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2025年10月業務日誌
9.畑仕事が進まない
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秋のツルバ村は、淡い橙色の光に包まれていた。
朝の霧はまだ畑の隅に残り、日差しがゆっくりと水滴をきらめかせる。落ち葉がそよ風に揺れ、カサカサと小さな音を立てて道に積もっていた。
役場の窓際で、リーナは机の上のノートを軽く叩いた。
「書類……よし。ノート……よし。気合も……まぁよし」
その時、ドアの向こうで重い足音がした。
「リーナちゃん、助けて……」
入ってきたのは農夫のジョン。背中を丸め、手に鎌を持っているが、どこか元気がない。
「どうしたんですか?」
「子どもたちに畑仕事を手伝ってもらってるんだが……昼寝ばかりしてて、作業進まないんだ。起こしてもすぐ寝るし、仕事がまったく進まない……」
ジョンは肩を落として、土のついた手を擦った。
リーナはうなずき、ノートを取り出す。角でそっとページを叩くと、ふわりと光が浮かび上がった。
──『昼寝過剰』。
文字は淡い青色で揺れ、周囲の空気までしばらく静まったように感じられる。
「昼寝が多すぎる……とは。確かに、収穫は大事ですけれど、昼寝も……いや、優先順位は仕事です」
リーナは少し眉をひそめ、真剣な顔でノートを抱えた。
まずは畑の現場へ向かう。秋の風が稲穂を揺らし、金色の葉が舞う。ところどころで、作物の間にうずくまる村の子供たちがいる。確かに、昼寝している子、腰を折ってうたた寝している子が目立つ。
リーナは深呼吸し、ノートの角で土にトントンと軽く叩いた。
「ふむ……光や水には問題がない。原因は、やはり子どもたちのやる気か……」
すると、ふわりと光がノートから漏れ、再び『昼寝過剰』が浮かび上がった。
リーナは策を練る。大声で起こすのは無粋だし、叱れば反発するだけ。そこで、彼女は小さな「昼寝妨害作戦」を立てた。
村のパン屋、トマスとジェーン夫婦に協力を依頼する。
パンの焼ける香ばしい匂いを畑まで運び、自然に目を覚まさせる作戦だ。
リーナがパンの小袋を持ち、畑のあちこちに置く。しばらくすると、寝ていた子どもたちの鼻がぴくりと動き、次第に目を覚まし始める。
「おお……パンの匂いだ!」
「甘い匂いがするぞ!」
「作業が終わったら、おいしいパンの時間だよ」
リーナは微笑んで呼びかける。
「よし、頑張るぞ!」
子どもたちは笑顔で作業を再開し、彼女はほっと胸を撫で下ろした。
畑の端で、ヨハンが木陰から見守っている。
「いい香り作戦だったな、リーナちゃん」
「はい……でも、効果は一時的かもしれません」
だがその日から、子どもたちは眠らないようになり、収穫作業に励むことができた。
リーナは心の中で小さくため息をつく。
──ちょいワル役人として、パンを少しだけ受け取るくらいは……
と、トマスが焼きたてのパンを手渡してきた。
「リーナちゃん、労働のご褒美だ」
「い、いけません! これは……規則的に禁止されています!」
それでも、リーナは手のひらでそっと受け取り、笑みをこぼした。
「……ちょいワル役人ですから」
夕方。役場の机の上で、ノートがまた静かに光る。
──『やる気過剰』。
リーナはページを見つめる。
「やる気もほどほどに……ですね」
外では、秋の風が落ち葉を揺らし、穏やかに村を包んでいた。
リーナは机に手を置き、小さく呟く。
「明日はもう少し、自然な昼寝の大切さを主張してみます」
風鈴がひとつ、やさしく鳴った。
朝の霧はまだ畑の隅に残り、日差しがゆっくりと水滴をきらめかせる。落ち葉がそよ風に揺れ、カサカサと小さな音を立てて道に積もっていた。
役場の窓際で、リーナは机の上のノートを軽く叩いた。
「書類……よし。ノート……よし。気合も……まぁよし」
その時、ドアの向こうで重い足音がした。
「リーナちゃん、助けて……」
入ってきたのは農夫のジョン。背中を丸め、手に鎌を持っているが、どこか元気がない。
「どうしたんですか?」
「子どもたちに畑仕事を手伝ってもらってるんだが……昼寝ばかりしてて、作業進まないんだ。起こしてもすぐ寝るし、仕事がまったく進まない……」
ジョンは肩を落として、土のついた手を擦った。
リーナはうなずき、ノートを取り出す。角でそっとページを叩くと、ふわりと光が浮かび上がった。
──『昼寝過剰』。
文字は淡い青色で揺れ、周囲の空気までしばらく静まったように感じられる。
「昼寝が多すぎる……とは。確かに、収穫は大事ですけれど、昼寝も……いや、優先順位は仕事です」
リーナは少し眉をひそめ、真剣な顔でノートを抱えた。
まずは畑の現場へ向かう。秋の風が稲穂を揺らし、金色の葉が舞う。ところどころで、作物の間にうずくまる村の子供たちがいる。確かに、昼寝している子、腰を折ってうたた寝している子が目立つ。
リーナは深呼吸し、ノートの角で土にトントンと軽く叩いた。
「ふむ……光や水には問題がない。原因は、やはり子どもたちのやる気か……」
すると、ふわりと光がノートから漏れ、再び『昼寝過剰』が浮かび上がった。
リーナは策を練る。大声で起こすのは無粋だし、叱れば反発するだけ。そこで、彼女は小さな「昼寝妨害作戦」を立てた。
村のパン屋、トマスとジェーン夫婦に協力を依頼する。
パンの焼ける香ばしい匂いを畑まで運び、自然に目を覚まさせる作戦だ。
リーナがパンの小袋を持ち、畑のあちこちに置く。しばらくすると、寝ていた子どもたちの鼻がぴくりと動き、次第に目を覚まし始める。
「おお……パンの匂いだ!」
「甘い匂いがするぞ!」
「作業が終わったら、おいしいパンの時間だよ」
リーナは微笑んで呼びかける。
「よし、頑張るぞ!」
子どもたちは笑顔で作業を再開し、彼女はほっと胸を撫で下ろした。
畑の端で、ヨハンが木陰から見守っている。
「いい香り作戦だったな、リーナちゃん」
「はい……でも、効果は一時的かもしれません」
だがその日から、子どもたちは眠らないようになり、収穫作業に励むことができた。
リーナは心の中で小さくため息をつく。
──ちょいワル役人として、パンを少しだけ受け取るくらいは……
と、トマスが焼きたてのパンを手渡してきた。
「リーナちゃん、労働のご褒美だ」
「い、いけません! これは……規則的に禁止されています!」
それでも、リーナは手のひらでそっと受け取り、笑みをこぼした。
「……ちょいワル役人ですから」
夕方。役場の机の上で、ノートがまた静かに光る。
──『やる気過剰』。
リーナはページを見つめる。
「やる気もほどほどに……ですね」
外では、秋の風が落ち葉を揺らし、穏やかに村を包んでいた。
リーナは机に手を置き、小さく呟く。
「明日はもう少し、自然な昼寝の大切さを主張してみます」
風鈴がひとつ、やさしく鳴った。
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