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2025年10月業務日誌
3.光がまぶしい
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朝のツルバ村は、秋の肌寒さに包まれていた。
役場の前の花壇には、小さな白い花が揺れている。
「今日も、書類よし。ノート……よし」
リーナは机の上の小さなノートを軽く叩いた。
すると、外からトタトタと足音が近づいてきた。
「リーナちゃん! ちょっと聞いてくれ!」
慌てた声で飛び込んできたのは、村の薬草屋、ベルンさんだった。
「どうしたんですか?」
「夜が……眩しいんだ」
「眩しい?」
「ほら、村じゅうが夜になっても真昼みたいに明るくてさ。眠れたもんじゃないよ」
リーナは首をかしげた。
夜が明るい?そんな話、聞いたことがない。少なくともわたしはぐっすり寝ていた。
「わかりました、確認してみますね」
夜。
リーナは懐中ランプを手に村の広場へ出た。
確かに、眩しい。
街灯も焚き火もないのに、あたりは淡い金色に照らされている。
屋根の上や樹の枝の間に、光の粒のようなものがふわふわと浮かんでいた。
「これ……何だろう?」
リーナはノートを開き、表紙の角でそっと空気を叩いた。
ぱらり、と一枚がめくれる。
〈魔力過剰〉
「魔力?」
そのとき、背後から声がした。
「リーナちゃん!」
振り向くと、鍛冶屋のヨハンが立っていた。
「夜でも作業ができるから助かってるんだが……目がチカチカする!」
リーナは腕を組み、少し考え込む。
「自然の光じゃない……たぶん、誰かが魔法を使ってる」
彼女は光の粒の流れを目で追った。
それは風に乗るように、森のほうへと漂っていく。
「行ってみましょう」
森の奥、苔むした祠の前で、小さな少年がうずくまっていた。
手のひらから、かすかな光があふれている。
「ルカ……どうしたの?」
村の子どもだった。
「……夜が暗いの、怖くて。みんなも怖いかな、明るくなったら、安心するかなって。村で一番暗い所を明るくしてたんだ」
リーナはそっとしゃがみ込み、ルカの手を包んだ。
「優しい魔法だね。でもね、光が多すぎると、他の人が眠れなくなっちゃうの」
ルカの瞳がうるむ。
「ごめんなさい……」
「ううん。謝ることないよ。気持ちはちゃんと届いたから」
リーナはノートの上に手をかざした。
すると、光の粒がゆっくりとノートへ吸い込まれていく。
まるで、夜の静けさを取り戻すように。
やがて村は、穏やかな闇に包まれた。
「さ、帰ろう」
リーナはルカと手をつないで、懐中電灯の明かりをつけて歩き出した。
翌朝。
「リーナちゃん、昨日はありがとな!」
ヨハンが笑いながら焼き芋を差し出す。
「い、いけません! こういうのは『利益供与』です!」
「そうか、残念だなぁ」
ヨハンは名残惜しそうに芋をしまい込む。
「うっ……」
「ちょいワル役人、だったよな?」
「……ちょいワル、ですから!」
リーナはにこっと笑って焼き芋を受け取った。
夕方。
役場の机の上で、ノートがまた静かに開く。
〈窓を開けて、光を見て〉
「……はい、ノートさん」
リーナは窓を開けて空を見上げた。
茜色の空の下、村の屋根から煙がゆるやかに立ちのぼる。
風鈴が、いちどだけやさしく鳴った。
役場の前の花壇には、小さな白い花が揺れている。
「今日も、書類よし。ノート……よし」
リーナは机の上の小さなノートを軽く叩いた。
すると、外からトタトタと足音が近づいてきた。
「リーナちゃん! ちょっと聞いてくれ!」
慌てた声で飛び込んできたのは、村の薬草屋、ベルンさんだった。
「どうしたんですか?」
「夜が……眩しいんだ」
「眩しい?」
「ほら、村じゅうが夜になっても真昼みたいに明るくてさ。眠れたもんじゃないよ」
リーナは首をかしげた。
夜が明るい?そんな話、聞いたことがない。少なくともわたしはぐっすり寝ていた。
「わかりました、確認してみますね」
夜。
リーナは懐中ランプを手に村の広場へ出た。
確かに、眩しい。
街灯も焚き火もないのに、あたりは淡い金色に照らされている。
屋根の上や樹の枝の間に、光の粒のようなものがふわふわと浮かんでいた。
「これ……何だろう?」
リーナはノートを開き、表紙の角でそっと空気を叩いた。
ぱらり、と一枚がめくれる。
〈魔力過剰〉
「魔力?」
そのとき、背後から声がした。
「リーナちゃん!」
振り向くと、鍛冶屋のヨハンが立っていた。
「夜でも作業ができるから助かってるんだが……目がチカチカする!」
リーナは腕を組み、少し考え込む。
「自然の光じゃない……たぶん、誰かが魔法を使ってる」
彼女は光の粒の流れを目で追った。
それは風に乗るように、森のほうへと漂っていく。
「行ってみましょう」
森の奥、苔むした祠の前で、小さな少年がうずくまっていた。
手のひらから、かすかな光があふれている。
「ルカ……どうしたの?」
村の子どもだった。
「……夜が暗いの、怖くて。みんなも怖いかな、明るくなったら、安心するかなって。村で一番暗い所を明るくしてたんだ」
リーナはそっとしゃがみ込み、ルカの手を包んだ。
「優しい魔法だね。でもね、光が多すぎると、他の人が眠れなくなっちゃうの」
ルカの瞳がうるむ。
「ごめんなさい……」
「ううん。謝ることないよ。気持ちはちゃんと届いたから」
リーナはノートの上に手をかざした。
すると、光の粒がゆっくりとノートへ吸い込まれていく。
まるで、夜の静けさを取り戻すように。
やがて村は、穏やかな闇に包まれた。
「さ、帰ろう」
リーナはルカと手をつないで、懐中電灯の明かりをつけて歩き出した。
翌朝。
「リーナちゃん、昨日はありがとな!」
ヨハンが笑いながら焼き芋を差し出す。
「い、いけません! こういうのは『利益供与』です!」
「そうか、残念だなぁ」
ヨハンは名残惜しそうに芋をしまい込む。
「うっ……」
「ちょいワル役人、だったよな?」
「……ちょいワル、ですから!」
リーナはにこっと笑って焼き芋を受け取った。
夕方。
役場の机の上で、ノートがまた静かに開く。
〈窓を開けて、光を見て〉
「……はい、ノートさん」
リーナは窓を開けて空を見上げた。
茜色の空の下、村の屋根から煙がゆるやかに立ちのぼる。
風鈴が、いちどだけやさしく鳴った。
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