私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい

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第45話 夫は悪だくみ

「おい、マリア! どこへ行ったんだ!」

 
オスカーは廊下を歩きながら呼んだが返事はない。
 
ふと、窓の外を見ると、離れの庭で多くの人間がライトを持って動き回っているのが見えた。



「まさか……マリアのやつ、離れに行ったのか?」

 
嫌な予感がした。昨夜、彼女は次はもっとと言っていた。
 
まさか、レオナルドに夜這いでもかけに行って、そのまま捕まったのか? あるいは、何かトラブルを起こしたのか?


「くそっ、あいつが捕まったら、『共犯』だと思われて私まで……!」

 
心配よりも保身が先に立った。
 
オスカーは慌ただしくサンダルを履き、外へ駆け出していった。



「マリア! どこだマリア!」

 
彼は本館と離れの間の、薄暗い雑木林の方へと足を踏み入れた。
 
本能的に正規のルートではなく、人目を避けるような場所を選んだのだ。それが偶然にも、正解のルートだった。



「……助けて……」

 
風の音に混じって、微かな声が聞こえた気がした。


「ん? この声はマリアか?」

 
オスカーは足を止めた。



「うっ……うう……ママ、お願い、助けて……」

 
今度は、子供の泣き声も聞こえる。


「ノア?」

 
オスカーは声のする方へ、慎重に歩みを進めた。
 
草むらの中に、ぽっかりと口を開けた闇がある。古井戸を見つけた。



「なんだ? あの穴は?」


オスカーが恐る恐る中を覗き込むと、夕暮れ時の薄明かりの中で、二つの影がほのかに見えた。


「お、おい! そこにいるのか!?」

 
オスカーの声に、底にいた二人が同時に顔を上げた。


「オスカー! オスカーなのね!? 助けて! 足が……足が折れてるのよ!」

「パパ……?」

 
マリアの悲鳴のような叫びと、ノアの弱々しい声が聞こえた。
 
しかし、オスカーが二人を見つけたことは、パンドラの箱を開けることと同義で、彼の悪事が思い通りに進む瞬間のようだった。



「離れの騒ぎの原因はこれだったのか。……私が見つけた。誰もまだ気づいていない」


オスカーは満足そうに、優越感を隠すことなく浮かべた。


「オスカー! もし聞こえているなら、今すぐに誰か呼んできて!」


マリアの切羽詰まった叫びが、穴の下から響き渡った。

痛みに耐えながら、マリアは必死に助けを求めた。離れに侵入してしまったことによって、何らかの罰を受ける覚悟はすでにしていた。



「オスカー! 早く、早くここから出して!」


マリアが涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして叫んだ。その横でノアは膝を抱え、恐怖に震えながら見上げている。

オスカーは反射的に声を上げようとしたが、その声は喉にひっかかり出ることはなかった。



(……待てよ)

 
彼の思考が急速に動き出し、次々と冷徹な策が浮かび上がった。
 

(今、ここで二人を引き上げたとしよう。マリアは離れで何か問題を起こした罪で捕まり、ノアはエリザの元へ帰り、そして自分はどうなる? 『見つけてくれてありがとう』で終わりだ)
 

その先にあるのは、エリザと離婚、侯爵家から追放。その先には、今の自分でも想像もできないようなが待ち受けている。



(何も変わらないじゃないか!)


彼が王族の地位を失い、路頭に迷う未来が待っているだけだ。


(だが……もし、ノアが『パパと一緒にいたい』と泣いてすがったら?)

 
オスカーの唇が、冷ややかな微笑みを浮かべた。

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