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ハード:救世主の王国 龍宮寺エレナ
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巨大な猫はもはや別の名前をつけるべきでは?
と思いつつ、エレナは自らの相棒となった大きな猫としか呼べない姿をした動物らしきものを撫でた。
にぁと鳴く。その声は巨体から出したとは思えないほどにか細い。
「たま。ご飯を食べましょう」
ご飯という言葉にぴきーんと反応して近くにお行儀よく座るサマに苦笑しながら、インベントリから購入した巨大な肉を取り出して与えると、エレナがたまゆらと名付けた巨大な猫は飛びついてむしゃむしゃと貪りだす。肉食獣らしい荒々しさを感じる、豪快な食事だ。
ともすれば恐怖感さえ抱きかねない食事風景を、エレナは笑顔をもって見守った。
反して、心の中は――鬱陶しい。と、さざ波だっている。
エレナは自らの容姿が、周りに比べて美しいと呼ばれるものであることに自覚がある。
いっそ、一人でいられるクソゲが羨ましくなるほどに――人が周りにいるという状況を、鬱陶しく思っている。
(あぁ。でもダメか。多分、ペットスキルなんて難易度クソゲーじゃ無理そうだもんね)
ペット。
ペットである。
おそらくこれがゲームならテイマーなどとも呼ばれるかもしれない。そういった、いわば人外を仲間とする術。
初期状態では選択肢にないそれを生やし習得することに、エレナは成功していた。
エレナという少女にとって、人は味方ではない。
ずっとずっと、小さいころからそうだった。
だから、エレナはパーティーを組もうと思わなかった。
だから、敵が人の形をしていようと大した葛藤もなくさっくりとその活動を止めることができた。
むしろ、これが難易度ハード? と拍子抜けするほどに1階層目の主な敵である完全に村人といった風体の存在は弱かった。
怯え、震え、命乞いをした。
まれに攻撃はしてきても、やぶれかぶれだ。注意していればどうとなる範囲でしかなく、エレナは油断していなかった。
さすがに先に進めばこれ以外も出てくるんだろうな、と思いながら楽でいいなとすら思っていた。
身体強化を中心にスキルを取り、実践で成長させていく。
その最中に、ふと見かけたのが小さな猫だ。
こちらに攻撃してくるわけでもなく、背景のように見かければいつの間にか逃げていなくなるような存在。
気まぐれだった。
人は嫌いだが、動物は嫌いじゃなかった。
だから、見るたびに食べるかと何かしらを与えていた。
気まぐれだ。
日常ではやったことはなかった。鬼の首を取ったように揚げ足取りをしてくるやつがいることを知っているからだ。
見返りを求めていたわけじゃない。ただ、やってみたくてもやれなかった事を、ふと『ここなら別にやってもいいのかな』とやってみただけ。感謝をされるわけでもないが、その時確かにエレナには感じたことのない満足感があった。
それを数日続けていれば――いつの間にか、従魔というスキルを得ていたのだ。
(ふふ、仲間が猫だって。猫にしては大きすぎるけど)
今だ肉を貪るたまゆらの背を撫でる。
食事中だからか一瞬『やめてくれないかなー』という目線は向けたが苦情を言うわけでもなく続きを食べだすさまに、エレナは少し笑いたい気分になる。
(アニマルセラピーとかってあるんだっけ。あっちでやられても効果はあったのかなぁ。別に人が好きになるわけじゃないけど、確かに心の波はマシになる、なってる。猫信者になっちゃいそう。そういうの、あんまり好きじゃなかったけど)
そして、この情報を自ら掲示板等で伝えるという行動は、一切取っていない。
正直、クソゲの状況はエレナにして哀れに思う面があったので伝えても良いと思う範囲にあったのだが、こっそり伝えるすべがあるわけでもない。
多くに関わる面倒さと嫌悪感が勝ってしまった。おそらく、クソゲでは無理だろうと思ったのもある。
きっと、クソゲとそれ以外では大きすぎる壁があるとエレナは半ば確信している。
(ヘルまでは、多分、大人数のクリアが前提にされている。クソゲーだけはクリアされなくてもいい範囲にあるんじゃないかな。これを作った存在にとって)
運動が少しできる程度でしかない女学生が、ソロで強化し続けられている。
無理さえしなければ、時間はかかるが少しずつでも進むことが可能な仕組みになっている。
