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Side Episode 01 グレンの大冒険
第08話(過去の妄執)
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「なっ!」
一難去ってまた一難。突然告げられた言葉に振り向く。
「な、何故?!……爺?!」
フラン姫が肩を掴まれ喉元に爪を突き付けられながら、目だけ動かして原因を捉えると、それは長年付き添ってくれていたジェームズだった。
「長かったですよ……ベルジュ家を滅ぼす為に、自分を殺し、忸怩たる思いで仕えていた期間は」
ジェームズが遠い目をしながら話し始める。
「ジジィ!お前、俺の嫁に!!」
「おっと、動かないでください。グレン様が動くのと、私の爪がグレン姫の喉元を切り裂くのと、どちらが早いと思いますか?あぁ、周りの方々も同様ですよ?」
ジェームズが鋭い目で周りを制す。
「私の国、モリアーティランドがフラン姫の父である国王に滅ぼされた後、身分を隠してベルジュ王国に入り込み、怨敵である国王の評価を上げるのに腐心する日々……」
「なぁ、ロンスロット。悪役ってなんでこう、いきなり身の上話を語り始めるんだ?」
「グレン様。私はランスロットです。って何度言えばわかってくれるんですか。で、身の上話の件ですが、今まで誰も聞いてくれないで苦労していたことだから、誰かに聞いてもらって承認欲求を満たしたいんじゃないですかね?」
「ふーん。承認欲求ね。俺にはそんなのないけどな」
「グレン様みたいな無頓着で向こう見ずで行き当たりばったりな猪突猛進タイプはそんな悩みを抱えません」
「……そんなに褒めるなよ」
「おい、そこ!ちゃんと話を聞かんか!!これだから最近の若いもんは……ブツブツ」
急に身の上話を始めたジェームズを無視して、俺がランスロットと話していると、ジェームズが小うるさくて頭の固いジジィのような発言をする。
「慣れない執事のような仕事を、プライドを捻じ曲げて教えを請いながら学んだり、元々身体を動かすのが得意じゃなかったが、護衛をするのには必要と、嫌々身体を鍛えたり、教育係には教養が必要と、様々な王族の立ち振る舞いを覚えさせられたり、それはもう艱難辛苦な時間であった!!」
俺たちが少し黙ると、拳を握り、ぶんぶんと振りながら熱弁する。
「なんか嫌々そうに言ってますが、ずいぶんと丁寧に教育を受けていたみたいですね」
「俺はそれが嫌で飛び出したけどな」
またすぐに突っ込みを入れ始めるランスロットとそれに答える俺。
「王族って言うのはそれはそれで大変なんスね。自分は生まれた時から食べるのに必死だったっス」
ジェームズの話を真面目に聞いていたコジューローも話に加わる。
「これがまた、めんどくせーのよ。しきたりっつーのは」
「グレン様のは、ただの我儘でしたけどね」
昔を思い出し苦虫を噛み潰したような顔をする俺と、同じように昔を思い出しヤレヤレといった仕草をするランスロット。
「おい!だから儂の話を聞かんか!!姫の命を握られているのを少しは自覚せんか!!」
注意されていたにもかかわらず、再度、内輪話を始めた俺らにジェームズが怒りを顕にする。
「だってさぁ……」
「ねぇ……?」
俺とランスロットはジェームズに憐みの目を向ける。
「えぇぃ!兎に角、その後はフラン姫を一流の姫に育てるために、学術、武術、教養をわかりやすいように丁寧に教え!少しずつ成長する姿に喜びを感じ!まるで我が娘かの様に慈しみながら育て!今回のような危機には自らが盾となり、姫を守ることを我が使命としたのだ!!」
「ふつーに良い関係じゃねぇの?」
「従者の鑑っスね」
恨みつらみのように語っているが、面倒見の良い従者としか思えない。オサムネとコジューローも同意見の様だ。
「そして復讐も忘れ、フラン姫を一流の姫に育て上げ、そして幸せな婚姻を結ばせる!私のその使命を邪魔はさせん!!」
指名に燃えてこぶしを突き上げるジェームズ。
「邪魔してないじゃん」
「もうベルジュ王国を滅ぼす為の復讐も忘れてって自分で言っちゃってますよ……」
