69 / 74
第68話 小さな温もり
その日の午後。
私は日差しの入るプレイルームで、床に座り込みながらレオと積み木遊びをしていた。
「叔母様、見て! こんなに高く積めたよ!」
「まあ、すごいですわね、レオ坊ちゃま! まるでお城の塔みたいです」
「えへへ」
私が拍手をすると、レオは顔を真っ赤にして照れ笑いしてはにかんだ。
その純真な笑顔を見るだけで私の胸の奥に、ぽかぽかと温かい陽だまりのようなものが広がっていく。
私にとって、レオを愛し慈しむことは義務や労働ではない。
それは私自身がずっと欲しくて、決して手に入れられなかったものを、この小さな命を通して追体験しているようなものだった。
私の実の親は、完璧な美貌を持つお姉様ばかりを愛し、平凡な私は常に「出来損ない」「姉の引き立て役」として扱われた。
婚約者だったギルバート様も私ではなく、彼自身の頭の中にある悲劇の騎士というロマンチックな妄想を愛していただけだった。
誰も、ただの私を必要とはしてくれなかった。でも、レオは違う。
「叔母様……あのね」
積み木を崩してしまった後、レオがとてとてと歩み寄り、私の膝の上にちょこんと座り込んだ。
小さな両手が、私のドレスの袖をきゅっと掴む。
「なあに?」
「僕、叔母様とずっと一緒にいたいな。叔母様がいなくなったら、僕、また一人ぼっちになっちゃうから……」
不安そうに見上げてくる大きな瞳には、私への100パーセントの信頼と、隠しきれない寂しさが揺れていた。
お姉様のように美しくなくてもいい。公爵家のためになるような有能な政治力を持っていなくてもいい。
ただ、私が私であるというだけで、この子はこんなにも私を求めて愛してくれている。
(ああ、これが無償の愛というものなのですね)
誰かのための代替品ではない、私の人生で初めて得た絶対的な肯定。
「……大丈夫ですよ、レオ坊ちゃま」
私は目頭が熱くなるのを感じながら、その小さな背中に腕を回しそっと抱きしめた。石鹸と、お日様の匂いがした。
「私はどこにも行きません。ずっと、あなたの側にいます。あなたが立派な大人になるまで、いつまでも手を繋いで歩きましょうね」
「ほんとう……? 約束だよ!」
レオはパッと花が咲いたように笑い、私の首に短い腕を回してぎゅっと抱きついてきた。
その温もりは、私の心の奥底にこびりついていた冷たい孤独を、跡形もなく溶かしていく。
ふと視線を感じて顔を上げると、少し開いたドアの隙間から、義兄様がこちらを静かに見守っていた。
「え……!?」
心臓が跳ね上がり、世界が一瞬止まったかのようだった。
目が合うと義兄様はとても優しく、そしてどこか眩しいものを見るような眼差しで微かに微笑み、静かにドアを閉めて立ち去っていった。
(血の繋がりなんて関係ない。法的で形式的な家族の枠組みなど、どうでもいい)
私たちはお互いの傷を舐め合い、足りないものを補い合いながら少しずつ本物の温かい家族になっていくのだ。
私は、レオの柔らかな髪を撫でながら、窓から差し込む春の光に目を細めた。
私の仮住まいは、いつの間にか私が世界で一番愛おしいと思える永遠の居場所に変わっていた。
私は日差しの入るプレイルームで、床に座り込みながらレオと積み木遊びをしていた。
「叔母様、見て! こんなに高く積めたよ!」
「まあ、すごいですわね、レオ坊ちゃま! まるでお城の塔みたいです」
「えへへ」
私が拍手をすると、レオは顔を真っ赤にして照れ笑いしてはにかんだ。
その純真な笑顔を見るだけで私の胸の奥に、ぽかぽかと温かい陽だまりのようなものが広がっていく。
私にとって、レオを愛し慈しむことは義務や労働ではない。
それは私自身がずっと欲しくて、決して手に入れられなかったものを、この小さな命を通して追体験しているようなものだった。
私の実の親は、完璧な美貌を持つお姉様ばかりを愛し、平凡な私は常に「出来損ない」「姉の引き立て役」として扱われた。
婚約者だったギルバート様も私ではなく、彼自身の頭の中にある悲劇の騎士というロマンチックな妄想を愛していただけだった。
誰も、ただの私を必要とはしてくれなかった。でも、レオは違う。
「叔母様……あのね」
積み木を崩してしまった後、レオがとてとてと歩み寄り、私の膝の上にちょこんと座り込んだ。
小さな両手が、私のドレスの袖をきゅっと掴む。
「なあに?」
「僕、叔母様とずっと一緒にいたいな。叔母様がいなくなったら、僕、また一人ぼっちになっちゃうから……」
不安そうに見上げてくる大きな瞳には、私への100パーセントの信頼と、隠しきれない寂しさが揺れていた。
お姉様のように美しくなくてもいい。公爵家のためになるような有能な政治力を持っていなくてもいい。
ただ、私が私であるというだけで、この子はこんなにも私を求めて愛してくれている。
(ああ、これが無償の愛というものなのですね)
誰かのための代替品ではない、私の人生で初めて得た絶対的な肯定。
「……大丈夫ですよ、レオ坊ちゃま」
