裂きながら弾丸のように飛翔し、巨石を真っ二つに割る。そして割れた巨石の片割れが、すぐ横にあった大木をシーソーのように跳ね上げ、逆の端に引っかかっていた大きな木の実をテコの原理で弾き飛ばす。
大きな木の実は、華麗に飛翔し二本の栗の木の間を左右に跳ねるように、栗の木を大きく揺らしながら落ちると、遅れて栗の木から大量のイガグリが落下する。
イガグリは栗の木で休んでいた臭鼬の上に落ちると、棘が臭鼬に痛々しく刺さる。そして痛吃驚した臭鼬が、自衛のための強烈な放屁を放つ。
その悪臭は周辺の薮一帯に潜んでいた兎をびっくりさせ、兎はまさに脱兎のごとく逃げていく。そしてその兎を狙っていた猪魔獣が急に獲物がいなくなったことに腹を立て、その原因たる僕に目をつけた猪魔獣が追いかけてくることになったのである。
「どんなピタ○ラスイッチだよ!!」
説明しながら僕は、思わずツッコミを入れてしまう。
「そのピタゴ○スイッチとやらは知りませんが、やっぱり御主人様はアホウ!です!」
僕の説明を聞いたポメは、やや冷めた目で僕を見下しながら言い切る。
「い、いや、僕だってわかってるよ……」
何気なく投げた小石が原因だということも、その小石が巨岩を割る程の威力を持つことも。
そんな話をしていると、悠然と領域主と猪魔獣の集団が森の中から出てくる。先程確認したより数が増えており、おそらく50頭以上いるだろう。
「いや、さっきのはただの事故だよ。僕に悪気はなかった。うん」
集団の戦闘にいた領域主にそう呼びかけるが、当然のことながら領域主は聞く耳を持っていないようで、鼻息を荒くしながら左目を真っ赤に輝かせている。というか僕の言葉が通じているか微妙だ。
ブモッ!ブモッ!ブモモモモモッッッ!!!
そして大きく地面を蹴ると、猛烈な勢いで僕めがけて突進してくる。そして後ろにいた猪魔獣の集団も一緒に突撃してくる。僕達の後ろは崖。そしてその崖の高さは500m以上はありそうだ。すなわち、落ちたら死ねる。
「いやっ!ちょっ!やばいって!!」
僕は突き出した両手に力を込める。すると突き出した両手の前に緑色で円形の不思議な文様が描かれていく。
「あーっ!やばい!!しくったぁぁぁぁぁっっ!!」
緑色の円形の文様は回転しながら、どんどんと円の外周部に不可思議な文様の帯を追加していき、僕の全身よりも大きな巨大な文様を作り上げていく。そしてそれが分裂するように9つに複製されて中空に展開される。
そんな異様な光景にも関わらず、怒り心頭の領域主は突っ込んでくる。
「いやっ!ちょっ!おまっ!!」
僕が反射的にソレを放とうとした瞬間、ポメが一瞬で領域主の右手側の死角に現れると、いつの間にか取り出していたボロ布に包まれた2m強もある巨大で無骨な棒状の物体を叩きつける。
ドゴアァァァァッッ!!
