病弱な幼馴染を溺愛する彼に、愛想が尽きました。

小野 まい

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第10話 王宮へ赴く

王宮の奥深く、限られた者しか足を踏み入れることの許されない国王の私的な謁見室。

重厚なマホガニーの扉が両開きに開かれ、エレオノーラは父であるローゼンクロイツ公爵と共に、気品を漂わせながら中へ踏み入った。


「急な謁見の申し出、誠に申し訳ございません、陛下」


公爵が深々と一礼し、エレオノーラもそれに倣って淑女の礼を披露する。

玉座に腰掛ける現国王アレクサンドルは、面倒くさそうな表情をしつつもゆったりとした笑みを見せていた。



「よいよい、ローゼンクロイツ公。そなたら親子が揃って余の元へ来るなど、珍しいこともあるものだ。……して、本日は如何なる用件かな? いや、聞かずとも大方予想はついているがね」


国王の視線の先には、壁際に腕を組んで立っている第二王子ユリウスの姿があった。

ユリウスは「やれやれ」といった様子で大げさに肩をすくめ、エレオノーラに向かって甘ったるく見下したような声をかけた。



「エレオノーラ。君も本当に大げさだな。昨日の晩餐をキャンセルされたからといって、わざわざお義父上を巻き込んで陛下に言いつけに来るとは。まるで『子供の我儘』じゃないか」

「…………」

「分かっている、昨日は君にとって大切な記念日だったのだろう? だが、リリアーナが高熱で苦しんでいたのだ。幼馴染として、そして上に立つ者として、弱き者を助けるのは当然の義務だ。君のような完璧な公爵令嬢なら、一人でも立派にディナーを楽しめただろう? それに、記念日なら来週にでも豪勢にやり直してやるから、もう機嫌を直してくれ」



ユリウスの言葉には、微塵の反省もなかった。

彼の中では、これは単なるという程度の認識なのだ。


(私が少し甘い言葉をかけてやれば、彼女はすぐに元通り自分に尽くす都合の良い女に戻る)


ユリウスは、そう固く信じて疑っていない。



(ああ……本当に、滑稽なほど何も分かっていないのね)


エレオノーラは、内心の冷ややかな感情を微塵も顔に出さず、ただふんわりと花が咲くように美しく微笑んだ。



「殿下。お気遣い痛み入ります。ですが、本日はそのような『痴話喧嘩の延長』で参ったわけではございませんのよ」

「ん? では何だ?」

「お父様」


エレオノーラが視線を向けると公爵は静かに頷き、懐から豪奢な装丁が施された一冊の書類綴りを取り出した。

そして、それを国王の側近に手渡し、玉座の国王へと届けさせた。



「……何だこれは?」

「陛下。十年前の昨日、我がローゼンクロイツ家と王家との間で交わされた、ユリウス殿下と娘エレオノーラの『婚約に関する誓約書』の原本でございます」

「あー、そんなものもあったな」


公爵の重々しい声に、国王は軽く眉を上げて書類のページを捲った。



「それがどうしたのだ。十年前の古い取り決めだろう。二人の結婚の時期については、ユリウスが『もう少し地盤を固めてから』と申しておるゆえ、余も大目に見ておるのだ。娘可愛さに急かしたい気持ちは分かるが――」

「陛下。恐れながら、第十三条をご確認くださいませ」


エレオノーラが、澄み切った声で言葉を遮った。

そのあまりにも堂々とした態度に、国王は怪訝な顔をしながらも、書類の該当箇所に目を落とした。

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