【完結】1000年後に目覚めた転生勇者が、もふもふ毛玉になって少年と旅をするお話

すくらった

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2.父と母とトレセルと

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ヴィーノがいじめっ子3人を撃退したという話は、光の速さで村を駆け回った。

「これでもう、お前をいじめるやつなんていないぜ」
毛玉トレセルは自信満々に宣言し、ヴィーノもそれに応えてニッコリと笑った。

だがその夜、父母と3人で夕食をとっていると、不意に父親がフォークとナイフを置いた。どうやらトレセルは、ヴィーノ以外には見えないらしい。ふわふわ浮いている毛玉を、両親は気にする様子は見せなかった。

「ヴィーノ」
厳かに父親が言う。
「今日、お前が村の子どもたちに暴力を振るったという話が聞こえてきたが、本当かね」

ヴィーノは言った。
「うん、もう僕にちょっかいをかけてくるやつなんていないと思う。だからこれからは安心して……」

「……ついてきなさい」
父親はそれだけ言うと、母親と席をたって、家を出ていった。

「父さん?母さん?」
ヴィーノは慌てて後を追う。
トレセルもふわりと従う。
松明だけが夜道を照らす中、3人が到着したのは街の教会だった。

両親に続いてヴィーノとトレセルは中に入る。外に誰かいたのか、重々しい石の扉が勝手に閉まる。

「父さん?母さん?こんなところで何を」

「神父様、お願いします」
奥の部屋から出てきたのは、いつも休みの日に教会でお話をしてくれる、年老いた神父だった。

「神父様……?」
「ヴィーノくん、大変だったね。でももう大丈夫」
老人はにこりと微笑み、何かを小声でつぶやき出した。

その途端、神父から発せられた聖なる波動がトレセルに襲いかかり、彼を吹き飛ばした。
(うぐおおっ!)
(トレセル?!)
ヴィーノにはその言葉はなんともない。だが霊的存在となったトレセルに対しては、それは自らを消滅させる神聖なる祈祷なのだった。
「お前のような軟弱者がいじめっ子にやり返せるはずがない。お前は悪魔に取り憑かれたのだ、ヴィーノ。悪魔に隙を見せるとは愚か者め!」
父親が断言する。
「ヴィーノちゃんが暴力騒ぎを起こすなんて、嘘よね。そう、とりつかれたのよあなたは」
母親が涙ぐみながら訴える。

(トレセル!トレセル!)
(へへ、転生したのは今回で2回目だが、肉体なしで受ける神聖魔法がこんなにキツイなんてな……ああ……なんかもう気持ちええ……どうでもええわ……)

(トレセル!)
ヴィーノは腕輪を外して放り投げた。金属音が石床に当たり、甲高い音を立てる。
「トレセル!僕の中に飛び込んでこい!」
「トレセル?その悪魔は1000年前の勇者の名を騙っているのか!冒涜者め!」
父親が叫ぶ。
「神父様、これ以上村の騒ぎになる前に鎮めてください!」
母親が哀願する。
「トレセル!」
(もう、どうなっても知らねぇぞ!)
勇者トレセルはヴィーノの中に飛び込む。
茶色の目がみるみる間に紅く染まり、黒髪が白く変色していく。

「ああ……」
「なんてこと……」
父母が絶望の声をあげる。

「はぁ。肉体ってのはありがてぇなぁ。あんなにウザかった波動がピタッと効かなくなったぜ」

(さて、といっても、この後ヴィーノの生活をきちんと元に戻せるように始末をつけるのは……なかなか難しいな)
(いいよ、トレセル)
頭の中からヴィーノの声がする。
(もう、僕は村を出ていくから)
(そんな、考え直せ。俺が言うのもなんだが……)
(いいから!)
ヴィーノの声が心で叫ぶ。
同時にトレセルの心に、ヴィーノの記憶が伝わってくる。

自分の息子を軟弱だと見下し、「子育てに失敗した」と周囲に吹聴する父親。

いじめっ子に何をされても、「騒ぎにしないように」とだけ言い、ひたすら耐えるようにと言ってくる、世間体しか考えていない母親。

そしてそんな両親に対して、何も言えないし何もできない自分。

そういうことか。

トレセルはギリっと奥歯を噛んだ。

「ヴィーノ」
トレセルが話しかける。
「俺と、行くか」
(……うん)

「そうと決まれば!」
トレセルは拳を握る。
風が渦を巻いて拳に集まってくる。
「エンチャント!ウィンド・ブロー!」
少年の腕から発生した竜巻が、神父を直撃する。
「ぎゃあ!」
(できるだけ傷つけないで!)
「分かってるよ!」

勇者、いや、大賢者は吹き飛ばした神父を風の膜で包み、落下のショックを和らげた。

「ヴィーノ、弱いからといって悪魔に力を借りるとは」
カチャ。
どこに隠し持っていたのか、
父親がショットガンを構えていた。
「てめぇ!自分の息子の体にマジかよ!」
「そんな失敗作、私の息子ではないわ!」
「貴様ぁ!それでも父親か!」
トレセルは腕から伸びる竜巻を鞭のようにしならせ、父親に直撃させる。
「ぐはぁ!」
父親が風の壁に包まれながら、教会の石壁に激突する。
「できるだけ弱めた!痛かったら悪ぃな!」

母親は震えながらナイフを持っていた。トレセルは指で風の弾を撃ち、ナイフをはじき飛ばした。

「ああ、村の騒ぎに……」
「まぁだそんなこと言ってんのか」
トレセルが、今度は風弾を母親の額に当てる。
母親は声もなく崩れ落ちた。

「さて、と」
三人が意識を失ったことを確認すると、トレセルは身体から抜け出た。ヴィーノが腕輪を拾い、装着する。
「これで、良かったのか?」
「……うん」

二人はそれ以上話すこともなく、教会を出た。

そして、身の回りのものを袋に詰めると、夜明けとともに村を出ていったのだった。
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