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謎の男
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国内最大の広さを持つ鉄道博物館。
1871年から現代まで、40本の古い蒸気機関車や列車、客車、そして役目を終えた新幹線等が並ぶ。
圧巻の光景だった。
電車については興味は無かったが、オレも男。プラモデルやロボで遊んでいた子供の頃もあったオレにとっては興奮を隠せなかった。
「それにしても、やけに人が少ないな。土曜日だというのに」
ここに入る前から、道は人通りも少なく、親子連れや鉄オタすらいなかった。ホームページに掲載されていた写真にはたくさんの人でごった返していたのに。何故……?
「何かお困りごとですか?」
「うわぁ!!」
急に声を掛けられ、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。ヌッと現れた背広の男は満面の笑みで話しかけて来たのだ。いつの間に後ろに? 足音すらなかった。
「館内はご静粛に願います」
男は大声を上げたオレに向かって笑顔で注意して来た。そもそも、急に話しかけて来たお前が悪いんだろ。
男に悪態をつきながら無視を決め込み、客車展示の方に向かった。後ろを向くと、男はオレの傍を離れず付いて来ていた。とてつもなく邪魔だ。
オレは立ち止まって、学芸員らしきこの背広の男に、聞いても良いですか、と、ぶっきらぼうに前置きをして、あの機関車について尋ねた、
「シトゥルスヌーという機関車について知りたいんですが、何か知っていますか?」
いくら気味の悪い人物が相手でも、オレは敬語で質問をした。他人に対し、礼儀も無い人間はクソくらえだと思っている。
質問してからすぐに、男はニッと歯を見せながら平然と言ってきた、
「シトゥルスヌーの機関車とは、死へと誘う交通手段ですよ」
「は?」
「貴方、人を蹴落としたことがおありですね?」
突然思いも寄らない事を聞かれ、顔をしかめた。何故こいつはそう断言出来る? 認めたようなものだが、何故か抵抗してしまった、
「そんな事……あるわけないでしょう?」
「シトゥルスヌーの機関車の事をお尋ねになったのは貴方で21656人」
「……は?」
桁違いの数字に、身の毛がよだった。
「その21656人の皆様は、人を蹴落とした末に呪いを掛けられた方々がほとんどでした。訳も分からず、夢の中やどこのソースか知れないニュースなどで見聞きした蒸気機関車に心を惹かれ、追い求めようとする方が後を絶ちませんでした。しかし、その人数以上の方がお亡くなりになられましたがね」
背広の男は一度大きく息継ぎをした後、また続けた、
「延べ10万を超えますか。ああ、ここ日本だけではありませんからね。汽車に乗られた内の方々は。汽車に乗り込まれ、私が知り得た細かい人数は機関士から受けた報告ですからね。それにしても、呪われてお亡くなりになるなんて、よほど阿漕な事をなされたのでしょう。客車から聞こえる断末魔は心地が良いと聞きます。イヒヒ……」
男は口元を手で覆い隠しながら気味悪く笑った。その声は館内に響き、何度も木霊した。オレは身を震わせながら思いに任せて尋ねた、
「あんた……ただの学芸員じゃねえな? あの機関車となんか関係があんのかよ」
「さぁ? どうでしょうねぇ~? イッヒヒヒ」
肩を小刻みに揺らしながら笑う男にオレは一瞥もくれずに背を向けた、
「……失礼する」
大股で出口に向かおうとすると、目の前で開いていた扉が急にバタンと強く閉まった。ドアノブを回し押し開けようとしてもビクともしなかった。
「お帰りになる事は出来ませんよ。何故なら……貴方にも死んで頂きますから。大丈夫……すぐに楽になります。もっとも、息は出来ませんがね」
男が真顔で手をかざすと目の前が真っ暗になった。
1871年から現代まで、40本の古い蒸気機関車や列車、客車、そして役目を終えた新幹線等が並ぶ。
圧巻の光景だった。
電車については興味は無かったが、オレも男。プラモデルやロボで遊んでいた子供の頃もあったオレにとっては興奮を隠せなかった。
「それにしても、やけに人が少ないな。土曜日だというのに」
ここに入る前から、道は人通りも少なく、親子連れや鉄オタすらいなかった。ホームページに掲載されていた写真にはたくさんの人でごった返していたのに。何故……?
「何かお困りごとですか?」
「うわぁ!!」
急に声を掛けられ、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。ヌッと現れた背広の男は満面の笑みで話しかけて来たのだ。いつの間に後ろに? 足音すらなかった。
「館内はご静粛に願います」
男は大声を上げたオレに向かって笑顔で注意して来た。そもそも、急に話しかけて来たお前が悪いんだろ。
男に悪態をつきながら無視を決め込み、客車展示の方に向かった。後ろを向くと、男はオレの傍を離れず付いて来ていた。とてつもなく邪魔だ。
オレは立ち止まって、学芸員らしきこの背広の男に、聞いても良いですか、と、ぶっきらぼうに前置きをして、あの機関車について尋ねた、
「シトゥルスヌーという機関車について知りたいんですが、何か知っていますか?」
いくら気味の悪い人物が相手でも、オレは敬語で質問をした。他人に対し、礼儀も無い人間はクソくらえだと思っている。
質問してからすぐに、男はニッと歯を見せながら平然と言ってきた、
「シトゥルスヌーの機関車とは、死へと誘う交通手段ですよ」
「は?」
「貴方、人を蹴落としたことがおありですね?」
突然思いも寄らない事を聞かれ、顔をしかめた。何故こいつはそう断言出来る? 認めたようなものだが、何故か抵抗してしまった、
「そんな事……あるわけないでしょう?」
「シトゥルスヌーの機関車の事をお尋ねになったのは貴方で21656人」
「……は?」
桁違いの数字に、身の毛がよだった。
「その21656人の皆様は、人を蹴落とした末に呪いを掛けられた方々がほとんどでした。訳も分からず、夢の中やどこのソースか知れないニュースなどで見聞きした蒸気機関車に心を惹かれ、追い求めようとする方が後を絶ちませんでした。しかし、その人数以上の方がお亡くなりになられましたがね」
背広の男は一度大きく息継ぎをした後、また続けた、
「延べ10万を超えますか。ああ、ここ日本だけではありませんからね。汽車に乗られた内の方々は。汽車に乗り込まれ、私が知り得た細かい人数は機関士から受けた報告ですからね。それにしても、呪われてお亡くなりになるなんて、よほど阿漕な事をなされたのでしょう。客車から聞こえる断末魔は心地が良いと聞きます。イヒヒ……」
男は口元を手で覆い隠しながら気味悪く笑った。その声は館内に響き、何度も木霊した。オレは身を震わせながら思いに任せて尋ねた、
「あんた……ただの学芸員じゃねえな? あの機関車となんか関係があんのかよ」
「さぁ? どうでしょうねぇ~? イッヒヒヒ」
肩を小刻みに揺らしながら笑う男にオレは一瞥もくれずに背を向けた、
「……失礼する」
大股で出口に向かおうとすると、目の前で開いていた扉が急にバタンと強く閉まった。ドアノブを回し押し開けようとしてもビクともしなかった。
「お帰りになる事は出来ませんよ。何故なら……貴方にも死んで頂きますから。大丈夫……すぐに楽になります。もっとも、息は出来ませんがね」
男が真顔で手をかざすと目の前が真っ暗になった。
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