私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい

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第39話 夫はクズ化

その通達書は、王家の紋章が入った重厚な封筒に入れられ、無機質な事務官の手によって届けられた。
 
オスカーは震える手で封蝋を割った。
 
羊皮紙に記されていたのは、簡潔にして残酷な事実だった。



『エリザ・フォン・レインバーグが離婚協議書を提出され次第、王族としての品位を著しく損なったとして、オスカー・フォン・レインバーグの王籍の剥奪および国外追放を検討する』



オスカーの喉から、ヒューヒューと枯れた音が漏れた。


「……嘘だ……嘘だろ……?」


エリザが離婚の意志を示す正式な書類を提出した瞬間、オスカーは王籍剥奪の議論に巻き込まれることになる。

国王陛下がエリザの味方側に立っているため、彼女の主張が通ることは間違いない。

そして、自分は平民どころか借金だらけの犯罪者として、今の状態よりもっと絶望的な生活が待っていることを意味していた。

 

「いやだ……そんなこと、どうしても受け入れられない!」

 
王族という鎧を失えば、これまで逃げてきた借金のツケが一気に押し寄せるだろう。投獄されるか、最悪は命を落とす運命が待っている。


「私は王弟だぞ! 贅沢な暮らしをする権利があるんだ!」

 
彼は髪を掻きむしり、部屋の中を獣のように歩き回った。
 


「姉上と兄上は、もう味方ではない。自分を守ってくれる強力な後ろ盾が必要だ。残る権力者は……」


脳裏に、憎き男の顔が浮かんだ。レオナルド・フォン・ヴェルンシュタイン辺境伯。

圧倒的な武力と財力、そして王家からの信頼を持つ男。


「……あいつだ」

 
オスカーの歪んだ瞳が、部屋の隅で爪を研いでいるマリアに向けられた。
 
真実の愛を誓った恋人。しかし今、彼の目に映っているのは、一人の女という資源だった。



「マリア! マリア、聞いてくれ!」

 
オスカーはマリアの足元に滑り込んだ。マリアは不機嫌そうに顔を上げる。

昨夜の夕食も粗末なものだったため、彼女の機嫌は最悪だった。


「何よ、騒々しい。お金が入ったの?」

「違う! もっと大きな話だ! ……いいか、マリア。私たちが生き残る道は一つしかない」

 
オスカーはマリアの手を握りしめ、熱っぽく語り出した。



「あの男を取り込め、レオナルドをうまく引き込むんだ」

「はあ?」

「あいつは独身だ。しかも辺境伯で大金持ちだ。お前のその美貌なら、あんな堅物の男なんてイチコロだろう? お前がレオナルドの愛人になれば、その金で私たちも助かる! 私の借金も返せるし、お前だってまたドレスが買えるぞ!」

 
マリアは開いた口が塞がらなかった。この男は自分の保身のために、恋人を他の男に売ろうとしているのか。
 


(……最低だわ。クズという言葉すら生ぬるい。だけど待って)

 
マリアの頭の中で計算が始まった。オスカーはもう終わりだ。金もなく、地位もなく、ただの借金を背負った男。

一方、レオナルドはどうだ? 容姿は整っていて権力も文句なし。エリザのような冷徹な女をあれほどまでに愛している。

それなら、エリザよりも魅力的(だと思ってる)な自分はどうだろう? もし、あの男を手に入れることができたら?



(エリザなんかに、あのは勿体無いわ。あんな冷たい女より、私の方が男を喜ばせる術を知っているもの)

 
マリアは唇を舐めた。レオナルドを手に入れれば、一発逆転どころか社交界の頂点に立てる。

そして用済みになったオスカーなど、ゴミのように捨ててしまえばいい。


「……わかったわ、オスカー」

 
マリアは聖女のような微笑みを浮かべ、オスカーの頬を撫でた。

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