領域主は、魔素を放出し続けることで衝撃を吸収する魔法障壁のようなものを展開していたようだ。ポメの相当な衝撃を持っていそうな一撃を受けて、吹っ飛ばされはしたものの、全く傷は負っていないように見える。
「今です!ぶっ放しやがれ!です!」
ポメの指示を受けて、僕は僕の身長より巨大な10個に増えた文様を起動させる。
「風の刃!」
僕は初級の風属性攻撃魔法を発動させる。これは10cm程度の三日月型の真空の刃を1つ発生させ、対象に向かって飛ばす魔法だ。コレ一つで人間の腕1本を切断する程度の威力しかないので、金属製の盾や魔素による魔法障壁を展開していれば、ほとんど効果がなくなってしまう。
しかし、僕が発動させた風の刃は100cm程の巨大な三日月型の真空の刃を魔法陣一つに対して100本ずつ、合計1000本ほど発生させる。
そして解き放たれた真空の刃は、弾幕のように次々と発射され猪魔獣の群れに襲いかかる。
100cmもの長さがあれば、通常サイズの猪魔獣など一刀両断だ。領域主ですら、全身をズタズタに切り裂かれ血煙を上げる。
そしてそんな強力な真空の刃が猪魔獣一体を倒したからって消えるわけもなく、凄い勢いで木々を切り刻んでいく。
「あ……コレはやばい」
真空の刃は止まることなく進行方向にある全ての存在を切り刻みながら直進する。そして幅50m、長さ数kmにも渡る伐採された道が出来上がってしまう。当然、その進路にいたすべての生物を切り刻んで……
「これは……上級魔法風絶斬並の効果になっちゃってるです。普通は魔術士数人で発動させる儀式魔法のはずですが。それを本来の風絶斬とは違って初級魔法で同等の威力とは、相変わらずの無茶苦茶ぶりです」
ポメが淡々と状況を説明する。
「しっかし、相変わらずなトンデモ威力の魔法を使いやがって、巻き込まれたらどうするつもりだ!このガキ!です」
「ちょっと慌てちゃったんで、通常の威力で撃っちゃった。テヘペロ♪」
「何がテヘペロ♪だ!このトーヘンボク!です」
僕は可愛く舌を出して誤魔化そうとしたが、ポメは容赦無用に罵詈雑言を浴びさせてくる。
「相変わらず発言が酷いよね、ポメは」
「御主人様が、非常識なアンポンタンなだけなのです!」
クゥーン……
ピピィ……
そのやり取りを見ていたファングとビークも少し寂しそうな鳴き声を上げて、哀れそうな目で僕を見る。
「ファングとビークもありがとね。ってかそんな哀れな目で見ないで……」
僕は2匹にそう懇願しながら、領域主《エリアボス》と猪魔獣の群れを殲滅した上級魔法風絶斬を眺める。
あー、うん。凄まじい威力だったよね。この威力だったら、地形にもかなり影響与えるよね。
「あ……」
そうつぶやくと同時に、僕達が乗っていたせり出した部分の崖の部分にピシッと亀裂が入る。そして、その亀裂はあっという間に伸びていき、ガゴッという音とともに大地から切断される。そうすると、突起部分に乗っていた僕達は落ちるしかない訳で……
「うわぁぁぁぁぁぁっっ!!」
と僕達は崖下に投げ出されるのであった。
鬱蒼とした森で、僕は全力疾走していた。
ブモモモモォォォォッッ!!
荒い鼻息を吹かせながら、僕に対して重さも大きさも10倍以上ありそうな魔獣がこちら目掛けて突進してくる。
「無理無理無理!無理だからーっ!!」
僕は絶叫を上げて涙目になりながら、追いつかれないように走り続ける。
4足歩行で迫ってくる魔物は、突き出た鼻と天に伸びる二対の牙が特徴的な、いわゆる猪という生き物だ。体高は2m、体長が4mもある規格外れの巨大な生物がただの猪の訳がないんだけれども。
真っ赤に光る目が僕をターゲットしており、牙の隙間から荒い呼気と涎をボタボタ垂らしながら、迫ってくる姿はマジでおしっこをチビリそうなほどの怖さだ。
「な、なんで、こんなことにーっ!」
そんな巨大な猪に追いかけられながら逃げ惑う。この森は鬱蒼としていて、そこら中に木が生えていて、足元も草や岩が露出しているし、所々に朽ちた倒木もあり、お世辞にも走りやすい地形ではないので、僕はそれらを回避して必死に走る。
身長1mにも満たない僕がジグザグに回避しながら走っているのに対し、体長4mはある猪魔獣が直進してきているが、何故か距離は縮まらずに、少しずつ開いていく。
「な、何とか、逃げられるかも?!」
僕が少しずつ開いていく距離にホッとしたのもつかの間、猪の目が怪しい光を強く発し、天に向けて雄叫びを上げる。その雄叫びに応えるように、猪の身体を赤黒いオーラーがまとわりついていく。
ブグモモモモォォォォッッ!!グモモモモォォォォォッッッ!!
