十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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イベント領域 本上如月

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 モンスターが減った、という情報を得て思考に没入する方を優先していた如月は単独でイベントに突入していた。
 そうしてみれば、確かにその数は減っている。
 明らかに、襲ってくる数も、見える数も少ない。

 心なしか、イベントステージが広くなった印象さえ持ってしまう。
 もともと、行き止まりが見えないほどの広い広い塩辛い水たまりの、海を現しただろうステージ。

 水中専用スキルにそれほど魅力を感じていない如月は、代用に風スキルの応用でボンベのような役割を果たすことで呼吸を可能にしている。

(Gシステムは便利だったが、こういう時はきっと不便だな。あれは応用というものが効かない。やはり、ポイントを大きく支払ってでも切り替えたのは英断だった――低難易度ならきっと最適解の一つたり得るが、恐らく、一定難度以上なら、Gシステムは罠たり得る――クソゲあたりが使っていると想像したらとてもとても楽しいのだけれど、きっとそれはないかな)

 どの難易度でも使うものが多くみられるらしいGシステムという、ポイントで習得できる戦いの形。
 G、ゲームを模したものを、自分の体に実装するというもの。

 それはある種の救済措置に見えた。
 例えばRPGなら職業選択ができる。職業選択をしたら、剣を使うにも何を使うにも、最適の動きでやってくれるのだ。

 言い換えれば――やらされる。
 そうあるべし、という動きをなぞるのだ。

 それは確かに、全くの素人よりはよほど役に立つものだった。
 ただ、応用が効かないものである。

(動きは同じ。威力は据え置き。ちょっと範囲を広げたり、狭めたりという融通も利かない。現実感が失せるのを加速させるようなHPだとかそういうものが付随してしまう――そして、アレを使っている限り、使わない場合に置いてのスキルや身体操作の感覚は全く上昇しない)

 対応される。
 モンスターは、一定難易度以上なら同じロジックで行動してくれたりしない。
 如月から見ても、明らかにモンスターというものはこちらを見ているのだ。

 同じことをすれば、慣れる。
 同じような行動をすれば、悟られる。

 そして、Gシステムを使っている限り、ベテランになろうが最初から最後まで同じ攻撃だ。Gシステムを実装した経験はそれ以上に昇華しない。決められたゲームのキャラクターのように。

 例えばRPGシステムなら、使ったスキルは発動した時点でキャンセルなどできないのだから。必然そんな隙は狙いやすいだろう。相手はいつでも同じではないのだから。

 レベルが上がれば強くなる。
 そういうデータがあって、そうなる。

 STRが上がれば攻撃力が上がる。
 攻撃力とは何か?
 筋力が上がるのか?
 筋力が上がれば踏み込み速度等はどうなるか?
 何故AGI値には干渉しないのか?

 等、そういう問題は全て置き去りにされる。RPGでそんなことを気にする者はいない。
 そういう仕様だからそうなのだ。それで話は終わりだ。
 ゲームとはそういうものだから。

 レベルが上がれば、同じ行動、同じタイミング、同じ速度、同じ力の入れ具合――そう見えても、実際に威力が物理的に上がっている。

 そして、実装したものは、そう簡単にそれを疑わない。
 疑えない。

 だって、実装されたゲームのキャラクターだから。
 デメリットがあるのだ。
 都合のいいシステムなどではないのだ。

 しかし如月としては、低難易度ならばそのデメリットを享受しても出口にたどり着くという目的ならば有用だとは思っている。

(このイベントはそういったものシステム導入者に対して強かった。意思が強いものが多すぎるくらいいた……
 けど、いなくなったな。ここにいるのは、ほとんどもうでくの坊NPCだ。これなら、むしろ実装しているほうが淡々と終わらせられるくらいにつまらない。あぁ――意思がないものは、本当につまらない。もし、これが不本意であろうが、それが見えないなら私はつまらないんだ――やはり、わかりやすいくらい見える方が色がある)

 向かってくるものだけを淡々と作業のように散らしてく。
 それは、如月にとって苦痛さえ伴う時間だ。色がない時間を思い出してしまって苦痛なのだ。

 恐怖がない。歓喜もない。
 飢えも感じない。敵意もない。

 そういった衝動も皆無。
 ただ向かってきて、ただ攻撃してくる。

 水の抵抗など一切感じさせない勢いで振られる――所謂メイスなどと呼ばれるだろう鈍器。
 先端に凸凹した重しが付いた鈍器。

 それが直撃するのだ。
 陥没ではすまず、海に溶けるジュースにされていく。

 如月が行っていることは、物理に風と土のスキルの併用。
 先端の重り部分を高速回転させながら、その周りを乱回転する風で包み込んでいる。
 風は、重り部分が接触するまでは邪魔をしない。当たった時点でそこを回転に含むのだ。

 それはミキサーだ。
 当たれば、その速度に、その回転に、耐えきれぬ程度の硬さなら、バラバラにする、ジュースにされるミキサーだ。

 名前のある攻撃スキルではない、操作によって生み出されるもの。制御を失敗すれば手元部分まで回転して手がずたずたになったり、先端の重りがねじり切れて飛んできたリ、風の乱回転に巻き込まれたり、回転が小さくならずにこちらごと周りを細切れにしようとする竜巻を発生させたりするリスクがある、操作による超常の力だ。

(本当に、我々は優遇されている。楽しくなるほどに、逆側は哀れだ。あぁ――やり方次第では、ポイントなど本当に最低限でいいのだ。趣が違うクソゲだけは理解が及ばないけれど、ヘルまではそう変わらないだろう……移動してみて、確信が持てたな)

 一部で研究や研鑽を積んでいるものはいるが、人は楽に流れやすいものだ。
 魔法のようなことができる。

 それを使いたいと思う。
 面倒な手段がある。面倒な練習をする必要があって、そしてそれをしたところで現実やりたい通りになるかどうかわからない。

 狙った現象を起こせる手段がある。それはポイントという対価を支払えば得ることができる。面倒な練習も必要なく、最低限その機能を果たすことはできる。熟練することによって、前者よりも簡単に応用を利かせることもできる。

 後者をとって、なんらおかしくない。
 なにせ、無くならないとはされていても命を狙われているのだ。

 敵がいるのだ。
 隣にいる同種族もそうなるかもしれないのだ。
 即座にできる防衛手段をとっても、それの何が悪いという話ではある。

(まぁ――その、恐らく救済措置めいたそれに耽溺したままじゃぁ、こういう領域にはこれないんだろうねぇ……ナイトメアあたりからは、ある程度必須になるとはいえ、基礎の基礎からやらないとだめ、というほどきつくもない。本当に、本当に親切だ。いや、それも罠にするのか? わからないなぁ。状況に対して、何をしたいのか、させたいのか――)

 作業を行いながら、何度も考えた『拉致した目的』を考えるが、やはりそれは思いつくことができなかった。

(今の私と同じような性格? いや、それならもっと大きな塊にして、コミュニティ同士の争いとかも発生するようにしたり、罠を仕掛けたり疑心を誘ったり色々やるはず。なんていうか、幅が広い。選択肢も与えられている。クリアが何を意味するかは置いておいても、嫌ならそれで少なくとも『この状況は』やめられはするのだから――そこに本当の目的でもあるのかな? クリアさせること自体が目的とか?)
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