もうあなた達を愛する気持ちはありません。

小野 まい

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第54話 貴族社会の現実

フォレスト男爵の目には息子への怒り以上に、アークライト公爵への絶対的な恐怖が浮かんでいた。


(男爵家を途絶えさせるわけにはいかない……私が何としても、この家を守らなければ……!)


ここで息子を少しでも庇えば、一族郎党が路頭に迷うどころか首が飛ぶ。それが貴族社会の残酷なリアルなのだ。



「公爵閣下! ならびに皆様方! この『愚か者』は、今この瞬間をもって我がフォレスト男爵家より『勘当』いたします! 家門とは一切無関係の、一介の平民として、いかようにもお裁きください!!」


父親の悲痛で非情な宣言。それは、キースという人間の社会的なだった。


「か、勘当……? 嘘だろ、父上! 見捨てないでくれ!」

「触るな、汚らわしい! お前はもう息子ではない!」


さらに、悲劇は連鎖する。子爵令嬢ジュリアの父親もまた青ざめた顔で進み出ると、泣き叫ぶ娘の頬を容赦なく張り飛ばした。



「我が家門の恥晒しめ! お前も今すぐ家を出て行け! 二度と敷居を跨ぐことは許さん!」

「お父様! いやあぁぁぁっ!」


そして広間のあちこちで、ララの友人であるイザベラ擁護派の若者たちの親が進み出ては、次々とを言い渡していく。



昨日まで、イザベラ擁護派の彼らは「愛の力で権力に立ち向かう」という物語の主人公気取りだった。
 
しかし、権力という本物の暴力の前に、彼らが信じていた正義や友情など紙切れほどの価値もなかった。

親たちは自分たちの保身のために、秒で子供を切り捨てたのだ。



「お兄様……お兄様ぁっ……!」


ララは、周囲で仲間たちが次々と社会的に殺されていく地獄絵図を前に、ただガタガタと震えながらギルバートにすがりつくことしかできなかった。
 
だが、すがりつかれたギルバート本人もまた、焦点の合わない目で虚空を彷徨っているだけで、妹を庇う言葉一つ発することはできなかった。



私は、バルコニーの特等席から、その完全なるを見下ろしていた。


(なんて美しい光景かしら)


私はグラスの冷たいシャンパンを一口含み、喉の奥でクスリと笑った。
 

(おバカさんたちが自分たちの撒いた種で自滅し、すべてを失って泣き叫んでいる)
 

ハリーが私の方を見上げ、目礼をして下がっていく。私は彼に、扇の陰から「よくやったわ」と労いの視線を送った。



「さあ、外堀は完全に埋まりましたわね」


擁護派は壊滅し、ギルバートの味方は誰もいなくなった。
 
イザベラ姉様も、自分の美貌と権力が何の役にも立たないことを骨の髄まで思い知らされたはずだ。

舞台の中央に残されたのは地位も名誉も失い、惨めに寄り添い合う元・公爵夫人と元・優等生。



「次は、あなたたちの『真実の愛』とやらが、どれほど薄っぺらいものか……互いに食い破り合う姿を見せていただきましょうか」


私は義兄様が次の一手を放つのを、極上のデザートを待つような気分で待ち構えていた。

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