私は目頭が熱くなるのを感じながら、その小さな背中に腕を回しそっと抱きしめた。石鹸と、お日様の匂いがした。
「私はどこにも行きません。ずっと、あなたの側にいます。あなたが立派な大人になるまで、いつまでも手を繋いで歩きましょうね」
「ほんとう……? 約束だよ!」
レオはパッと花が咲いたように笑い、私の首に短い腕を回してぎゅっと抱きついてきた。
その温もりは、私の心の奥底にこびりついていた冷たい孤独を、跡形もなく溶かしていく。
ふと視線を感じて顔を上げると、少し開いたドアの隙間から、義兄様がこちらを静かに見守っていた。
「え……!?」
心臓が跳ね上がり、世界が一瞬止まったかのようだった。
目が合うと義兄様はとても優しく、そしてどこか眩しいものを見るような眼差しで微かに微笑み、静かにドアを閉めて立ち去っていった。
(血の繋がりなんて関係ない。法的で形式的な家族の枠組みなど、どうでもいい)
私たちはお互いの傷を舐め合い、足りないものを補い合いながら少しずつ本物の温かい家族になっていくのだ。
私は、レオの柔らかな髪を撫でながら、窓から差し込む春の光に目を細めた。
私の仮住まいは、いつの間にか私が世界で一番愛おしいと思える永遠の居場所に変わっていた。
あなたにおすすめの小説
私が出て行った後になって、後悔した旦那様から泣きの手紙がもたらされました♪
睡蓮
恋愛
ミーシャとブラッケン伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるエリーナによって壊される。伯爵はミーシャの事よりもエリーナの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ミーシャは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ミーシャの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
「静かで、退屈な婚約者だった」と切り捨てられたので、最後くらい全部言って去ることにしました
桃我タロー
恋愛
「静かで、退屈な婚約者だった」
婚約破棄のその日、王太子は広間でそう言い捨てた。
三年間、失言を隠し、場を整え、黙って支えてきたのに。
どうやら私に必要だったのは婚約者ではなく、“便利な人”という役割だけだったらしい。
しかも隣には、つい三日前まで殿下の従兄に求婚していた令嬢まで立っていて――。
ならばもう、黙っている理由はない。
これは、最後まで笑って終わるつもりだった令嬢が、自分の声を取り戻す話。
婚約者の心変わり? 〜愛する人ができて幸せになれると思っていました〜
冬野月子
恋愛
侯爵令嬢ルイーズは、婚約者であるジュノー大公国の太子アレクサンドが最近とある子爵令嬢と親しくしていることに悩んでいた。
そんなある時、ルイーズの乗った馬車が襲われてしまう。
死を覚悟した前に現れたのは婚約者とよく似た男で、彼に拐われたルイーズは……
夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。
【完結・全10話】偽物の愛だったようですね。そうですか、婚約者様?婚約破棄ですね、勝手になさい。
BBやっこ
恋愛
アンネ、君と別れたい。そういっぱしに別れ話を持ち出した私の婚約者、7歳。
ひとつ年上の私が我慢することも多かった。それも、両親同士が仲良かったためで。
けして、この子が好きとかでは断じて無い。だって、この子バカな男になる気がする。その片鱗がもう出ている。なんでコレが婚約者なのか両親に問いただしたいことが何回あったか。
まあ、両親の友達の子だからで続いた関係が、やっと終わるらしい。
口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く
ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。
逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。
「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」
誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。
「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」
だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。
妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。
ご都合主義満載です!
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。