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第3話 地獄のパーティー
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翌朝の食堂は、針の落ちる音さえ聞こえそうなほどの静寂に包まれていた。私はいつも通り、背筋を伸ばして紅茶を口に運ぶ。向かいの席には、二日酔いなのか少し顔色の悪い夫のオスカーが座っていた。
「……あの、エリザ。昨夜はすまなかった」
パンにバターを塗りながら、オスカーが様子を窺うように切り出した。私はカップをソーサーに戻し、彼を見ずに答える。
「いいえ。マリア様の看病でお忙しかったのでしょう? 大変でしたわね」
「そ、そうなんだ! あいつも体が弱くてね。放っておけなくて……。理解してくれて嬉しいよ」
オスカーの声が明るくなる。ああ、この人は本当に気づいていないのだ。私の言葉に含まれた棘にも、屋敷の使用人たちが彼に向ける視線が氷点下であることにも。
夫は理解ある妻という自分の都合の良い解釈の中に住んでいる。
「それでだ、エリザ。昨夜の詫びと言ってはなんだが、今日は天気も良いし、庭でティーパーティーをしないか?」
「ティーパーティー、ですか?」
「ああ。ノアも退屈しているだろう? それに……実はもう呼んであるんだ」
嫌な予感が背筋を走る。食堂の扉が開き、その予感は最悪の形で的中した。
「おはようございまぁす! オスカー、お邪魔しまぁす!」
場違いに高い声と共に現れたのは、フリル満載の派手なドレスを着たマリアと息子カイルだった。
使用人が止める間もない無作法極まりない登場だが、オスカーは嬉々として立ち上がり二人を迎え入れた。
「やあ、よく来たね! 昨日は熱が高かったようだが、もういいのか?」
「うんっ。オスカーのおかげですっかり元気になっちゃった! 家にいても気が滅入っちゃうから、誘ってくれて嬉しかったぁ」
マリアは私の存在など見えていないかのように、オスカーの腕に絡みつく。そして、その足元でカイルがドタドタと走り回り、私の椅子の周りを一周した。
「おばさん、お菓子まだ? 僕、お腹空いた!」
挨拶もないし敬称もない。私は扇子を開き、口元の引きつりを隠した。これが、私の夫が「大切にすべき友人」と呼ぶ者たちの姿なのか。
午後、屋敷の庭園で私と息子のお詫びの会と称された地獄のようなティーパーティーが始まった。
芝生の上には白いテーブルセットが置かれ、最高級の茶葉と焼き菓子が並べられている。
「ノア、ご挨拶なさい」
私が促すと、私の隣に座っていた六歳の息子ノアが椅子から降り、完璧なカーテシーを披露した。
「初めまして、マリア様。ようこそお越しくださいました」
銀糸のようなサラサラの髪、宝石のような青い瞳。私の自慢の息子だ。年齢よりもずっと聡明で、悲しいほどに空気を読む子供だった。
ノアは、父親が自分よりもカイルを可愛がっていることを知っている。だからこそ、父に愛されようと必死に良い子であろうと努めていた。
「あらぁ、ノア君ってば堅苦しいわねぇ。子供らしくないっていうか」
マリアはケラケラと笑い、口の端にクリームをつけながら言った。ノアの小さな肩がびくりと震える。
「ほら、カイル。ノア君と遊んであげなさい」
「えー。こいつ、つまんなそう」
カイルは口一杯にクッキーを詰め込んだまま、値踏みするようにノアを見た。その時、カイルの視線が一点に釘付けになった。ノアの胸ポケットから、金色の鎖が覗いていたのだ。
「……あの、エリザ。昨夜はすまなかった」
パンにバターを塗りながら、オスカーが様子を窺うように切り出した。私はカップをソーサーに戻し、彼を見ずに答える。
「いいえ。マリア様の看病でお忙しかったのでしょう? 大変でしたわね」
「そ、そうなんだ! あいつも体が弱くてね。放っておけなくて……。理解してくれて嬉しいよ」
オスカーの声が明るくなる。ああ、この人は本当に気づいていないのだ。私の言葉に含まれた棘にも、屋敷の使用人たちが彼に向ける視線が氷点下であることにも。
夫は理解ある妻という自分の都合の良い解釈の中に住んでいる。
「それでだ、エリザ。昨夜の詫びと言ってはなんだが、今日は天気も良いし、庭でティーパーティーをしないか?」
「ティーパーティー、ですか?」
「ああ。ノアも退屈しているだろう? それに……実はもう呼んであるんだ」
嫌な予感が背筋を走る。食堂の扉が開き、その予感は最悪の形で的中した。
「おはようございまぁす! オスカー、お邪魔しまぁす!」
場違いに高い声と共に現れたのは、フリル満載の派手なドレスを着たマリアと息子カイルだった。
使用人が止める間もない無作法極まりない登場だが、オスカーは嬉々として立ち上がり二人を迎え入れた。
「やあ、よく来たね! 昨日は熱が高かったようだが、もういいのか?」
「うんっ。オスカーのおかげですっかり元気になっちゃった! 家にいても気が滅入っちゃうから、誘ってくれて嬉しかったぁ」
マリアは私の存在など見えていないかのように、オスカーの腕に絡みつく。そして、その足元でカイルがドタドタと走り回り、私の椅子の周りを一周した。
「おばさん、お菓子まだ? 僕、お腹空いた!」
挨拶もないし敬称もない。私は扇子を開き、口元の引きつりを隠した。これが、私の夫が「大切にすべき友人」と呼ぶ者たちの姿なのか。
午後、屋敷の庭園で私と息子のお詫びの会と称された地獄のようなティーパーティーが始まった。
芝生の上には白いテーブルセットが置かれ、最高級の茶葉と焼き菓子が並べられている。
「ノア、ご挨拶なさい」
私が促すと、私の隣に座っていた六歳の息子ノアが椅子から降り、完璧なカーテシーを披露した。
「初めまして、マリア様。ようこそお越しくださいました」
銀糸のようなサラサラの髪、宝石のような青い瞳。私の自慢の息子だ。年齢よりもずっと聡明で、悲しいほどに空気を読む子供だった。
ノアは、父親が自分よりもカイルを可愛がっていることを知っている。だからこそ、父に愛されようと必死に良い子であろうと努めていた。
「あらぁ、ノア君ってば堅苦しいわねぇ。子供らしくないっていうか」
マリアはケラケラと笑い、口の端にクリームをつけながら言った。ノアの小さな肩がびくりと震える。
「ほら、カイル。ノア君と遊んであげなさい」
「えー。こいつ、つまんなそう」
カイルは口一杯にクッキーを詰め込んだまま、値踏みするようにノアを見た。その時、カイルの視線が一点に釘付けになった。ノアの胸ポケットから、金色の鎖が覗いていたのだ。
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