病弱な幼馴染を溺愛する彼に、愛想が尽きました。

小野 まい

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第30話 絶望から狂気

「な、なんだこれは……。これが、私の部屋……?」


ユリウスはフラフラと歩き、その粗末な木のベッドに腰を下ろした。

ギシッ、と情けない音が鳴る。これまで最高級の羽毛布団で眠っていた彼にとって、それは拷問具のように硬く冷たかった。

クローゼットを開ければ、残されているのは地味な灰色の平服が二着だけ。



「私の宝石箱は空っぽ……輝きも喜びも、本も娯楽品も、何ひとつ手元に残ってはいない……」


楽しみとして手にしていたものも、誇りを保たせてくれたものも、すべて跡形もなく消え去っていた。



「う、うぅっ……助けてくれ……エレオノーラ……エレオノーラ……」


ガランとした部屋に、彼自身の声が虚しく反響する。婚約していた相手の名前を口にするたび、後悔の気持ちが胸に広がった。

これがという情けの正体だった。

身分という名ばかりの鎖で王宮の離れに繋がれ、見栄を張るための道具を全て奪われた。そして、使用人以下の生活水準で、毎日ただ生きるだけの存在にまで落とされてしまったのだ。



「なぜ……なぜ私が、こんな目に……っ!」


ユリウスは薄い毛布を頭から被り、子供のように声を上げて泣きじゃくった。

リリアーナという幼馴染にうつつを抜かし、エレオノーラという絶対的な庇護者を無自覚に蹴り飛ばした代償。

それが、どれほど重く恐ろしいものか。物理的に全てを奪われた今、痛いほどに骨の髄まで理解させられた。



だが生来の甘ったれであり、自分の非を絶対に認められない彼の脳は、この極限のストレスから逃れるために、またしても狂った結論》》を導き出そうとしていた。


(違う……。こんなの、間違っている。私がこんなみすぼらしい生活をするなんて、この世界の理から外れている……!)


涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を上げ、ユリウスは薄暗い部屋の中で虚空を睨みつけた。



(……エレオノーラだ。彼女さえ戻ってくれば、この借金は全て帳消しになる。父上も兄上も、再び私を次期国王として扱うはずだ)


彼の頭の中に浮かぶのは、自分を冷たく見下したエレオノーラの凍りつくように冷たい瞳ではない。

昔、自分に向かって微笑んでくれて、優しく何でも言うことを聞いてくれたの幻影にすぎなかった。



(私が直接会いに行って、今度は『土下座』をして誠意をもって謝ればいい。彼女は私を愛しているのだから、私のこの惨状を見れば、必ず同情して、抱きしめてくれるはずだ。『結婚しよう』と言えば、全てが元通りになる……!)


監視の目を盗んで王宮を抜け出し、彼女に会いに行く。それが、彼に残された最後の一手であり、唯一の希望だった。

その言葉が、すでに彼女の心に1ミリも響かない空砲であることにすら彼は気づいていない。



「待っていろ、エレオノーラ。私が、君を迎えに行ってやるからな……!」


何もないガランとした部屋で、灰色の平服を握りしめて不気味な笑みを浮かべるユリウス。

虚飾を全て剥ぎ取られて最後に残ったのは、滑稽なまでの身勝手な執着だけであった。

その異常すぎる行動力が、さらなる凄惨な結末を招くことになるとも知らずに、彼はエレオノーラという目標に向かって迷わず突き進む。

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