もうね、何をしたいんだろうこのジジィは……
「もう後戻りは出来んのだ!ベルジュ王国の近隣を支配する同族のゴーマンに。情報を与えるために、賄賂をもらう兵士を見て見ぬ振りをしたり!ゴーマンの危機感を煽る為に近くに住んでいた呪怨の住処を教えたり!攻め込む理由を与えるために食料の採取率を上げる試みをしたり!復讐のために数々の罪を犯してきたのだ!!今さらこの罪は償えんのだ!!」
眉間にしわを寄せながら悔恨の表情で独白するジェームズ。
「ん?それって悪い事なのか?」
「いや、所詮情報なんて漏れるものだから、兵士一人ひとりのモチベーションを上げるために、あまり口うるさいことを言わないのは得策ですし、いきなり呪怨が襲ってきた時に壊滅しない為に、隣国にも警戒してもらうのは得策ですし、食料の採取率を上げるのもただの得策です」
「だよなぁ」
ジェームズが数々の罪を暴露するが……なんだかなぁ……
「爺!やめてっ!爺は、いつも私の事を気にかけて成長を喜んでくれた、かけがいのない大事な存在なのっ!!」
「フラン姫。私はただの復讐鬼!ベルジュ王国を滅亡へと追いやった許しようのない罪人なのです!だから、最後に貴方の命を奪って終わりにしたいと思うのです」
「爺……そんなに思い詰めてたのね……でも、爺はもう寄る年波で爪はボロボロになってしまって、葉っぱすら切れないって嘆いていなかったっけ?」
「……」
「……」
「……」
「……てへっ☆」
「だらっしゃぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
テヘペロしたジェームズの顔面に俺の蹴りがめり込むと、弧を描きながら藪の中に吹っ飛んでいくのだった……
「結局アイツ何がしたかったんだ?」
「……話を聞いてもらいたかったんじゃないですか?」
「はた迷惑な奴っスね」
「爺……」
一難去ったまた一難が、難でも何でも無かったのだった。
「難でも何でも無かったのだった!!」
「はいはい……」
「……韻を踏むたびにドヤ顔しないで下さい」
俺の会心の笑みはフラン姫とランスロットにスルーされたのだった。
一難去ってまた一難。突然告げられた言葉に振り向く。
「な、何故?!……爺?!」
フラン姫が肩を掴まれ喉元に爪を突き付けられながら、目だけ動かして原因を捉えると、それは長年付き添ってくれていたジェームズだった。
「長かったですよ……ベルジュ家を滅ぼす為に、自分を殺し、忸怩たる思いで仕えていた期間は」
ジェームズが遠い目をしながら話し始める。
「ジジィ!お前、俺の嫁に!!」
「おっと、動かないでください。グレン様が動くのと、私の爪がグレン姫の喉元を切り裂くのと、どちらが早いと思いますか?あぁ、周りの方々も同様ですよ?」
ジェームズが鋭い目で周りを制す。
「私の国、モリアーティランドがフラン姫の父である国王に滅ぼされた後、身分を隠してベルジュ王国に入り込み、怨敵である国王の評価を上げるのに腐心する日々……」
「なぁ、ロンスロット。悪役ってなんでこう、いきなり身の上話を語り始めるんだ?」
「グレン様。私はランスロットです。って何度言えばわかってくれるんですか。で、身の上話の件ですが、今まで誰も聞いてくれないで苦労していたことだから、誰かに聞いてもらって承認欲求を満たしたいんじゃないですかね?」
「ふーん。承認欲求ね。俺にはそんなのないけどな」
「グレン様みたいな無頓着で向こう見ずで行き当たりばったりな猪突猛進タイプはそんな悩みを抱えません」
「……そんなに褒めるなよ」
「おい、そこ!ちゃんと話を聞かんか!!これだから最近の若いもんは……ブツブツ」
急に身の上話を始めたジェームズを無視して、俺がランスロットと話していると、ジェームズが小うるさくて頭の固いジジィのような発言をする。
「慣れない執事のような仕事を、プライドを捻じ曲げて教えを請いながら学んだり、元々身体を動かすのが得意じゃなかったが、護衛をするのには必要と、嫌々身体を鍛えたり、教育係には教養が必要と、様々な王族の立ち振る舞いを覚えさせられたり、それはもう艱難辛苦な時間であった!!」