「えぇぇぇぇ?!更にパワーアップ?!しかもやっぱり魔獣?!」
猪魔獣は前足の蹄で、地面を数度蹴ると、弾丸のような勢いで僕にめがけて突進してくる。僕と猪魔獣の間には幾つもの木が乱立しているのに、全く気にせずそれらをなぎ倒しながら一瞬で距離を詰めてくる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっっ!死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅぅぅ!!」
僕は猪魔獣から逃げるように一目散にダッシュする。それでも追いつかれそうになったので、ギリギリまで引きつけて、横っ飛びで藪の中に突っ込んで回避する。
間一髪、致死性の突進を回避した僕は、すぐに藪の中から立ち上がって、猪魔獣の挙動を確認する。あんな質量にぶつかられたら、一発であの世行きは確定だ。この体格と身体を覆う魔素の量、更に魔素を放出してパワーアップした所を見ると、ここいらを縄張りにしている領域主ではないだろうか。
ブモッ!ブモッ!ブモモモモッ!
ブモッ!ブモッ!ブモモモモッ!!
ブモッ!ブモッ!ブモモモモッ!!!
ブモッ!ブモッ!ブモモモモッ!!!!
ブモッ!ブモッ!ブモモモモッ!!!!!
「え?チョット待って?冗談でしょ?!」
領域主っぽいの1頭だけで100回死んでもお釣りが出そうなのに、更にコレですか?!
そこら中から、猪型の魔獣がヒョコッ!ヒョコッ!と顔を出す。その数なんと10……20……30……いっぱい……
さっきの雄叫びは仲間を呼ぶ合図でもあったようで、領域主の配下の猪魔獣が僕を取り囲むように、集まってきた。
「お、終わった……短いようで短かった人生だ……」
それすなわち短い人生以外の何物でもないが、僕は華麗にorzの体勢をとって項垂れる。
ブモッ!ブモッ!ブモモモモッ!
鼻息も荒く、猪魔獣の群れは少しずつ、こっちに近づいてきて範囲網を狭めてくる。
ピィィィッッッ!!
僕が絶望で項垂れていると、頭上で鋭い鳥の鳴き声が響く。その空気を劈くような鳴き声に、僕も猪魔獣も空を見上げる。
そこには綺麗な紅玉珠色をした小鳥が僕の頭上を旋回していた。
ワォッ!ワォォォォーンッ!!
猪魔獣と僕が上空に気を取られた一瞬の隙だった。猪魔獣の包囲網の外から、僕に向かって碧玉珠色の疾風が駆け抜けてくる。
碧玉珠色の疾風の進路にいた猪魔獣は宙に打ち上げられ、進路横にいた猪魔獣は血飛沫を舞い上がらせながら吹っ飛ばされる。
ピィィィッッッ!!
上空の紅玉珠色の小鳥も、もう一鳴きして翼を大きくはためかせると、領域主に向かって物凄い勢いで急降下する。
グモォォォォッッッ!!
急降下の一撃は、とっさの判断ができていない領域主に狙い違わず命中し、急所である右目を抉る。流石の領域主も、それにはたまらず絶叫を上げる。
「ファング!ビーク!」
僕は救出に来てくれた二匹に向けて歓喜の声を上げる。碧玉珠《エメラルド》色の50cmくらいの小狼がファング。10cm程度の紅玉珠色の燕がビークだ。
「もたもたするんじゃないのです!すぐにこっちに阿呆面していないで、とっととこっちに来るのです!」
碧玉珠《エメラルド》色の小狼のファングが作ってくれた道の奥から、失礼な物言いの女性の声が響く。僕はハッと顔を上げて周りを確認する。
予想外の増援に猪魔獣たちは戸惑い呆然としている。領域主も右目の痛みで血を撒き散らしながら暴れていて、僕への関心が薄れている。
僕は声の指示の通りに、小狼のファングが駆け抜けて作ってくれた道を走り、猪魔獣の包囲網を抜ける。
ブグッ!ブググッ!ブグモォォォォッッッ!!
何とか包囲網から出れた瞬間、領域主の怒りの雄叫びが木々や草花を揺らすほどの大音量で響く。それにより正気に戻った猪魔獣たちの視線が一気に僕の方に向く。
「今の隙にさっさと逃げるのです!」
さっきの失礼な物言いの声で再度指示があり、僕はファングとビークを引き連れて走り出す。
「この先に崖があるから、そこで迎え撃つ!です!」
「それって背水の陣じゃ?!」
「見通しの悪い森で包囲されるよりマシです!」
「わ、わかったよ!」
声に従って僕は走り出す。最初に領域主に襲われた場所を走り抜けていくと、声に指示されたような崖に出る。垂直に切り立っているわけではなく、ソコだけややせり出した感じになっている。
僕とファングとビークは、指定された崖の端に辿り着くと、崖を背に振り向いて領域主と猪魔獣の群れを待ち受ける。
キラッ!
