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第81話 友人の叶わぬ想い
「将来、私が修道院にも入れず、かといって働き口も見つからず、シワシワのお婆さんになって王都の片隅で日向ぼっこをしている時……ハリーが隣でお茶を飲んでくれたら、きっと退屈しないわ。その時は、盆栽の育て方でも語り合いましょう」
「ちょ、待て! 俺は別に老後の話をしてるんじゃなくて……!」
ズコーッ! という音が聞こえてきそうなほど盛大にうろたえるハリーをよそに、私は慎ましやかに紅茶を啜り、品のある佇まいを保った。ダージリンの香りが心地よい。
「照れなくていいのよ、ハリー。私たちの友情は、老後まで続くってことでしょう? 本当に頼もしいお友達を持って、私は幸せ者ね」
「友情って……! おい、エマ! お前からも何か言ってくれよ! こいつのこの鉄壁の鈍感さはどうなってんだ!」
助けを求められたエマは、口元を手で押さえたままプルプルと肩を震わせていた。
そしてハリーに向けて、まるで死地に赴く哀れな戦士を見るような、底知れぬ同情と生温かい慈愛の視線を向けた。
(……無理よ、ハリー。この子の頭の中、もう公爵様でいっぱいだもの。)
エマの心の声が、なぜか私にも聞こえたような気がした。
(……相手が国家権力じゃ、あんたに勝ち目なんて塵ほどもないわよ。アーメン)
エマは心の中で十字を切りながら、顔いっぱいに笑みを広げて明るい声を弾ませて笑った。
「あはははっ。本当に、アリーナは面白いわね。ハリー、あなたも盆栽の勉強、今から始めておいたらどう?」
「お前まで俺をからかうなよぉぉっ!」
ハリーの情けない叫び声が、サロンに響き渡る。
(ここで引く俺じゃない)
彼は頭を抱えて机に突っ伏してしまったが、それでも私を見つめるその瞳の奥には、無駄に熱い闘志が燃え続けていた。
色恋沙汰は胃もたれするけれど、こうして気の置けない友人たちと笑い合う時間は嫌いではない。
窓の外では、爽やかな風が学園の桜を優しく揺らしている。私は、ハリーの背中をポンポンと慰めるように叩きながら、ふと明日の休日のことを思い浮かべていた。
(明日は、義兄様とレオと三人で、秘密の庭園でピクニックだ)
ハリーのアプローチには微塵も動かなかった私の心臓が、明日の予定を思い出しただけで、トクトクと早鐘を打ち始める。
(どんなサンドイッチを作ろうかな。義兄様は、ちゃんと公爵の鎧を脱いで、笑ってくれるかな)
頭に浮かべるだけで、知らず知らず微笑んでしまう。
「……ふふっ」
「おい、アリーナ。何で俺が落ち込んでる横で、そんな幸せそうにニヤニヤしてんだよ」
「なんでもないわ。ただ、明日はいいお天気になるといいなって思っただけ」
私の心の奥底で、ひそやかに花蕾が膨らんでいる。やがて私自身も気づかぬ色を咲かせるのだろう。平和な学園の日常は、こうして賑やかに過ぎていく。
「ちょ、待て! 俺は別に老後の話をしてるんじゃなくて……!」
ズコーッ! という音が聞こえてきそうなほど盛大にうろたえるハリーをよそに、私は慎ましやかに紅茶を啜り、品のある佇まいを保った。ダージリンの香りが心地よい。
「照れなくていいのよ、ハリー。私たちの友情は、老後まで続くってことでしょう? 本当に頼もしいお友達を持って、私は幸せ者ね」
「友情って……! おい、エマ! お前からも何か言ってくれよ! こいつのこの鉄壁の鈍感さはどうなってんだ!」
助けを求められたエマは、口元を手で押さえたままプルプルと肩を震わせていた。
そしてハリーに向けて、まるで死地に赴く哀れな戦士を見るような、底知れぬ同情と生温かい慈愛の視線を向けた。
(……無理よ、ハリー。この子の頭の中、もう公爵様でいっぱいだもの。)
エマの心の声が、なぜか私にも聞こえたような気がした。
(……相手が国家権力じゃ、あんたに勝ち目なんて塵ほどもないわよ。アーメン)
エマは心の中で十字を切りながら、顔いっぱいに笑みを広げて明るい声を弾ませて笑った。
「あはははっ。本当に、アリーナは面白いわね。ハリー、あなたも盆栽の勉強、今から始めておいたらどう?」
「お前まで俺をからかうなよぉぉっ!」
ハリーの情けない叫び声が、サロンに響き渡る。
(ここで引く俺じゃない)
彼は頭を抱えて机に突っ伏してしまったが、それでも私を見つめるその瞳の奥には、無駄に熱い闘志が燃え続けていた。
色恋沙汰は胃もたれするけれど、こうして気の置けない友人たちと笑い合う時間は嫌いではない。
窓の外では、爽やかな風が学園の桜を優しく揺らしている。私は、ハリーの背中をポンポンと慰めるように叩きながら、ふと明日の休日のことを思い浮かべていた。
(明日は、義兄様とレオと三人で、秘密の庭園でピクニックだ)
ハリーのアプローチには微塵も動かなかった私の心臓が、明日の予定を思い出しただけで、トクトクと早鐘を打ち始める。
(どんなサンドイッチを作ろうかな。義兄様は、ちゃんと公爵の鎧を脱いで、笑ってくれるかな)
頭に浮かべるだけで、知らず知らず微笑んでしまう。
「……ふふっ」
「おい、アリーナ。何で俺が落ち込んでる横で、そんな幸せそうにニヤニヤしてんだよ」
「なんでもないわ。ただ、明日はいいお天気になるといいなって思っただけ」
私の心の奥底で、ひそやかに花蕾が膨らんでいる。やがて私自身も気づかぬ色を咲かせるのだろう。平和な学園の日常は、こうして賑やかに過ぎていく。
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