ポイントは少ないが、淡々と毎日村人もどきを狩り続けていけばそれでポイントはたまるし、スキルも強くなっていく。どうやらスキルの――所謂レベルというか、習熟度というか、そういったものはGシステムといわれるような特殊なものを取らない限り数値化や明示化されるわけではないらしいが、ある程度は体感でわかる。
今のエレナなら、素手で人の頭蓋骨を粉砕することができる。それも、全力でなく。
世界記録を超える速度で移動し、あまり疲れもせずに滑らかに攻撃に移ることができる。
ポイントで様々な格闘技にまつわる本を買い、動画を買い、動きを学ぶ。
それは我流でしかなく、やっている人間からは見れたものにはならない程度ではあるが――何もしないよりも洗練はされていく。そして基礎スペックが違うそれは、自然と実践の中で自分にあったものに変えられていく。
(ハードは、ソロで行ける。ただ――警戒すべきはやっぱり人間だ。殺す意味でも、そういう意味でもむちゃくちゃしだすやつが出てくる)
自分の容姿が優れていることを理解しているからこそ、そういう意味で狙われることも把握していた。
マイルームはともかく、共有スペースもダンジョンも攻撃は制限されないのだから、そういう人間は必ず出てくると確信している。
(人と組む気はない。ないけど――どうしても、ソロでは効率よく進んで強化している人間には届かない。手段を考えないと、押し負ける――強くなったって、それはここにいる人間なら全員そうなんだから。差を、どうにかする手段を)
日常よりも鬱陶しさがなくなったと思えば、やはり自分を悩ませるのは人間だ。
そう思い、エレナはため息を吐く。
(というか、人間同士で争いさえしなければ、もっと効率よく簡単に終わらせられる。私がいうことでもないけど、邪魔になってるのはやっぱりそういう人間なんだよ。クリアという目標に対する敵は、モンスター以上に人間なんだよ結局)
「……って、わわ! やめて、たま、肉、お肉口についたままとびかか……」
しかし、そのため息を気にでもされたかじゃれついてくるたまゆらにじゃれつかれて、苦笑する程度の余裕は残っていた。
「にぁー」
「にぁーじゃない……痛い、舌ざらざらなの痛いから。削れちゃうから! 皮膚! 皮膚が!」
と思いつつ、エレナは自らの相棒となった大きな猫としか呼べない姿をした動物らしきものを撫でた。
にぁと鳴く。その声は巨体から出したとは思えないほどにか細い。
「たま。ご飯を食べましょう」
ご飯という言葉にぴきーんと反応して近くにお行儀よく座るサマに苦笑しながら、インベントリから購入した巨大な肉を取り出して与えると、エレナがたまゆらと名付けた巨大な猫は飛びついてむしゃむしゃと貪りだす。肉食獣らしい荒々しさを感じる、豪快な食事だ。
ともすれば恐怖感さえ抱きかねない食事風景を、エレナは笑顔をもって見守った。
反して、心の中は――鬱陶しい。と、さざ波だっている。
エレナは自らの容姿が、周りに比べて美しいと呼ばれるものであることに自覚がある。
いっそ、一人でいられるクソゲが羨ましくなるほどに――人が周りにいるという状況を、鬱陶しく思っている。
(あぁ。でもダメか。多分、ペットスキルなんて難易度クソゲーじゃ無理そうだもんね)
ペット。
ペットである。
おそらくこれがゲームならテイマーなどとも呼ばれるかもしれない。そういった、いわば人外を仲間とする術。
初期状態では選択肢にないそれを生やし習得することに、エレナは成功していた。
エレナという少女にとって、人は味方ではない。
ずっとずっと、小さいころからそうだった。
だから、エレナはパーティーを組もうと思わなかった。
だから、敵が人の形をしていようと大した葛藤もなくさっくりとその活動を止めることができた。
むしろ、これが難易度ハード? と拍子抜けするほどに1階層目の主な敵である完全に村人といった風体の存在は弱かった。
怯え、震え、命乞いをした。
まれに攻撃はしてきても、やぶれかぶれだ。注意していればどうとなる範囲でしかなく、エレナは油断していなかった。
さすがに先に進めばこれ以外も出てくるんだろうな、と思いながら楽でいいなとすら思っていた。
身体強化を中心にスキルを取り、実践で成長させていく。
その最中に、ふと見かけたのが小さな猫だ。
こちらに攻撃してくるわけでもなく、背景のように見かければいつの間にか逃げていなくなるような存在。