僕達が猪魔獣に対抗するために構えていると、太陽の光を一瞬だけ反射して、紫色の影が月面宙返りをクルクルと何回転もしながら、僕達の前にズドンと華麗に降り立つ。
「全く、ポメがいないと少しの間の留守番もマシにできないとは、本当に役立たずのトーヘンボクなのです!」
僕に背中を見せながら、自分のことをポメと呼んだ、僕よりチョット小さい濃紫色の服を着て頭にはひらひらがついたカチューシャを付けた幼女?がやけに汚い言葉を吐いてくる。どう見ても頭が大きくて2.5頭身しかないのに、変に違和感を感じないのが不思議だ。そして取ってつけたような丁寧語の語尾がとても微妙すぎる。
ポメはベロア調の濃紫色のワンピースに真っ白なエプロンをかけている、いわゆるメイド服とよばれる服を着ている。そしてちらりとこちらの様子を伺って言い放つ。汚い言葉を吐きまくっている割には、非常に整っていて可愛い横顔だ。2.5頭身だけど。
「怪我はないようで何よりなのです」
ポメは可愛い顔と暴言にギャップが有りまくりだけど、安心した表情を見せているところを見ると心配してくれていたのだろう。
「というか、どうしてこういう状況になったのか、説明して貰いたいのです!」
「え、えーっと」
僕はポメに迫られて、こうなった経緯を思い出しながら話す。
…………
「あー、暇だなぁ」
僕はそう言いながら、倒木に腰掛けての休憩中に、憂さ晴らしついでに、何気なく足元の小石を拾って、数10m先にある巨石に軽く投石した。
その小石は放物線を描くどころか空気を裂きながら弾丸のように飛翔し、巨石を真っ二つに割る。そして割れた巨石の片割れが、すぐ横にあった大木をシーソーのように跳ね上げ、逆の端に引っかかっていた大きな木の実をテコの原理で弾き飛ばす。
大きな木の実は、華麗に飛翔し二本の栗の木の間を左右に跳ねるように、栗の木を大きく揺らしながら落ちると、遅れて栗の木から大量のイガグリが落下する。
イガグリは栗の木で休んでいた臭鼬の上に落ちると、棘が臭鼬に痛々しく刺さる。そして痛吃驚した臭鼬が、自衛のための強烈な放屁を放つ。
その悪臭は周辺の薮一帯に潜んでいた兎をびっくりさせ、兎はまさに脱兎のごとく逃げていく。そしてその兎を狙っていた猪魔獣が急に獲物がいなくなったことに腹を立て、その原因たる僕に目をつけた猪魔獣が追いかけてくることになったのである。
「どんなピタ○ラスイッチだよ!!」
説明しながら僕は、思わずツッコミを入れてしまう。
「そのピタゴ○スイッチとやらは知りませんが、やっぱり御主人様はアホウ!です!」
僕の説明を聞いたポメは、やや冷めた目で僕を見下しながら言い切る。
「い、いや、僕だってわかってるよ……」
何気なく投げた小石が原因だということも、その小石が巨岩を割る程の威力を持つことも。
そんな話をしていると、悠然と領域主と猪魔獣の集団が森の中から出てくる。先程確認したより数が増えており、おそらく50頭以上いるだろう。
「いや、さっきのはただの事故だよ。僕に悪気はなかった。うん」
集団の戦闘にいた領域主にそう呼びかけるが、当然のことながら領域主は聞く耳を持っていないようで、鼻息を荒くしながら左目を真っ赤に輝かせている。というか僕の言葉が通じているか微妙だ。
ブモッ!ブモッ!ブモモモモモッッッ!!!
