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第90話 屋敷中の祝福
「私どもは、お二人が結ばれたことが嬉しくて嬉しくて、いてもたってもいられなかったのです。ええ、たとえまだ『お付き合い』の段階であっても! この屋敷の女主人には、アリーナ様以外ありえませんからな!」
「その通り!」
「外堀は完全に埋めさせていただきますよ!」
執事長がそう宣言すると、周囲のメイドや使用人たちが口々に賛同の声を上げた。
(((絶対にアリーナ様を公爵夫人の座から逃がさない)))
これは単なるお祝いではない。使用人たちは強烈な意志のもと、自らの身銭を切ってまでこのクーデター的祝賀会を強行したのだ。
「お前らという奴は……」
頭を抱えるクライド様の横で私は苦笑しながらも、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
前のお姉様の時代には、彼らの顔にこんな笑顔はなかった。私がこの屋敷で過ごしてきた日々は、決して無駄ではなかったのだと彼らが証明してくれているようだった。
「アリーナ! パパ!」
そこへ、おめかしをしたレオが可愛い笑顔でタタタッと駆け寄ってきた。手には、庭で摘んできたらしいシロツメクサの冠を持っている。
「はい、アリーナにプレゼント! おめでとう!」
「まあ、レオ坊ちゃま。ありがとう、とっても素敵ね」
私が屈み込んで冠を受け取ると、レオは満面の笑みで私の頬にチュッとキスをした。
「アリーナがパパと恋人さんになって、ぼく、すっごく嬉しい! あのね、メイドさんたちが教えてくれたの。恋人さんになったら、ずっとおててを繋いでなきゃいけないんだって!」
「へ……?」
「ほら、パパも! アリーナとおてて繋いで!」
無邪気な子供の要求(メイドの入れ知恵)に、私とクライド様はビクッと肩を跳ねさせた。
「れ、レオ、それはいくらなんでも、皆の前で……」
「えー? 繋がないの? パパ、アリーナのこと好きじゃないの?」
ウルウルと瞳を潤ませるレオ。
その背後で、使用人たちが「ひどい」「旦那様、男を見せてくださいよ」「ヘタレ」と、ヒソヒソと(わざと聞こえるように)野次を飛ばしている。
(逃げ道は、ないのですね)
クライド様は観念したように深い息を吐くと、私の隣にドカッと座り直した。そして私の顔を見ないまま、テーブルの下でそっと私の右手を握りしめた。
「ひゃっ……」
「……うるさい奴らだ。これで文句はないだろう」
言葉とは裏腹に、彼の手のひらは信じられないほど熱く、私の指としっかり絡み合っていた。
その不器用な男らしさと隠しきれない照れくささに、私の心臓はまたしても早鐘を打ち始める。
「ヒュー! 旦那様、お熱いですね!」
「アリーナ様、顔が真っ赤ですよ!」
「さあさあ、今夜は飲むぞー!」
手を繋いだ私たちを見て、大広間のボルテージは最高潮に達した。次々と運ばれてくる料理、注がれるワイン、鳴り響く陽気な音楽。
誰もが笑顔で私たちを祝福し、からかいつつも心から喜んでくれている。
私は、繋がれた手にきゅっと力を込めた。すると、クライド様も同じように力を返し、柔らかに包み込むように私の耳元に顔を近づけてきた。
「……災難だったな」
「いいえ。少し恥ずかしいですが……とても、幸せです」
私が正直な気持ちを伝えると、クライド様は目を大きく見開いた。それから今まで見たこともないほど穏やかで深く優しい笑顔を浮かべた。
「ああ。俺もだ。……こんなに幸せだと感じたのは、生まれて初めてかもしれない」
彼の低い声が音楽の喧騒を通り抜けて、私の心臓のど真ん中を打ち抜く。
繋いだ手から伝わる熱が、私の体中を駆け巡って幸福感で胸がはち切れそうだった。
(公爵の鎧も、教育係としての建前も、もう必要ない……これからは、自分の気持ちに素直で私自身のために生きるの……)
ここにあるのは、恋に落ちたばかりの不器用な一人の男と女、そして彼らを温かく見守る家族たちの姿だけだ。
「その通り!」
「外堀は完全に埋めさせていただきますよ!」
執事長がそう宣言すると、周囲のメイドや使用人たちが口々に賛同の声を上げた。
(((絶対にアリーナ様を公爵夫人の座から逃がさない)))
これは単なるお祝いではない。使用人たちは強烈な意志のもと、自らの身銭を切ってまでこのクーデター的祝賀会を強行したのだ。
「お前らという奴は……」
頭を抱えるクライド様の横で私は苦笑しながらも、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
前のお姉様の時代には、彼らの顔にこんな笑顔はなかった。私がこの屋敷で過ごしてきた日々は、決して無駄ではなかったのだと彼らが証明してくれているようだった。
「アリーナ! パパ!」
そこへ、おめかしをしたレオが可愛い笑顔でタタタッと駆け寄ってきた。手には、庭で摘んできたらしいシロツメクサの冠を持っている。
「はい、アリーナにプレゼント! おめでとう!」
「まあ、レオ坊ちゃま。ありがとう、とっても素敵ね」
私が屈み込んで冠を受け取ると、レオは満面の笑みで私の頬にチュッとキスをした。
「アリーナがパパと恋人さんになって、ぼく、すっごく嬉しい! あのね、メイドさんたちが教えてくれたの。恋人さんになったら、ずっとおててを繋いでなきゃいけないんだって!」
「へ……?」
「ほら、パパも! アリーナとおてて繋いで!」
無邪気な子供の要求(メイドの入れ知恵)に、私とクライド様はビクッと肩を跳ねさせた。
「れ、レオ、それはいくらなんでも、皆の前で……」
「えー? 繋がないの? パパ、アリーナのこと好きじゃないの?」
ウルウルと瞳を潤ませるレオ。
その背後で、使用人たちが「ひどい」「旦那様、男を見せてくださいよ」「ヘタレ」と、ヒソヒソと(わざと聞こえるように)野次を飛ばしている。
(逃げ道は、ないのですね)
クライド様は観念したように深い息を吐くと、私の隣にドカッと座り直した。そして私の顔を見ないまま、テーブルの下でそっと私の右手を握りしめた。
「ひゃっ……」
「……うるさい奴らだ。これで文句はないだろう」
言葉とは裏腹に、彼の手のひらは信じられないほど熱く、私の指としっかり絡み合っていた。
その不器用な男らしさと隠しきれない照れくささに、私の心臓はまたしても早鐘を打ち始める。
「ヒュー! 旦那様、お熱いですね!」
「アリーナ様、顔が真っ赤ですよ!」
「さあさあ、今夜は飲むぞー!」
手を繋いだ私たちを見て、大広間のボルテージは最高潮に達した。次々と運ばれてくる料理、注がれるワイン、鳴り響く陽気な音楽。
誰もが笑顔で私たちを祝福し、からかいつつも心から喜んでくれている。
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「いいえ。少し恥ずかしいですが……とても、幸せです」
私が正直な気持ちを伝えると、クライド様は目を大きく見開いた。それから今まで見たこともないほど穏やかで深く優しい笑顔を浮かべた。
「ああ。俺もだ。……こんなに幸せだと感じたのは、生まれて初めてかもしれない」
彼の低い声が音楽の喧騒を通り抜けて、私の心臓のど真ん中を打ち抜く。
繋いだ手から伝わる熱が、私の体中を駆け巡って幸福感で胸がはち切れそうだった。
(公爵の鎧も、教育係としての建前も、もう必要ない……これからは、自分の気持ちに素直で私自身のために生きるの……)
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