俺たちが少し黙ると、拳を握り、ぶんぶんと振りながら熱弁する。
「なんか嫌々そうに言ってますが、ずいぶんと丁寧に教育を受けていたみたいですね」
「俺はそれが嫌で飛び出したけどな」
またすぐに突っ込みを入れ始めるランスロットとそれに答える俺。
「王族って言うのはそれはそれで大変なんスね。自分は生まれた時から食べるのに必死だったっス」
ジェームズの話を真面目に聞いていたコジューローも話に加わる。
「これがまた、めんどくせーのよ。しきたりっつーのは」
「グレン様のは、ただの我儘でしたけどね」
昔を思い出し苦虫を噛み潰したような顔をする俺と、同じように昔を思い出しヤレヤレといった仕草をするランスロット。
「おい!だから儂の話を聞かんか!!姫の命を握られているのを少しは自覚せんか!!」
注意されていたにもかかわらず、再度、内輪話を始めた俺らにジェームズが怒りを顕にする。
「だってさぁ……」
「ねぇ……?」
俺とランスロットはジェームズに憐みの目を向ける。
「えぇぃ!兎に角、その後はフラン姫を一流の姫に育てるために、学術、武術、教養をわかりやすいように丁寧に教え!少しずつ成長する姿に喜びを感じ!まるで我が娘かの様に慈しみながら育て!今回のような危機には自らが盾となり、姫を守ることを我が使命としたのだ!!」
「ふつーに良い関係じゃねぇの?」
「従者の鑑っスね」
恨みつらみのように語っているが、面倒見の良い従者としか思えない。オサムネとコジューローも同意見の様だ。
「そして復讐も忘れ、フラン姫を一流の姫に育て上げ、そして幸せな婚姻を結ばせる!私のその使命を邪魔はさせん!!」
指名に燃えてこぶしを突き上げるジェームズ。
「邪魔してないじゃん」
「もうベルジュ王国を滅ぼす為の復讐も忘れてって自分で言っちゃってますよ……」
もうね、何をしたいんだろうこのジジィは……
「もう後戻りは出来んのだ!ベルジュ王国の近隣を支配する同族のゴーマンに。情報を与えるために、賄賂をもらう兵士を見て見ぬ振りをしたり!ゴーマンの危機感を煽る為に近くに住んでいた呪怨の住処を教えたり!攻め込む理由を与えるために食料の採取率を上げる試みをしたり!復讐のために数々の罪を犯してきたのだ!!今さらこの罪は償えんのだ!!」
眉間にしわを寄せながら悔恨の表情で独白するジェームズ。
「ん?それって悪い事なのか?」
「いや、所詮情報なんて漏れるものだから、兵士一人ひとりのモチベーションを上げるために、あまり口うるさいことを言わないのは得策ですし、いきなり呪怨が襲ってきた時に壊滅しない為に、隣国にも警戒してもらうのは得策ですし、食料の採取率を上げるのもただの得策です」
「だよなぁ」
ジェームズが数々の罪を暴露するが……なんだかなぁ……
「爺!やめてっ!爺は、いつも私の事を気にかけて成長を喜んでくれた、かけがいのない大事な存在なのっ!!」
「フラン姫。私はただの復讐鬼!ベルジュ王国を滅亡へと追いやった許しようのない罪人なのです!だから、最後に貴方の命を奪って終わりにしたいと思うのです」
「爺……そんなに思い詰めてたのね……でも、爺はもう寄る年波で爪はボロボロになってしまって、葉っぱすら切れないって嘆いていなかったっけ?」
「……」
「……」
「……」
「……てへっ☆」
「だらっしゃぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
テヘペロしたジェームズの顔面に俺の蹴りがめり込むと、弧を描きながら藪の中に吹っ飛んでいくのだった……
「結局アイツ何がしたかったんだ?」
「……話を聞いてもらいたかったんじゃないですか?」
「はた迷惑な奴っスね」
「爺……」
一難去ったまた一難が、難でも何でも無かったのだった。
「難でも何でも無かったのだった!!」
「はいはい……」
「……韻を踏むたびにドヤ顔しないで下さい」
俺の会心の笑みはフラン姫とランスロットにスルーされたのだった。
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