気まぐれだった。
人は嫌いだが、動物は嫌いじゃなかった。
だから、見るたびに食べるかと何かしらを与えていた。
気まぐれだ。
日常ではやったことはなかった。鬼の首を取ったように揚げ足取りをしてくるやつがいることを知っているからだ。
見返りを求めていたわけじゃない。ただ、やってみたくてもやれなかった事を、ふと『ここなら別にやってもいいのかな』とやってみただけ。感謝をされるわけでもないが、その時確かにエレナには感じたことのない満足感があった。
それを数日続けていれば――いつの間にか、従魔というスキルを得ていたのだ。
(ふふ、仲間が猫だって。猫にしては大きすぎるけど)
今だ肉を貪るたまゆらの背を撫でる。
食事中だからか一瞬『やめてくれないかなー』という目線は向けたが苦情を言うわけでもなく続きを食べだすさまに、エレナは少し笑いたい気分になる。
(アニマルセラピーとかってあるんだっけ。あっちでやられても効果はあったのかなぁ。別に人が好きになるわけじゃないけど、確かに心の波はマシになる、なってる。猫信者になっちゃいそう。そういうの、あんまり好きじゃなかったけど)
そして、この情報を自ら掲示板等で伝えるという行動は、一切取っていない。
正直、クソゲの状況はエレナにして哀れに思う面があったので伝えても良いと思う範囲にあったのだが、こっそり伝えるすべがあるわけでもない。
多くに関わる面倒さと嫌悪感が勝ってしまった。おそらく、クソゲでは無理だろうと思ったのもある。
きっと、クソゲとそれ以外では大きすぎる壁があるとエレナは半ば確信している。
(ヘルまでは、多分、大人数のクリアが前提にされている。クソゲーだけはクリアされなくてもいい範囲にあるんじゃないかな。これを作った存在にとって)
運動が少しできる程度でしかない女学生が、ソロで強化し続けられている。
無理さえしなければ、時間はかかるが少しずつでも進むことが可能な仕組みになっている。
ポイントは少ないが、淡々と毎日村人もどきを狩り続けていけばそれでポイントはたまるし、スキルも強くなっていく。どうやらスキルの――所謂レベルというか、習熟度というか、そういったものはGシステムといわれるような特殊なものを取らない限り数値化や明示化されるわけではないらしいが、ある程度は体感でわかる。
今のエレナなら、素手で人の頭蓋骨を粉砕することができる。それも、全力でなく。
世界記録を超える速度で移動し、あまり疲れもせずに滑らかに攻撃に移ることができる。
ポイントで様々な格闘技にまつわる本を買い、動画を買い、動きを学ぶ。
それは我流でしかなく、やっている人間からは見れたものにはならない程度ではあるが――何もしないよりも洗練はされていく。そして基礎スペックが違うそれは、自然と実践の中で自分にあったものに変えられていく。
(ハードは、ソロで行ける。ただ――警戒すべきはやっぱり人間だ。殺す意味でも、そういう意味でもむちゃくちゃしだすやつが出てくる)
自分の容姿が優れていることを理解しているからこそ、そういう意味で狙われることも把握していた。
マイルームはともかく、共有スペースもダンジョンも攻撃は制限されないのだから、そういう人間は必ず出てくると確信している。
(人と組む気はない。ないけど――どうしても、ソロでは効率よく進んで強化している人間には届かない。手段を考えないと、押し負ける――強くなったって、それはここにいる人間なら全員そうなんだから。差を、どうにかする手段を)
日常よりも鬱陶しさがなくなったと思えば、やはり自分を悩ませるのは人間だ。
そう思い、エレナはため息を吐く。
(というか、人間同士で争いさえしなければ、もっと効率よく簡単に終わらせられる。私がいうことでもないけど、邪魔になってるのはやっぱりそういう人間なんだよ。クリアという目標に対する敵は、モンスター以上に人間なんだよ結局)
「……って、わわ! やめて、たま、肉、お肉口についたままとびかか……」
しかし、そのため息を気にでもされたかじゃれついてくるたまゆらにじゃれつかれて、苦笑する程度の余裕は残っていた。
「にぁー」
「にぁーじゃない……痛い、舌ざらざらなの痛いから。削れちゃうから! 皮膚! 皮膚が!」
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