ちょいワル役人リーナの過不足ノート 〜ちょっと多かったり、少なかったり

すくらった

文字の大きさ
24 / 35
2025年11月業務日誌

22. 時間が足りない

しおりを挟む
秋の深まったツルバ村は、木枯らしが梢を揺らし、落ち葉が小道を踊るように舞っていた。空気はひんやりとしていて、村人たちは少しずつ冬支度を始めている。煙突から立ち上る白い煙、暖かいスープの香り、そして林檎の収穫を終えた畑の香ばしさが混ざり合う朝だった。

「リーナちゃん、助けてくれ!」
役場のドアが勢いよく開き、駆け込んできたのは農夫のジョンだった。いつもはのんびりした彼の額には、汗と焦りが混ざっている。

「どうしたのですか、ジョンさん?」
「いや、畑も納屋も忙しくて……時間が全然足りないんだ。冬支度が間に合わない!」

リーナはノートを抱えて立ち上がった。
「わかりました。では現状を整理してみましょう」

村のあちこちを巡り、ジョンが抱える作業の山を観察する。納屋の扉を開けると、木箱や干し草の山が所狭しと並び、薪もまだ十分に積まれていない。村の他の住民たちも忙しそうに動いている。

リーナはノートの角でトントンと叩く。ページがぱらりとめくれ、淡く光る文字が浮かぶ。

〈時間不足〉

「なるほど……時間が足りない、ですね」
リーナは少し首をかしげ、ふと思いつく。

「では、優先順位を整理し、効率よく進めるしかありませんね」

リーナはジョンに指示を出す。薪は乾燥したものから順に納屋へ積むこと、収穫済みの林檎は種類ごとに箱に分けて運ぶこと。村の子供サラにも手伝いをお願いし、みんなで作業を分担することにした。

「リーナちゃん、でも全部やるのは無理じゃないか?」
「少しずつ、効率よく、です。慌てず急がず!」

リーナ自身も手を動かす。小さな失敗もあった。林檎の箱を一段落としたり、薪の束をまとめ損ねたり。だが、「すみません、ちょいワル役人、ちょい失敗です!」と申し訳なさそうに笑い、修正して進める。

午後、みんなの協力で納屋は整頓され、薪もきれいに積まれた。林檎の箱も種類ごとに並び、ジョンは息をつく。
「うわぁ……リーナちゃん、助かったよ!」
「いえ、村のためですから」

ジョンは感謝の気持ちとして、温かいスープを差し出す。
「だ、だめです! こういうのは『物品供与』です!」
「そっか……じゃ、もう少し休憩してもいいか?」とジョンは言い、スープを自分で飲むことにした。
「うー……」横でリーナが恨めしそうに見ている。

「もう、食べづらいよ」ジョンは苦笑して、別のスープを持ってきて手渡した。
夕方、役場に戻ると、ノートがひとりでに開く。ページの端に光る文字。

〈焦り過剰〉

リーナは小さく笑い、椅子に腰を下ろした。
「……明日はもう少し余裕を持たせて計画しますか」

窓の外には、木枯らしに揺れる落ち葉の海が広がっていた。リーナは深呼吸をひとつ。今日もツルバ村は、静かに秋の一日を終えていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

ペット(老猫)と異世界転生

童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

置き去りにされた聖女様

青の雀
恋愛
置き去り作品第5弾 孤児のミカエルは、教会に下男として雇われているうちに、子供のいない公爵夫妻に引き取られてしまう 公爵がミカエルの美しい姿に心を奪われ、ミカエルなら良き婿殿を迎えることができるかもしれないという一縷の望みを託したからだ ある日、お屋敷見物をしているとき、公爵夫人と庭師が乳くりあっているところに偶然、通りがかってしまう ミカエルは、二人に気づかなかったが、二人は違う!見られたと勘違いしてしまい、ミカエルを連れ去り、どこかの廃屋に置き去りにする 最近、体調が悪くて、インフルの予防注射もまだ予約だけで…… それで昔、書いた作品を手直しして、短編を書いています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

処理中です...