そして大きく地面を蹴ると、猛烈な勢いで僕めがけて突進してくる。そして後ろにいた猪魔獣の集団も一緒に突撃してくる。僕達の後ろは崖。そしてその崖の高さは500m以上はありそうだ。すなわち、落ちたら死ねる。
「いやっ!ちょっ!やばいって!!」
僕は突き出した両手に力を込める。すると突き出した両手の前に緑色で円形の不思議な文様が描かれていく。
「あーっ!やばい!!しくったぁぁぁぁぁっっ!!」
緑色の円形の文様は回転しながら、どんどんと円の外周部に不可思議な文様の帯を追加していき、僕の全身よりも大きな巨大な文様を作り上げていく。そしてそれが分裂するように9つに複製されて中空に展開される。
そんな異様な光景にも関わらず、怒り心頭の領域主は突っ込んでくる。
「いやっ!ちょっ!おまっ!!」
僕が反射的にソレを放とうとした瞬間、ポメが一瞬で領域主の右手側の死角に現れると、いつの間にか取り出していたボロ布に包まれた2m強もある巨大で無骨な棒状の物体を叩きつける。
ドゴアァァァァッッ!!
領域主は、魔素を放出し続けることで衝撃を吸収する魔法障壁のようなものを展開していたようだ。ポメの相当な衝撃を持っていそうな一撃を受けて、吹っ飛ばされはしたものの、全く傷は負っていないように見える。
「今です!ぶっ放しやがれ!です!」
ポメの指示を受けて、僕は僕の身長より巨大な10個に増えた文様を起動させる。
「風の刃!」
僕は初級の風属性攻撃魔法を発動させる。これは10cm程度の三日月型の真空の刃を1つ発生させ、対象に向かって飛ばす魔法だ。コレ一つで人間の腕1本を切断する程度の威力しかないので、金属製の盾や魔素による魔法障壁を展開していれば、ほとんど効果がなくなってしまう。
しかし、僕が発動させた風の刃は100cm程の巨大な三日月型の真空の刃を魔法陣一つに対して100本ずつ、合計1000本ほど発生させる。
そして解き放たれた真空の刃は、弾幕のように次々と発射され猪魔獣の群れに襲いかかる。
100cmもの長さがあれば、通常サイズの猪魔獣など一刀両断だ。領域主ですら、全身をズタズタに切り裂かれ血煙を上げる。
そしてそんな強力な真空の刃が猪魔獣一体を倒したからって消えるわけもなく、凄い勢いで木々を切り刻んでいく。
「あ……コレはやばい」
真空の刃は止まることなく進行方向にある全ての存在を切り刻みながら直進する。そして幅50m、長さ数kmにも渡る伐採された道が出来上がってしまう。当然、その進路にいたすべての生物を切り刻んで……
「これは……上級魔法風絶斬並の効果になっちゃってるです。普通は魔術士数人で発動させる儀式魔法のはずですが。それを本来の風絶斬とは違って初級魔法で同等の威力とは、相変わらずの無茶苦茶ぶりです」
ポメが淡々と状況を説明する。
「しっかし、相変わらずなトンデモ威力の魔法を使いやがって、巻き込まれたらどうするつもりだ!このガキ!です」
「ちょっと慌てちゃったんで、通常の威力で撃っちゃった。テヘペロ♪」
「何がテヘペロ♪だ!このトーヘンボク!です」
僕は可愛く舌を出して誤魔化そうとしたが、ポメは容赦無用に罵詈雑言を浴びさせてくる。
「相変わらず発言が酷いよね、ポメは」
「御主人様が、非常識なアンポンタンなだけなのです!」
クゥーン……
ピピィ……
そのやり取りを見ていたファングとビークも少し寂しそうな鳴き声を上げて、哀れそうな目で僕を見る。
「ファングとビークもありがとね。ってかそんな哀れな目で見ないで……」
僕は2匹にそう懇願しながら、領域主《エリアボス》と猪魔獣の群れを殲滅した上級魔法風絶斬を眺める。
あー、うん。凄まじい威力だったよね。この威力だったら、地形にもかなり影響与えるよね。
「あ……」
そうつぶやくと同時に、僕達が乗っていたせり出した部分の崖の部分にピシッと亀裂が入る。そして、その亀裂はあっという間に伸びていき、ガゴッという音とともに大地から切断される。そうすると、突起部分に乗っていた僕達は落ちるしかない訳で……
「うわぁぁぁぁぁぁっっ!!」
と僕達は崖下に投げ出されるのであった。
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地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
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ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
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──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
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だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
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【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
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