病弱な幼馴染を溺愛する彼に、愛想が尽きました。

小野 まい

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第22話 幼馴染の焦りと本性

王都の夜は、今日も煌びやかなシャンデリアの光と、甘い香水に包まれていた。

有力な伯爵家が主催する夜会の会場。彩り豊かなドレスが花園のように広がる舞踏会で、壁際にひっそりと身を潜めて周囲を観察する令嬢が一人いた。

リリアーナ男爵令嬢。儚げな薄紅色のドレスを身に纏い、大きな瞳を潤ませる彼女の姿は、多くの男たちの庇護欲をそそるそのものだった。



(……ああ、本当に馬鹿な男。まさか本気で公爵令嬢から捨てられるなんて)


リリアーナは、扇の陰で微かに唇を歪めた。今朝、社交界に激震が走った。



『第二王子ユリウス、公爵家との婚約破棄の末、王籍を剥奪され魔石鉱山へ送致』



その報せを聞いた瞬間、リリアーナはユリウスへの愛など一秒で窓から投げ捨てた。


(『君だけを愛している』なんて甘い言葉、私が本気で信じていたとでも? 権力も金もない男になんて、一銅貨の価値もないわ。さっさと縁を切って大正解ね)


彼女にとってユリウスは、自分の承認欲求を満たし、最高級のドレスと宝石を買い与えてくれるでしかなかったのだ。

だが、状況は極めて深刻だった。ユリウスが使っていたツケの支払いが、リリアーナの元へ回ってくる可能性がある。実家の男爵家には、そんな莫大な借金を払う能力はない。



(急がなきゃ。私が『あの馬鹿な王子に無理やり言い寄られて困っていた、可哀想な被害者』だと信じ込ませて、私を守ってくれる『新しいパトロン』を見つけないと……!)


彼女の視線の先には、本日のターゲットがいた。

フェルナンド伯爵令息。心優しく正義感が強いが、女性の涙にめっぽう弱いお人好しの青年だ。実家は裕福で、次期当主としての地位も盤石。


(申し分ない『次の乗り物』ね)


リリアーナはタイミングを見計らい、わざと少しふらつくような足取りで、バルコニーへと向かうフェルナンドの前に進み出た。



「あっ……申し訳、ありません……」

「おっと。大丈夫ですか、お嬢さん……君は、確かリリアーナ男爵令嬢?」


フェルナンドが驚いて彼女の華奢な肩を支える。

リリアーナは弾かれたように顔を上げ、そして絶妙なタイミングで大粒の涙をポロリと零した。



「フェルナンド様……っ。わたくし、もう、どうしたらよいか……っ」

「リリアーナ嬢!? どうしたのです、そんなに震えて。まさか、あのユリウス殿下の件で、誰かに心無い言葉をかけられたのですか?」

「っ……はい……。皆様、わたくしが殿下をたぶらかしたのだと、冷たい目で……。でも、違うのです! わたくしは、ただの幼馴染として接していただけで……殿下がご自身の権力を振りかざして、わたくしを無理やり囲い込もうと……っ」


リリアーナは両手で頬と口元を覆い肩を震わせながら、切なげにしゃくり上げる涙をこらえていた。



「わたくしは、エレオノーラ様に申し訳なくて、何度も身を引きたいと殿下にお願いしました。でも、『逃げたら実家をどうにかするぞ』と殿下に脅されて……怖くて、誰にも言えなかったのです……っ!」


見事な三文芝居だった。事実の真逆を並べ立て、自らを悲劇のヒロインに仕立て上げる。

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