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第58話 夫は弁明と崩壊
その時、井戸からレオナルドが出てきた。泥を払いながらオスカーの前に立つ。
彼の視線は、静かに冷え切った鋭利な刃のようで、誰もが触れることを恐れるような威圧感を放っていた。
「オスカー殿下。……三文芝居はここまでだ」
「な、何を言っている! 私は……!」
オスカーは本能的な恐怖を感じて後ずさった。
自分が完全に包囲されており、全ての嘘が暴かれたことを悟った。だが、彼の矮小なプライドと保身の執念が、見苦しい言い訳を口走らせた。
「ち、違う! 誤解だ! マリアが勝手に離れに入って、ガキ……いや、ノアと一緒に落ちたんだ! 私は何も知らない! 全てこの女が勝手にやったことだ!」
オスカーは指を震わせながらマリアを指差した。
「ふざけないでよ……!」
マリアは足の痛みに耐えながらも、声を絞り出して叫び声を上げた。
しかし、オスカーが二人を突き落としたわけではないのだから、その弁明は事の始まりとしては事実だった。
だが――。
「ええ、そうでしょうね。転落自体は事故だったのでしょう」
レオナルドの氷のような声が、オスカーの反論を切り捨てた。
「問題は『その後』だ。……殿下は彼らがこの井戸の底にいることを知っていた。知っていながら救助をせず、あろうことか蓋をして光を奪い、実の息子を脅迫するための道具として放置した」
「そ、そんな証拠がどこに……!」
オスカーが叫んだ瞬間、レオナルドの背後の暗がりから音もなくダークが進み出た。
「私がこの目で確認し、この耳で聞いておりました」
ダークの無機質な声が響く。彼はレオナルドの命令でオスカーを監視していた。
「『朝になれば泣きついてくるだろう。大人しくしていろ』……そう言い残して、殿下がこの板の上に土を被せていく姿を部下が見ている。マリアへの口封じと、ノアへの脅迫の言葉を、一言一句違わず記録している」
「あ……」
オスカーの喉から、間の抜けた声が漏れた。
(まさか…ずっと見られていたのか!?)
レオナルドが勘違いだったと引き下がったのは、自分を泳がせるための罠だったのだ。
完璧だと思っていた自分の策は、最初からこの冷徹な騎士の手のひらの上で踊らされていたに過ぎなかった。
「マリアが勝手に落ちた? 私は知らない?」
レオナルドは一歩、また一歩とオスカーに詰め寄る。
「ならばなぜ、殿下はこの井戸に向かって話しかけていた? なぜ、ノアが『パパの言うことを聞けなかった』と怯えている? ……殿下の罪は、誘拐や不法侵入よりも重く、醜悪だ。実の子供の命と心を、己の保身のための天秤にかけたのだからな」
周囲を取り囲む無数の視線にオスカーは言葉を失った。使用人たちの目には怒り通り越して、汚物を忌避するような冷たさがあった。
彼らが持っている松明の火が、まるで罪人を裁く業火のようにオスカーを照らし出している。
「や、やめろ……そんな目で……見ないでくれ!」
声が震え、必死にその視線を避けようとした。
逃げ場はなく、言い訳も通用しない。それが、自分の愛する家族を裏切り続け、最後に最悪の選択をした男に与えられた当然の報いだった。
その時、ノアを抱きしめていたエリザが、何かを決意したかのように立ち上がった。
その瞳に、オスカーに向けられていた哀れみや、妻としての義務感は微塵も残っていなかった。
あるのは母としての凄絶な怒りの炎だけだった。
彼の視線は、静かに冷え切った鋭利な刃のようで、誰もが触れることを恐れるような威圧感を放っていた。
「オスカー殿下。……三文芝居はここまでだ」
「な、何を言っている! 私は……!」
オスカーは本能的な恐怖を感じて後ずさった。
自分が完全に包囲されており、全ての嘘が暴かれたことを悟った。だが、彼の矮小なプライドと保身の執念が、見苦しい言い訳を口走らせた。
「ち、違う! 誤解だ! マリアが勝手に離れに入って、ガキ……いや、ノアと一緒に落ちたんだ! 私は何も知らない! 全てこの女が勝手にやったことだ!」
オスカーは指を震わせながらマリアを指差した。
「ふざけないでよ……!」
マリアは足の痛みに耐えながらも、声を絞り出して叫び声を上げた。
しかし、オスカーが二人を突き落としたわけではないのだから、その弁明は事の始まりとしては事実だった。
だが――。
「ええ、そうでしょうね。転落自体は事故だったのでしょう」
レオナルドの氷のような声が、オスカーの反論を切り捨てた。
「問題は『その後』だ。……殿下は彼らがこの井戸の底にいることを知っていた。知っていながら救助をせず、あろうことか蓋をして光を奪い、実の息子を脅迫するための道具として放置した」
「そ、そんな証拠がどこに……!」
オスカーが叫んだ瞬間、レオナルドの背後の暗がりから音もなくダークが進み出た。
「私がこの目で確認し、この耳で聞いておりました」
ダークの無機質な声が響く。彼はレオナルドの命令でオスカーを監視していた。
「『朝になれば泣きついてくるだろう。大人しくしていろ』……そう言い残して、殿下がこの板の上に土を被せていく姿を部下が見ている。マリアへの口封じと、ノアへの脅迫の言葉を、一言一句違わず記録している」
「あ……」
オスカーの喉から、間の抜けた声が漏れた。
(まさか…ずっと見られていたのか!?)
レオナルドが勘違いだったと引き下がったのは、自分を泳がせるための罠だったのだ。
完璧だと思っていた自分の策は、最初からこの冷徹な騎士の手のひらの上で踊らされていたに過ぎなかった。
「マリアが勝手に落ちた? 私は知らない?」
レオナルドは一歩、また一歩とオスカーに詰め寄る。
「ならばなぜ、殿下はこの井戸に向かって話しかけていた? なぜ、ノアが『パパの言うことを聞けなかった』と怯えている? ……殿下の罪は、誘拐や不法侵入よりも重く、醜悪だ。実の子供の命と心を、己の保身のための天秤にかけたのだからな」
周囲を取り囲む無数の視線にオスカーは言葉を失った。使用人たちの目には怒り通り越して、汚物を忌避するような冷たさがあった。
彼らが持っている松明の火が、まるで罪人を裁く業火のようにオスカーを照らし出している。
「や、やめろ……そんな目で……見ないでくれ!」
声が震え、必死にその視線を避けようとした。
逃げ場はなく、言い訳も通用しない。それが、自分の愛する家族を裏切り続け、最後に最悪の選択をした男に与えられた当然の報いだった。
その時、ノアを抱きしめていたエリザが、何かを決意したかのように立ち上がった。
その瞳に、オスカーに向けられていた哀れみや、妻としての義務感は微塵も残っていなかった。
あるのは母としての凄絶な怒りの炎だけだった。
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