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第77話 堂々とした妻の態度
エリザは、すがりつこうとするニーナの手をサッと避けると、冷ややかだがどこまでも丁寧な口調で告げた。
「……落ち着いてくださいませ、お二人とも。皆さんが見ていらっしゃいますよ。貴族として、そして騎士として、あまりにも見苦しい振る舞いではありませんか」
大人の余裕を持った完璧な正論。その氷のように冷静な声に、二人はハッとして泣き声を詰まらせた。
「それに、私に助けを求められましても、どうすることもできません。貴方たちに罰を与えたのは、王室であり、騎士団であり、そして貴女のご両親です。それは、貴方たち自身が選択した行いの結果に過ぎません」
「そ、そんな……冷たいこと言わないでくれ! あんたの一言があれば……!」
「そ、そうです! エリザ様の助けがあれば、私たちは救われます!」
「なあ、頼むから!」
その時、ブライアンが血走った目で顔を上げ、強引にエリザのドレスの裾を掴もうと手を伸ばした。
――その瞬間だった。
「エリザに気安く触れるな」
空気が凍りついた。レオナルドが音もなく一歩前に出たかと思うと、彼の手がブライアンの伸ばした腕を無造作だが万力のような力で掴み上げたのだ。
「ぐっ……!? 痛っ、ああああっ!」
「これ以上、エリザを煩わせるな。……その汚い手で彼女のドレスに一ミリでも触れてみろ。ここで舌と一緒にその腕を引き抜くぞ」
レオナルドの低くドスを効かせた声には、一切の誇張がない純粋な暴力の気配が満ちていた。歴戦の騎士が放つ本物の殺気。
「ひいいぃぃぃぃぃ……お、お許しを……!」
ブライアンは恐怖のあまり白目を剥きかけ、ニーナは悲鳴すら上げられずに唇を押し噛み、微かに歯を軋ませて背筋をぞくりとさせた。
「レオナルド様。もう十分ですわ」
エリザがそっとレオナルドの背中に手を添えると、彼はスッと殺気を引っ込め、汚物でも捨てるようにブライアンの腕を手放した。
這いつくばる二人を見下ろすレオナルドの目は、最後まで冷酷なままだった。
「お聞き苦しい時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」
エリザは周囲の客たちに向けて軽く頭を下げると、再び地べたを這う二人に視線を戻した。
「私から貴方たちに差し上げられる言葉は、一つだけです」
エリザは、春の花が咲き誇るような、この上なく美しく優雅な微笑みを浮かべた。
「さようなら。ごきげんよう」
それは、過去という名の泥水に対する完全なる決別と卒業の宣言だった。
エリザは踵を返し、二度と振り返ることはなかった。
「ママ、おそいー!」
少し離れた大通りで、無邪気に手を振るノア。
「ノア、ごめんね、待たせちゃって」
愛息に優しく微笑み返すエリザの腰にレオナルドが自然な動作で手を添え、二人をエスコートして光の溢れる雑踏の中へと消えていく。
後には、薄暗いテラス席の床に這いつくばり、自分たちが永遠に失ってしまったまともな人生の残骸にしがみついて、声にならない嗚咽を漏らし続ける滑稽で哀れな二人の姿だけが残された。
彼らが再び光の当たる場所へ戻れる日は、二度と来ないだろう。
「……落ち着いてくださいませ、お二人とも。皆さんが見ていらっしゃいますよ。貴族として、そして騎士として、あまりにも見苦しい振る舞いではありませんか」
大人の余裕を持った完璧な正論。その氷のように冷静な声に、二人はハッとして泣き声を詰まらせた。
「それに、私に助けを求められましても、どうすることもできません。貴方たちに罰を与えたのは、王室であり、騎士団であり、そして貴女のご両親です。それは、貴方たち自身が選択した行いの結果に過ぎません」
「そ、そんな……冷たいこと言わないでくれ! あんたの一言があれば……!」
「そ、そうです! エリザ様の助けがあれば、私たちは救われます!」
「なあ、頼むから!」
その時、ブライアンが血走った目で顔を上げ、強引にエリザのドレスの裾を掴もうと手を伸ばした。
――その瞬間だった。
「エリザに気安く触れるな」
空気が凍りついた。レオナルドが音もなく一歩前に出たかと思うと、彼の手がブライアンの伸ばした腕を無造作だが万力のような力で掴み上げたのだ。
「ぐっ……!? 痛っ、ああああっ!」
「これ以上、エリザを煩わせるな。……その汚い手で彼女のドレスに一ミリでも触れてみろ。ここで舌と一緒にその腕を引き抜くぞ」
レオナルドの低くドスを効かせた声には、一切の誇張がない純粋な暴力の気配が満ちていた。歴戦の騎士が放つ本物の殺気。
「ひいいぃぃぃぃぃ……お、お許しを……!」
ブライアンは恐怖のあまり白目を剥きかけ、ニーナは悲鳴すら上げられずに唇を押し噛み、微かに歯を軋ませて背筋をぞくりとさせた。
「レオナルド様。もう十分ですわ」
エリザがそっとレオナルドの背中に手を添えると、彼はスッと殺気を引っ込め、汚物でも捨てるようにブライアンの腕を手放した。
這いつくばる二人を見下ろすレオナルドの目は、最後まで冷酷なままだった。
「お聞き苦しい時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」
エリザは周囲の客たちに向けて軽く頭を下げると、再び地べたを這う二人に視線を戻した。
「私から貴方たちに差し上げられる言葉は、一つだけです」
エリザは、春の花が咲き誇るような、この上なく美しく優雅な微笑みを浮かべた。
「さようなら。ごきげんよう」
それは、過去という名の泥水に対する完全なる決別と卒業の宣言だった。
エリザは踵を返し、二度と振り返ることはなかった。
「ママ、おそいー!」
少し離れた大通りで、無邪気に手を振るノア。
「ノア、ごめんね、待たせちゃって」
愛息に優しく微笑み返すエリザの腰にレオナルドが自然な動作で手を添え、二人をエスコートして光の溢れる雑踏の中へと消えていく。
後には、薄暗いテラス席の床に這いつくばり、自分たちが永遠に失ってしまったまともな人生の残骸にしがみついて、声にならない嗚咽を漏らし続ける滑稽で哀れな二人の姿だけが残された。
彼らが再び光の当たる場所へ戻れる日は、二度と来ないだろう。
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