聖域で狩られた教師 和彦の場合

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ホームルームの開始

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シンとした教室の空気に和彦は気圧されている。

教室の前方の扉を開けたまま立ち竦んでいる。

机を椅子を反対にし、教壇に背を向け、無言で座る生徒達。

その圧迫感。

和彦に対する悪意が伝わる。

無礼きわまりない態度である。

教師として、生徒を叱りつけるべきか?

バカな真似は止せ、ホームルームの時間だっ、さっさと前を向けっ!

そう言うべきなのかもしれない。

だが、それは上から目線だ。

生徒と同じ目線で自分も成長したいという和彦の理念に反する。

和彦の足が震え出す。

教室から逃げ帰りたい、、、

正直な気持ちだ。

だが、それは職場放棄でもある。

そして、何の解決にもならない。

和彦は、くらくらしながら足を踏み出した。

教壇に登り、教卓に向かい、後ろ姿の生徒達を見る。

顔が強ばっている。

「みんな」

彼を拒否する態度を取る生徒に呼びかけた。

「みんなが俺に対して不満を持っていることは分かった。確かに、教師として経験不足の人間だ。至らなかったこともたくさんあるだろう。すまん。それは、謝る。しかし、これはないだろう。背中を向けられてしまったら話も出来ない」

自身を落ち着けるように一言一言、ゆっくりと言う。

誠実な言葉だ。

本心でもある。

だが、誰も何も言わない。

生徒達は微動だにせず、背筋を伸ばし、教卓とは反対側を向いている。

徹底して無視する気のようだ。

和彦の言葉が空しく宙に消えた気がする。

和彦の顔が震えた。

声が掠れる。

「俺に対する不満を言ってくれ。みんなが思っていることを忌憚なく話してくれ。なんでも聞く。悪いところは直す。黙っていられちゃ判らない。お互いに、腹を割って話し合おう。このクラスを良くするために話し合おうっ!」

静寂。

「答えてくれ。何が悪いか言ってくれ。こっちを向いてくれっ」

「・・・・・・・・・」

和彦は、もうどうして良いか分からない。

その時、ふと、彼が教職を目指すキッカケとなった先輩が爽やかな目で言った言葉を思い出す。

“杉山君、僕は偉い人間じゃない。だから、常に生徒達とは裸の付き合いをしたいと思っているんだ”

対等に生徒達と臨むという先輩、体育教師として2年目を迎え充実した表情の来生純一の言葉。

大学生の和彦は、大きく感銘を浮けた。

その言葉、、、

和彦は、声を大きくして、生徒達に心が伝わるように真摯な声で言う。

「みんな、頼むッ、聞いてくれ。俺はお前達と裸の付き合いがしたいんだっ!本気で、君達と、クラスのみんなと裸でぶつかり合いと思っているんだっ!」

感情が高ぶり、和彦は、教卓をドンッと叩いてしまう。

必死の叫び。

こ、これだけ言っても伝わらないのか、、、

和彦が絶望にくじけそうになった時、、、

すっと立ち上がり振り返る生徒がいた。

クラス委員の結城だ。

挑むように和彦の目を見る。

和彦も、心が折れそうになるのを堪えながら、その鋭い視線を受け止める。

目と目を合わせることで、少しでも自分自身の誠意を伝えたいと真摯に見つめる。

「杉山先生、今の言葉は本当ですか?」

かつては、和彦をカズ先生と呼んで兄のように慕ってきていた生徒。

それが、杉山先生とよそよそしく呼びかけている。

それに胸が痛んだが、ようやく反応が返ってくれたのは嬉しかった。

「ああ、本当だ。信じてくれ」

切迫していた和彦の声に少し余裕が戻る。

「先生を信頼してもいいんですか?」

教師と生徒の立場が逆転した詰問口調だったが、和彦は必死で答えた。

「もちろんだ。何でも言ってくれ」

会話の糸口が掴めた。

和彦は、そこにすがり付こうとした。

「そこまでおっしゃるんなら、今の言葉が本当だということを見せてください」

「・・・?」

今の言葉?

見せる?

い、いったい何を見せれば良いんだ?

和彦は、混乱する。

即答しなければと思うが、結城の真意が判らず答えることが出来ない。

結城は微かに唇の端を上げ、冷たく言う。

「今、僕たちと裸の付き合いがしたい、裸でぶつかり合いたいと仰ってましたね」

「あ、あぁ、言った」

「上っ面の言葉なら、なんでも言えますよね、、、」

お、俺は、ここまで信じられていなかったのか。

信頼が失われたのなら、取り戻さないと。

和彦は、思う。

「本心から言っている。俺は、お前達と、本当に裸の付き合いがしたいんだ。本当に、クラスのみんなと裸でぶつかり合いたいんだっ。信じてくれ。俺を信じてくれっ!」

うわずった声でほとばしる気持ちを抑えられないように和彦は言う。

真剣だ。

必死だ。

それに、結城は落ち着いた声でこたえた。

「本当ですか?先生の言葉を本当に信じて良いんですか?」

「あぁ、信じてくれっ!」

「ならば、その言葉が本当だというところを見せてください。僕達と裸の付き合いがしたいというのなら、本当に裸になってみせてください」

「な、なにっ」

あまりの言葉に体が凍りつく。

「先生の言葉は、結局その程度のものなんでしょう。口先では何でもいえます。教師はみんなそう。もし信じろと言うなら、信じることが出来ると態度で示してくださいっ!」

和彦は呆然としながら結城の言葉を聞いている。

「僕達は押し付けられた窮屈な制服を着ているのに、先生は気楽なジャージ姿。そして、偉そうに教壇の上から見下ろしてる。僕たちと、本当に腹を割って話したいなら、まずはその証拠を見せてください」

結城は挑むような目で和彦を見ている。

ジャージ姿は体育教師の制服と言ってよい。

特に、今は授業と授業の間の時間だ。スーツに着替える時間もない。

気楽と言われる筋合いはない。

結城の暴論だ。

言いがかりに近い。

しかし、冷静さを失いかけている和彦はそこまで頭が回らなかった。

「・・・・」

馬鹿なこと言うなっと切り捨てれば済むことだったが、和彦は答えられない。

生徒の信頼を取り戻すのにはどうすれば良いか分からず混乱が増す。

裸の付き合いというのはあくまでも比喩だ。

だが、経験の浅さと彼の真面目さが災いした。

「杉山先生は、やっぱり口先だけの人だったんですね。そんな口先だけの先生、信頼できるわけないでしょう」

畳み込むように結城が言う。

孤立無援に追い込まれた自分。

それを打開したい精神状態の不安定さも手伝った。

しばらくの沈黙の後、意を決したように和彦は言った。

「脱げば話を聞いてくれるんだな」

一瞬、驚いた顔を見せ結城は答えた。

「先生が、それだけの覚悟なら、僕達は聞きます。本当に脱ぎますか?」

「ああ」

低く、絞り出すような声で和彦は答えた。

一本気な彼は人間関係を単純に考えすぎ、生徒達の心の複雑さを理解していなかった。

生徒達の態度の裏に仕組まれた悪意があった。

そんなことには気付かず、自ら罠に嵌っていった。。。

「本当に、裸になってくれるんですね。それじゃ、みんな前を向け。杉山先生が、本当に信頼できる先生かどうか確かめよう」

もう、後戻りは出来なかった。


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