ちょいワル役人リーナの過不足ノート 〜ちょっと多かったり、少なかったり

すくらった

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2025年12月業務日誌

35. 集中しすぎる薬屋さん

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ツルバ村に、本格的な冬がやってきた。
屋根は薄い雪に覆われ、道の端には白いかたまりが寄せられている。
煙突からは静かに白い煙が立ち上り、村全体がひっそりとした空気に包まれていた。

リーナが役場で帳簿をまとめていると、
控えめなノックが響いた。

「リーナちゃん、いる?」
「はい、どうぞ。ベルンさん、どうされましたか」

薬屋のベルンが首元まで厚いマフラーを巻き、
どこか落ち着かない様子で入ってきた。

「ちょっと相談があってな……最近、作業してるとさ、
 まわりが見えなくなるんだよ」
「まわりが……?」
「そう。調剤台に向かったら、気づいたら日が傾いてたり、
 客が声かけても全然気づかなかったりするんだ。
 ジェーンに“返事しなさすぎだよ”って怒られてよ……」

リーナはノートを開き、淡い光に照らされた文字を確認した。

〈集中過剰〉

「ベルンさん、原因はこちらのようです。
 必要以上に作業へ没頭してしまい、周囲への意識が薄れている状態ですね」

ベルンは眉を下げ、困り切った顔をした。

「たしかに、冬に入ってから急にひどくてさ。
 静かだと余計に入り込んじまうんだよな……」

リーナは、机の引き出しから**鈴のついた小さな紐**を取り出した。

「これを調剤台の脇に掛けてください」
「鈴?」
「作業に没頭しすぎると、動きが単調になってしまいます。
 手元が揺れるたびに小さく鳴れば、
 “周囲に意識を向けるきっかけ”になるはずです」

ベルンは興味深そうに鈴を眺めた。

「へぇ……そんなもんで変わるのか?」
「試してみる価値はあると思います」

二人は薬屋へ向かった。
店の前には雪が踏みしめられた跡がつき、
冷たい空気の中でも薬草の揃った棚は整然としている。

ベルンが調剤台の端に鈴の紐を掛け、
普段どおり薬草を刻み始めると――

ちりん。

「……お?」

また少し手を動かすと、ちりん。

「あ、意外といいなこれ」
「違和感があると、意識が戻りやすくなりますから」

ベルンは作業を続け、やがて納得したようにうなずいた。

「リーナちゃん、すごいよ。
 これなら客が来たときにも気づけそうだわ」
「お役に立てて何よりです」

ほっと息をつくベルンは、奥から包みを取り出した。

「礼に、あったかい茶葉をわけるよ。冬はこれが一番効くんだ」
「ありがとうございます。大切にいただきますね」

鈴の音が小さく鳴る店をあとに、
リーナは白い息を吐きながら役場へ戻った。

ノートがふわりと光る。

〈灯火過剰〉

「……暗くなりますから、私は適量だと思います」

リーナは襟を正し、灯りのともる静かな雪道を歩き始めた。
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